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第12話 「エルザの3分ショッキング」

レイラと一緒に、気づけばまたすごく騒がしいことに巻き込まれてる。

……でも、どんなことがあっても、諦めたりなんてしない。母さんの為にも。



時は少し遡る。

エルザが俺たちに 騎士団入団 を命じた――。


「ええ!?なんで!?」


「……意味わかんないよ」


突然のことに、俺もレイラも声を揃えて叫んだ。あまりに唐突すぎる展開に、動揺を隠せない。


「私は一度決めたことを覆さない!故に君たちが騎士団に入団することは 決定事項 だ!」


女王は堂々と宣言する。だが、俺たちにとっては到底納得できる話じゃない。


「いや、そもそも 理由を教えてよ」


「……うん、さすがに説明ほしい」


当然の疑問をぶつけると、エルザは「ああ!」と手を叩いた。


「忘れていた!」


……いや、忘れてたって何?こっちは人生に関わることなんだが。


「理由は三つ !」


女王は三本指を立て、堂々と語り始めた。


「一つ、私は外に出たい! 城は窮屈でたまらん!」


……は?


「……それ、僕らが騎士団に入るのと関係ある?」


「……うん、私たちいなくても、普通に出てるよね?」


冷静にツッコむと、エルザは 満面の笑み で頷いた。


「そうなのだ!だが、正当な理由があれば堂々と外に出られるではないか!」


いや、それに俺たちを巻き込むなよ 。俺とレイラは目を合わせ、ため息をつく。


「二つ!レイラの言う“怖カッコイイヒーロー”を見つけたい! そのためには、目撃者であるレイラと 行動を共にする必要がある」


これは……まあ、まだわかる。確かに俺も気になっていたし、エルザの立場なら その人物が何者かを知りたい というのも理解できる。


しかし、それだけでは 俺たちが騎士団に入る理由にはならない 。

俺たちはこの国の騎士団になるためにここに来たわけじゃないのだから。


「三つ!せっかく友ができたのだ!友と一緒に冒険をしたいではないか!」


エルザはまるで子供の様な笑顔で自信満々にそう言い放った。


……うん、知ってた。どうせ半分以上、私情だと思ったよ。


「三つ中、二つが 完全に王の個人的な理由 なんだけど?」


俺が冷ややかに指摘すると、エルザは 胸を張って 返してきた。


「そうとも!だが王の命令は絶対だ!」


その堂々たる態度に 開いた口が塞がらない 。


すると、その高らかな声を聞きつけたのか、王室の大扉が勢いよく開いた 。


「いけません!!エルザ様!!」


現れたのは、一人の メイド 。彼女は息を切らせながら、 必死な形相 で駆け寄ってきた。


「これ以上、王が外に出る と私たちも困ります!仕事が……なにより団長に怒られるんですぅぅぅうぇぇぇぇぇぇん!!!」


いきなり泣き崩れるメイド。


「なんだ、パパのことか。大丈夫だ、私から言っておく!」


エルザは 自信満々に胸を叩いた。


「パパは 私の言うことは守るからな! 怒るなと言っておく!心配するな!」


「それいつも言ってますけど……全然意味ありませんからぁぁぁぁ!!」


再び泣き崩れるメイド。どうやらエルザは 度々無断で城を抜け出している らしい。


……いや、もはや外出のプロなのでは?


「てか、なんでそんなに自由に外に出られるの?」


「フフフ……」


俺の問いに、エルザは 得意げに微笑んだ 。


「それは秘密だ!」


やっぱり城のセキュリティが終わってるのか、それともエルザの忍びスキルが高すぎるのか……。


何にせよ、メイドたちにとっては 迷惑極まりない話 だろう。


「で、話を戻すけど……」


俺は改めてエルザを睨んだ 。


「騎士団に入る件、僕らにに選択肢は?」


エルザは爽やかな笑顔で即答した。


「ない!」


「……知ってた」


俺とレイラは 頭を抱えた 。この日、俺たちの騎士団入りが決定してしまったからだ。


「えっと……団長って、エルザの父さん?」

「ああ、そうだ!エルフォード・スタイリッシュ。それが騎士団団長であり、私のパパだ!」


驚きの事実なのは間違いないが、それよりも今の状況の方がカオスすぎる。

メイドが泣きじゃくり、それをレイラが必死に宥めている。


「お構いなく……大丈夫です、いつものことですから」


別のメイドがため息交じりにそう言い、泣いているメイドの肩をポンポンと叩く。

「分かる、分かる……」と共感しながら、優しく慰めていた。


はっきり言って、現場はめちゃくちゃだった。


「ふむ、少し騒がしいな」


「誰のせいだよ」


「誰だ?」


お前だよ!とツッコミたくなるが、後ろのメイドの目があるので俺はあえて何も言わなかった。


「さて、どうだ?納得したか?」


「納得は……できない」


「それはなぜだ?」


「理由は三つ」


俺はエルザが提案してきたように、三つに分けて理由を話してやることにした。


「うむ、聞こうじゃないか」


「一つ、僕は騎士団に入隊しに来たんじゃない。母の呪いを解くために『解呪の才能』を持つ者を探しているから」


そう、俺の目的はそれだけだ。騎士団入りなんて完全に予定外。


「二つ!僕はまだ十二歳、レイラは十三歳だ。冒険者になれるのは十五歳から。だから冒険に出ることはできない」


これは俺たちにとって大きな壁だった。もし年齢制限がなければ、俺たちはすでに冒険者になっていただろう。俺達ではどうにも出来ない冒険者協会が定めたルールだ。


「三つ……僕はヒールしか使えない。だから騎士なんて器じゃない」


これは紛れもない事実。もし俺に攻撃魔法が使えたなら、もしくは剣を振るう才能があったなら話は別だ。だが、俺のスキルは純粋なヒーラー。戦うことを前提にした騎士団とは不釣り合いすぎる。


「なるほど……アスフィ、君の言い分は承知した。……だが残念だな!先も言ったが私は一度言ったことは覆さない!!」


「な!!?」


エルザは話が通じないタイプだった……。


「それに、一つ目の話だが、騎士団に入団するのはもちろんメリットがある」


「それはなに?」


「強くなれる。君たちはまだ弱い。少なくとも私より。レイラは騎士団の騎士たちと同等かそれ以上かもしれない。だがそれでも私より弱い」


レイラは顔を歪ませる。


「なんだレイラ、悔しいか?」


「……べ、別に」


レイラはどうやら気に入らないようだ。しかし、場をわきまえているのか、それ以上言葉を発さない。


「それに、騎士団に入れば母親の件も探しやすいだろう。私とクエストに同行することができるし、先も言ったが私の耳にはこの国の全ての情報が入ってくるからな!なにか情報が入れば君に伝えると約束する」


エルザは自信満々に言い放った。確かにそれは一理ある……。


「そして、二つ目だが確かに冒険者には十五歳からという年齢制限がある。騎士団も同様に十五歳という制限がある……だが――」


エルザは再び椅子から立ち上がり、両手を大きく広げる。そして――


「そんなもの私の王の権力でどうにでもなる!!!」


無駄に広い王室が一気に静まり返った。


「………それはもう反則じゃん」


「なんとでも言うがいい!!ハッハッハ!!」


エルザは誇らしげに笑い飛ばす。王の権力を盾にするなんて、もう話にならない。


「あと、最後の三つ目だがな。ヒールのみと言ったな」


「ああ」


「なら、私を治療してみろ」


「何を言って――」


俺が理解するその前に、事件は起きた。


エルザの左腕が落ちた。


「――――っ!!?」


大量の血が王室の床を真紅に染める。エルザは、あろうことか自らの剣で左腕を切り落としたのだ。


正気とは思えない行動に、場が一瞬静まり返る。


「キャアアアアアアア!!!」


メイドたちの悲鳴が王室に響く。


レイラは何かのトラウマを思い出したのか、震えながらうずくまり、口を押さえていた。


「おい!!何してるんだよ!!!?」


「こ、これを治してみろ……」


「何を言って――」


「早く……してくれ……さすがの私も、この状態が続けば死んでしまう。この王室に『ヒール』を使える者はいないのだ」


「だったらなんでこんな真似したんだよっ!!」


「……私はお前の回復の力を信じているから……」


エルザは片膝をつき、右手で切れた左腕の断面を抑えている。

足元には大量の血。このままでは、本当に死んでしまう。


「バカやろう!!!」


俺は躊躇なくエルザの元へ駆け寄った。


落ちている左腕を拾い上げ、切断面に押し当てる。


『ヒール』……じゃダメそうだな。


落ちた左腕を治すなんて、そんなこと本当にできるのか?


俺は動揺を隠せなかった。初めての状況に頭が真っ白になる。


だが、考えている時間はない。


「『ハイヒール』」


エルザの左腕が淡い光で包まれた。


そして――


「……ふぅ、助かった。ありがとうアスフィ」


「……助かったじゃねーよ!!お前バカなのか!!?俺が切った左腕を治せるなんて保証どこにもないのになにしてんだよ!!馬鹿だよ!お前は大馬鹿者だよ!!!」


俺の怒声は王室に響き渡っていた。メイドたちは怒らなかった。

彼女たちも同じことを感じていたのだろう。今は、安堵の色が広がっている。

失神している者、泣き崩れている者、何かを唱えている者。


そしてレイラはまだ口を押さえてうずくまっていた。


俺は怒りが収まらなかった。


「本当にすまない。いや、本当だ。許してくれ。……こうして人に怒られたのは何年ぶりだろうか……」


「……いやこっちこそすまん。でももう二度とこんなことをするな」


「ああ、分かった。誓うよ」


こうしてエルザの奇行――もとい、時間にしておよそ三分のショッキングな出来事は終了した。


「しかし、アスフィ。やはり君、猫を被っているな?」


「どういうことだよ」


「アスフィ君、『僕』じゃあなかったのかい?」


【そうか……やっぱりね……】


また誰かの声が聞こえた気がした。


「いやいや、別に君の勝手だ。好きにしてくれて構わないさ!」


「……アスフィ、怖かった」


「ごめん、レイラ」


レイラに『ヒール』をかけてあげた。何とか落ち着いたみたいだ。良かった。


「君の『ヒール』は傷を癒すだけじゃないのか」


「そうだよ。でもだからってもうあんなことは――」


「しないしない、さっき誓っただろ?」


俺は正直トラウマになりかけていた。この場にいる全員がきっとそうだ。ショッキングすぎた。こいつ、エルザは良い奴だ。それは間違いない。しかし、なにをしでかすか分かったもんじゃない。メイドの日々の苦労が伺える。


「……騎士団入隊の件。分かった」


「本当かい!?正直迷惑を掛けてしまったから強制するつもりはなかったんだが……」


「エルザを野に放つ訳には行かない」


「……私を魔獣かなにかと勘違いしているのか?」


「魔獣の方がまだマシだよ」


「ヒドイな!!?」


まあそんなのは建前だ。本当の理由は――


「レイラを強くしてやってほしい。自分の身を守れるくらいに」


「……うむ、なるほど。それはもちろんだ」


「……アスフィ」


俺はまだまだ弱い。今の俺はきっと魔物や魔獣が出てもレイラを守ることは出来ないだろう。怖カッコイイヒーローが来てくれない限り。母の件を解決するためにも、レイラにはもっと強くなって欲しい。


「レイラをドラゴンが出ても自分の身を守れるくらいに強くしてやってくれ」


「……善処しよう。だが、もしドラゴンが出ても私が倒してしまうがな!」


エルザは笑う。


「……約束だ」


「ああ!……だが、君はどうする?」


「僕は騎士なんて器じゃない。剣の才能がある訳でもないし」


「イヤ」


ここでようやくレイラがいつものレイラに戻った。


「アスフィが騎士団に入らないなら、レイラも騎士団に入らない!」


そう我儘なんだようちのレイラは。だけど、その気持ちは嬉しいものだ。


「そう言われても、僕は剣の才能ないしなぁ」


「……師匠の言葉忘れたの?」


ああそういえば言っていたな。


「ヒーラーといえど自分の身は自分で守れるに越したことはないだろう」


だったか……確かに忘れていた。ここ最近色々あったし何だか昔の出来事のようだ。まぁ実際あれ初めて言われたの五歳の頃だったしなぁ。昔と言えば昔だな。


「今思い出したよ……分かった。僕も入隊する」


「ありがとう!ではこれからよろしく頼む!アスフィ・シーネット、レイラ・セレスティア!」


こうして俺たちは騎士団に入隊することになったのだ。


「そういえばエルザって何歳なの?」


「私か?私は十五になるな」


「そうなんだ……って三つしか変わんねぇのかよ!!!」


「うむ?そうだが、私を一体いくつだと思っていたんだ?」


エルザは妙に大人っぽかった。外見だけだが……。


この世界では十五歳から大人だ。つまりエルザは大人になったばかりということだ。それにしてももっと上だと思っていた。エルザは背丈が高く、スタイルもいい。胸はレイラの方があるが決して引けを取らないくらいにはある。


「じーーーー」


「どうした?私の胸になにかついているか?」


「いや、別になにもついてないよ」


「…………アスフィのえっち」


この一件で俺たちは出会った時より仲良くなった。この一件という言葉で片付けられるような出来事ではなかったかもしれない。あまりにも衝撃的な出来事だ。だが、お互いがどんな人物なのかはだいたい把握することが出来た。今はそれだけで十分だろう。


この後、『エルザ片腕切り落とし事件』を聞きつけたエルザパパがやってきた。

レイラです。

アスフィが、エルザ女王の腕を必死で繋ぎ止めたあの時。

……レイラは、動けなかった。

怖くて、震えて、泣きたくなった。また盗賊の時のようになるんじゃないかって、そうおもったから。


……もし、アスフィの頑張りや、レイラたちの小さな一歩を応援してもらえたら、すごく嬉しい……です。

ブックマークや評価を頂けたらきっとアスフィも、レイラも、もっと強くなれる気がします。

これからも、見守っていてください。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 女王を 王女と呼ぶのは やはり気になるwww イギリスのエリザベス女王を エリザベス王女と呼ぶようなものだ 若いから王女の解釈なの? ヒーローとか この世界に普通に根付いた文化?なのも…
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