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第117話「幻想世界、帰還」

ご覧いただきありがとうございます。

幻想世界編は一旦この話で終わりを迎えます。最後までお楽しみ下さい。

 どうやら僕はアスフィ・シーネットになってしまったみたいだ。それも全ては僕の心が死んだからだ……。僕の中のケンイチが。

 

「ねぇアイリスさん」

「……さんは辞めてください。いつものようにアイリスと、お呼びください」


 僕はそのいつものようにが分からない。記憶が無い訳じゃない。ただ、感情が理解出来ない。僕であって僕じゃないからだ。


「えっと……なら僕の事もアスフィと呼んで下さい」

「……承知しました。では、アスフィと呼ばせて頂きます」

「はい、ありがとうございます」

「あはは……面白いね、フィーくん。君の内に混じっていた者がまさかこんなバケモノだったとはね……いやはや、人生何が起きるかわからないもんだね……」

 

 水の弾丸でズタズタにされ胴体に複数の穴が空いている重症のキャルロット。しかし彼はまだ息絶えてはいなかった。

 

「……本当にしぶといですねあなた」

「良いじゃないか……どうせ僕はもう助からない…………雑談にくらい付き合ってくれよ」

「エルザを助けたいです。キャルロットさん何か知りませんか?」

 

 エルザは僕が死なせてしまった。母さんの息子である僕が……。それは許されない、絶対に。

 

「あはは……キャルロットさんね……まさかそのバラバラになっているお嬢様を蘇らせるとでも言うつもりかい?」

「はい、そうです。僕はアリア母さんの息子ですから」

「…………………………アリア、ねぇ……結局何者か分からないままだったな……僕は成し遂げることが出来なかった……」

 

 キャルロットは仰向けになり、空を見上げた。

 

「………………ああ、バステト様……僕は………………貴方…………に……………」


 キャルロットの目から光が消えた。


「……やっと静かになりましたか」

「そうですね。先程戦っていた相手とはいえ少し心が痛みます」

「アスフィ、その感情は必要ありません。それよりもあなたは怒るべきです。友人が亡くなったのですから」

「……そうですね、アイリスの言う通りでした」

 

 僕は命潰える敵の姿を見て、悲しいと……そう思ったのか。

 なんて愚かなんだろう……。僕にとっても大事な人な筈なのに。

 

「アイリス、僕はエルザを助けます」

「……どうやってですか? エルザさんの傷は癒すことができません」

「……そうですね。なので、母さんに治してもらう事にします。僕はパーツ(・・・)だけ元通りにします」

「………………パーツ……ですか」

 

 アスフィの言葉に少し悲しげな顔をするアイリス。

 そしてアスフィはバラバラになったエルザの遺体に向かって杖を向けると、たちまちそれは元通りになった。眠っている様に見えるが死んでいる。

 

「凄いですね、アスフィ」

「……いえ、これくらい出来て当たり前です。しかし、僕ではその命に炎を灯すことは出来ません」

「あなたの母なら出来ると?」

「はい、その筈です」

「しかしその母親は『呪い』によって犯されていますよ。その上、行方が分かりません。どうする気ですか?」

 

 僕はエルザを何としても助ける。……そうでしょ、フィー。

 

 ……返事は無い。


「僕の母さんは『呪い』なんかにはなっていないと思います」

「……何故そう思うのですか?」

「僕の母さんだからです」

「…………理由になっていませんね」

「会えば分かります、さぁ行きましょう」

「何処にですか? そもそもここはオーディンの作った幻想世界です。一度戻る必要が――」

 

 《いいよ、戻してあげる! 》

 

「オーディン……やけにあっさりしていますね。それに……いえ、何でもありません」

 

 《アイリスも大変だったね! ……フィーの事は残念だよ。私も助ける事が出来なかった》

 

「仕方ないです。お兄様はよく頑張りました」

 

 《お兄様、ね。君はもう人間(・・)になったんだね……少し寂しいよ》

 

「…………すみません」

 

 《………………暗いのは無しだ! さぁ、向こうに戻すよ! 多分もうここに来ることは無いと思う! 》

 

「ええ、そうあって欲しいですね」

 

 《それでいいかい? アスフィ(・・・・)

 

「……はい、お願いします。オーディンさん」

 

 《……はぁ……全く、こんな短い時間で二度も寂しい思いをするなんて思わなかったよ。じゃあ、向こうでまた会おうね! 》

 

 視界が白くなっていく。

 

「……エルザをお願いします」

「どうする気ですか、アスフィ」

 

 アスフィは安らかに眠っているエルザをアイリスに託し、倒れたキャルロットに向かって歩いていく。そして――

 

「……………正気ですか?」

「……はい、僕は正気ですよ」

「その方が何をしたのか、知らない訳ではないでしょう」

 

 アスフィはそれをする事が当たり前かのようにキャルロットを抱き抱えた。

 

「この方は僕の友人を殺しました。でも、だからこそ聞き出さないといけない情報があると僕は思います…………それに、僕の前で誰かが死ぬのは誰であろうと嫌なんです」

「…………狂ってます……あなた」

「ははは……そうかもしれません」

 

 アスフィは苦笑いをする。その表情にアイリスは呆れた。

 

「わたくしはもう知りません。あなたへは何の感情もありませんから」

「フィー……ですか? アイリスが欲しいのはフィーなんですか?」

「ええ、そうです!! 分かっているのならわたくしのお兄様を……返して下さい!!」

 

 周りの視界が段々と白くなっていく中、アイリスは涙ながらに訴える。

 

「……すみません。今の僕にはどうしようもありません……本当にすみません、アイリス」

「………………もういいです」

 

 アイリスは涙を拭う。そうして世界は真っ白になり、一同は幻想世界から帰還した。

 


 ***



 《……なんとも悲しい結末だね》

 

 【そうかい? 私はそう思わないね。だってまだあの子達何も進んでいないし】

 

 《……そうかもしれないけどさ……って君に言っても分からないか》

 

 【………………ああ、分からない。私はただのシステム(・・・・)に過ぎないからね】

幻想世界編、これにて一度終了となります。

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