表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/285

第112話「目覚めの時」

 キャルロット、彼がついに本性を現した。今まで胡散臭い猫野郎だと思っていたが、どうやら俺の勘は珍しく当たっていたようだ。

 

「キャルロット、言っておくがこっちは三人だ。卑怯だなんて言わないでくれよ?」

「あはははは! まさか! ……むしろハンデにもなってないよ」

 

 どこから湧いてくるんだその自信は。俺とエルザの実力は知っている筈だ。セリナの事は知らないだろうが、だとしてもその自信は何処から湧いてくるんだ。油断は禁物だな。

 

「一つ聞かせてくれ」

「なにかな? アスフィくん」

「……マキナはどうした」

「…………殺したよ」


 ――ギンッ


「あはははははは! 単純だね! アスフィくん! それ程彼女が大事なのかい?」

 

 俺の剣を真正面から受け止めるキャルロット。悔しいが俺の渾身の一撃だった。それをさも当たり前かのような顔で受け止めやがる。

 

「……うるせぇ。お前の言葉なんか信じねぇ。マキナは強い。誰よりもな」

「それはゼウス・マキナ(・・・・・・・)であればそうだろう。僕なんかじゃ話にならない。戦えるとするならエルブレイドくらいだろう。それも勝てるとは言わないけどね」

 

 やはりこいつは殺しておくべきだった。あの時、俺がまだアスフィ・シーネットととして生きていた時に……!!

 

「しかしアレは……この世界にいる彼女は、彼女であって彼女じゃない。それは君も知っているだろう?」

「ああ、あいつはゼウス・マキナでは無い。その『半身』だ」

「……どういうことだアスフィ!」

 

 エルザが困惑しているが、説明する暇など無い。この猫野郎の前で少しでも気を逸らそうものなら俺の首が飛ぶ。


「後で説明するから話しかけんな!!」

「う、うむ。すまない……」


 少し言いすぎたかもしれないが、気を遣う余裕が無い。


 俺もこの幻想世界の中のマキナには違和感を感じていた。九割がマキナだとすると、残りの一割がそれがマキナでは無いと俺の心が否定する。しかし、ある筈がないと……そんな可能性があるとは思わなかった。考えなかったのでは無く、考えに至らなかったのだ。


 この世界のゼウス・マキナの正体は、俺が今も眠っている向こうの世界……そこで消えたゼウス(・・・)だ。

 俺に失われた記憶を見せる為、一方的に『盟約』を結んだ。彼女はその代償として存在が消滅した。……俺もそう思っていた。

 

 だが、実際は違った。ゼウスは生きていた。どういう訳かこの幻想世界のゼウス・マキナの器に入り込み、そうして彼女は俺の知るマキナを演じていた。

 

 ゼウス・マキナという人物は、元々一人の神だった。それが俺のせいで二人になった。

 

「記憶のゼウス」と『神のマキナ』の二人に。

 

 その「記憶のゼウス」が今、俺達が居るこの世界のゼウス・マキナの中に居る。全盛期のゼウス・マキナではあるがそれは器だけだ。中身は不完全なゼウスが入っている。

 

 操縦の仕方が分からないパイロットの様な状態だ。

 

 だが、中身がゼウスだろうと、俺はアイツを守る。あいつは俺の為にマキナを演じてくれていた。それに俺は気付かなかった……。

 

「……だったら助けるしかねぇよなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 ”今、俺の手には剣がある。そしてそれは立ち塞がる敵を切り伏せる”


 ――『一閃』

 

 目にも止まらぬ俺の剣撃。それを受け止めるキャルロット。

 

「……ちっ、駄目か」

「僕と剣の勝負がしたいならエルブレイドを呼んでくるんだね」

「私もいるぞ!」

 

 エルザが剣を抜き、キャルロットの背後に回り込んだ。

 

「ふむ、これは挟まれてしまったか。さて? どうするので?」

「こうするのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 エルザは初めから全力で行く様だ。『超身体強化』(ハイブースト)を掛け、キャルロットに突っ込んでいく。

 

「せっかく挟み撃ちにしているのに、連携がなってないね。さすがは脳筋お嬢様だ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!! 死ねぇぇぇぇ猫男ーーー!」

 

 エルザのやつ……荒ぶってんなぁ。

 

「残念だけど、死にはしない。死ぬのは君だけだエルザ(・・・)

 

「…………………………がはっ」


 何も見えなかった。気付けばあのエルザが血を吐いていた。

 

「だから勝てるわけないって僕言ったよね?」

「…………すまない、アス……フィ」

「喋るな! いま治療する!」

 

 エルザのお腹には無数の剣が通り抜けた跡があった。

 これをあの一瞬で何度も何度も剣を突き立てたってことか。

 それも貫通するほどの威力とスピードで……。

 

 なんてやつだ。実力を隠していたタイプかこいつ。

 俺はエルザのお腹に空いた無数の穴に向け唱える――

 

「『ハイヒール』」

 

 ……………………ん? なぜだ。

 

「『ヒール!』」「『ハイヒール!』」

 

 傷が塞がらない。


「おいどうなってんだ! 回復しろよ! お前は回復だけが取り柄だろうがよアスフィー! 早く治せよーーーー!!!」

 

 血が止まらない。


「無駄だよ。エルザには肉体がある」

「……なに?」

「分からないのかい? 君は向こうの世界から来たんだろう? オーディンの力によって。今の君達は言わば精神体なんだよ。……でも女王エルザは違う。向こうから肉体を持ったままオーディンに転送してもらいこの幻想世界にやって来た訳だ。精神体である君の魔法は、肉体を持つ者には効かない。当然の話だよ」

「そんな…………」


 俺に出来る事は何だ。何だってする。だからこれ以上俺から奪わないでくれ。俺は一体何度失えば気が済むんだ。……なぁ。

 

 オーディン! どうしたらいい! 頼む、教えてくれ! エルザが……エルザがこのままだと死んでしまう!!

 

 《フィーもしかして、私を大賢者か何かと勘違いしてないよね? 言っとくけど正確な答えは出せないよ? ヒントくらいならあげれないこともないけどさ! 》

 

 頼む! エルザを死なせたくないんだ! 俺に出来ることなら何だってする……!

 

 《……君なら治せるだろ? 》

 

 聞いただろ!? 無理なんだよ! こいつの体は実体だ。精神体である俺は実体であるこいつには干渉出来ないらしい!

 

 《……ならヒントをあげよう》

 

 ヒント?

 

 《そうだよ? 有り難い言葉だからよく聞いてね》

 

 あ、ああ。

 

 《この世界は誰のものだと思う? 》

 

 ……オーディン?

 

 《確かにそうだよ! そうだけどね、この世界を作るにあたってイメージの元になったのは誰かな? 》

 

 ……………………俺、か?

 

 《そうとも! 向こうで眠っている君がここにいるエルザを癒せば同じ実体同士、効果がある》

 

 だが今の俺はお前が今言ったように――

 

 《そう、眠っている。しかし一時的に目を覚まさせる事も出来る。私ならね! 》

 

 それが出来るとして、向こうで俺が目を覚ましてどうなる? この幻想世界は俺の中じゃないのか!? 俺が向こうで目を覚ましたら、この世界が閉じたりはしないのか!?

 

 《何か勘違いしている様だけど、ここは君の記憶を元に私が一から創った世界。君の精神世界ではないよ》

 

 ……そうか。しかし、肉体を持ったエルザはこっちにいる。向こうで目を覚ました俺が一体どうやって……

 

 《向こうで君が目を覚ましたら、直ぐにこちらに転送する。もちろん今度は肉体ごとね。……この幻想世界で君は順調に成長している。それも、一部本来の力を使えるぐらいにはね。だから少し目を覚ますくらいは出来るよ。……ただし、まだエーシルとの戦闘で蓄積された精神的ダメージは完治していない。目を覚ました後そのまま予告時間を過ぎれば、君は廃人になる。だから、急いで帰ってくるんだよ? 》

 

 廃人って……俺の体は何時間目を覚まして居られるんだ?

 

 《ざっと三時間ってとこだね。用事が済んだらもう一度肉体を向こうに返して精神体としてこちらに戻してあげるよ》

 

 つまり、向こうとこちらを行き来する訳か……面倒だが、エルザを救う為だ。仕方ない。

 

 《面倒で済むならそれが一番いいけどね》


 ちなみに、廃人になったら俺はどうなる……? 死ぬのか?


 《……さぁね》

 

 お前でも分からない事が起きるかもしれないってことか。それは最悪の結末になりそうだな。ならやる事は一つ。


 一瞬で帰ってくる。


 ――目を覚ませ、俺。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★ 面白かったら応援を! ★

★★★★★評価お願いします!

あなたの評価が、新たな物語を加速させます!


【カクヨム版も公開中!】 攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ