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第126話「逸材」

『炎城ピレゴリウス』城内にて、獣達のぶつかり合う音が響き渡る――。

 

「いやぁ、狐くんさぁ。少しは加減してくれないかなぁ? 僕は見ての通り手負いだよ? それも重症だ」

「なにをバカな。もう完治しているでありんしょう。それも猫の特性でありんすか?」

 

 キャルロットとセリナはお互い一歩も譲らない。そして、セリナの言う通り、キャルロットの傷は完治していた。装いが血で真っ赤に染まっている以外は全て元通りであった。

 

「……これはバステト様の恩寵(おんちょう)さ。僕はあの方に全てを捧げている。身も心も全て……これはその力さ」

「うむ……バステト。やっかいな神じゃな」

「……そうだね。私もあの神は嫌いだよ。豊穣を司る淫乱女神め」

 

 エルブレイドもどうやら知っていたようだ。

 

「……淫乱とは聞き捨てならない。愛と言って欲しい。僕はあの方の愛を授かったんだ。その恩は返さないと行けない。猫の恩返しってやつさ」

「それが僕の母さん、アリア・シーネットを探す事ですか」

「そうさ。僕はバステト様の為にアリアをずっと探していた。君に手を貸せば見つかるかと思ってね。そして僕はついにコルネット村という小さな村にアリアが居るという情報を手に入れた」

「それは龍神ハクが現れた時の事ですか」

 

 ハクが現れる前、この猫は手を貸してくれた。しかし、タイミングが良過ぎた。フィーはそれを不審に思っていた。

 

「……そうさ。龍神ハクは僕では勝てない。まさか彼女が出てくるとは思わなかった。だから僕は、君達の戦いが終わるまで少し遠い所で見ていたのさ。……だけど、全てが終わった後見に行って見ればアリアが居ないじゃないか。龍神ハクが燃やしたのかと思って探してみたが、その痕跡すら見つからなかった……。程なくして神マキナが現れたのでね、僕は直ぐにその場を離れることになった訳さ」

「僕達……いえ、フィー達に『虎車』を貸しに来たのはその為ですか」

「まぁね。僕もあの村に用があったから、たまたま近くに居たのさ。そこで僕は考えた……君達が龍神ハクに敗北した後、探しに行こうとね。……まぁさっきも言ったけど、失敗に終わったんだけど」

 

 エルザの勘はいつも正しい。エルザはフィーに気を付けろ(・・・・・)と言っていた。僕も、今それを実感した。この猫の獣人は最初から僕らを利用していたんだ。猫の手も借りたいなんて言うけれど、借りた結果がコレだ。猫の手なんて借りるもんじゃない。

 

「……もういいでありんすか? わっちはそろそろ待ちくたびれたでありんす」

「ごめんごめん、僕はつい話し込んでしまうクセがあってね。……それにしても狐くん、君実力を隠していた(・・・・・・・・)ね……? あのオーディンが作った世界で僕と戦った時、君は弱すぎた。驚く程にね」

「いいえ、わっちはあの時本気だったでありんす。ただ、わっちの分身体は本体の十分の一程しか力を出せないでありんすから」

 

 セリナは本気を出さなかったのではなく出せなかった。セリナの本体は初めからこの城から一歩も動いていなかったのだ。

 

「――なら僕も本気を出そうか」

「…………戯言を」

「そう思うかい? 僕達獣人にはね、一部の者だけが使える特性があるんだ。聞いたことはあるかい? 『獣化(・・)』という言葉を」

 

『獣化』 獣人特有の『強化技術』。

 

 獣の本能を解放し、本来の力の何倍もの力を引き出すものだ。


「君も一応獣人なら出来るんじゃないのかい?」

「……わっちはそんな醜い姿にはなりたくないでありんす」

「そうかい。使えないのか、それとも出し惜しみをしているのか分からないけど、後者なら後悔するよ?」

 

 今より更に強くなるのは厄介すぎる。でも、今の僕に止める(すべ)がない。

 

 そう思っているとついに暫く戦いを見守っていた男が前に出た。

 

「――そこまでじゃ! 両者引けっ!」

 

 人類最強と名高いエルブレイド・スタイリッシュが声を上げた。

 

「……なんだいエルブレイド。まさか僕を止める気かい?」

「うむ、お主に『獣化』で暴れられたら、ワシの大事なこの城が無事ではすむまい」


 勝手に居座っているだけだろうに。と、ここで言うのは野暮だろうか。せっかくエルブレイドがカッコつけているんだし、僕は発言を控えておこう。


「…………あはははははは!!! なら止めてみれば良いじゃないか! 僕をさ!!」

 

 ――キャルロットは『獣化』を開始した。

 

 キャルロットの体はみるみるうちに大きくなり、纏っていた鎧は弾け飛び獣本来の体が剥き出しになる。爪はより鋭く、体は筋肉質に。それは一目見ただけで、その体に刃が通らないと分かる程だ。

 

「僕は『獣化』を扱える者の中でも特に珍しい圧倒的な防御とパワーに特化した獣人なのさ。『獣化』した今の僕はエルブレイド、君でさえ勝てない!」

 

 その凄まじい迫力にアスフィは声も出せなかった。

 神では無くなった、アイリスもまたその内の一人。

 

 この場で冷静さを維持していたのは、三名のみ。

 

 オーディン、セリナ、エルブレイド。

 

「――君達、あまり強がるんじゃないよ! 本当は僕のこの姿に声も出せないんだろう! そこの二人のようにね!」

「……やれやれ、神である私が君如きに怯えるはずがないよ」

「オーディン! 君は後だ! まずはエルブレイド!! お前を殺す! 人類最強? ふざけるな! 君が人類最強なら僕は獣人最強だ! ……いや、今の僕は神でさえ恐くない!」

 

 キャルロットは雄叫びをあげた。その声は城内に響き渡る。

 しかし、それでもやはり動揺しない者達が居た。

 

「うむ……それは難しい話じゃないかの」

「……なんだと?」

「実はワシの息子が手紙を寄越しておってな。ワシのことを気に入らない筈なのに律儀なやつじゃよ全く……」

「……何の話だ!!」

「まぁ慌てるでない。ワシの息子の手紙にはこう書かれていた。逸材を見つけた(・・・・・・・)とな」

 

 エルブレイドは嬉しそうに言う。息子の手紙を懐かしむように。そしてそれは未だエルブレイドは大切に持っていた。エルブレイドは懐からボロボロになった紙を一枚取り出した。

 

「これがその手紙じゃ。ワシの宝物なんじゃ……」

「そんな紙切れが宝物? はっ! 僕にはゴミにしか見えないね!」

「……ワシにとっては宝物なんじゃ……そしてこの手紙にはある名前が書かれておってな」

「……名前だと?」


 

『拝啓

 

 

 私は父上、ついに逸材を見つけました。

 

 かつて私はあなたに弱いと、そう言われました。

 

 私は深く気付きました。

 

 親父テメェ老い先短いクセに口だけは達者だな!

 

 と、思ったことも何回もあります。本当です。何度恨んだ事か。


 後ろから首を絞めてやろうかと。いえ、話が逸れました。


 しかし、あなたは正しい。父上、あなたの言う通りエルザは私よりも強くなりました。

 

 あなたの孫は恐らくこのまま行けば、あなたと同等、もしくはそれ以上になるかもしれません。

 

 しかし、父上。今回私が見つけた逸材というのはエルザでは無いのです。

 

 私が見つけた逸材は、獣人の少女です。

 

 名をレイラ・セレスティア。

 

 あのレイモンド・セレスティアの娘です。

 

 彼女はまだ父親がレイモンドとは気付いておりません。

 

 いずれ、気付く時が必ず来るでしょう。

 

 その時、彼女は強くなる。獣人最強の名は彼女のモノになる事でしょう。

 

 彼女の成長の速さもそうですが、私が特に恐ろしいと感じたのは彼女の『獣化』です。

 

 私はあなたの次に恐ろしいと、そう感じました。

 

 かのキャルロット王子よりも強くなるでしょう。

 

 申し訳ありません、エルザの話をしたい所でしたがここで終わりにします。

 

 クソ親父はやく帰ってきて下さい』


 手紙はここで終わった。

 

「…………僕より強い獣人……? あっはははは! エルフォードも落ちたもんだね! そんなのいる訳な――」


 一瞬だった。抜刀の瞬間を目にしたのはこの場では二名のみ。


「ワシの息子をバカにするもんじゃないぞ、猫よ」


 キャルロットの首が宙を舞った。

クソ親父……

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