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第107話 「転換」【楓視点】

 目を覚ますと、見慣れない世界が広がっていました。死んだ筈の肉体。しかし服は制服のままでした。

 

「……あれ? どういうこと? というか楓死んだんだよね」

 

 まず間違いなく日本では無い光景に楓は戸惑いました。もしかして夢なんじゃないかと思い頬をつねってみましたが……

 

「……痛い……ってことは現実?」

 

 楓はよく分からない世界に迷い込んでしまったようです。

 

 

 ***

 

 

 暫く歩いていると、小さな集落を見つけました。

 

「……やっと見つけた……誰かいるかな? 居るといいなぁ」

 

 楓はその小さな集落に向かいました。

 

「あら? こんな何も無いとこにお客さんかしら?」

「……始めまして、楓と言います」

「ご丁寧にどうも。私はアリア・シーネットよ〜。それでカエデちゃんはこの村になにか用かしら〜?」

 

 胸の大きい茶髪の女性。声色から優しさが伝わってくる。

 

 この人はいい人だ。楓はそう直感しました。楓はこの女性に話を聞いてみる事にしました。

 

「ここ? ここはね、コルネット村って言うのよ〜」

「……コルネット村? 聞いたことありません」

「そうよね〜。こんな小さな村誰も知らないわよね」

「い、いえ! そういうことではありません!」

 

 女性は笑っていた。ずっとニコニコしている。なにがそんなにおかしいのか。楓にはそれがよく分かりません。

 

「良かったらウチにくる?」

「え……いいんですか」

「もちろんよ〜」

 

 楓には行く宛てなんかない。お腹も空いた……。

 

 優しいその女性は楓を家まで案内してくれました。

 

「おや? こりゃまた美人なお客さんだな!」

「あなた? 分かっていますね?」

「あ、ああ! もちろんだ! ガキに手を出す訳ねぇだろ!?」

「…………楓はガキじゃありません」

 

 たしかに身長は低いかも知れません。兄にはいつもチビと言われていたくらいです。

 

「俺はガーフィ・シーネットだ。よろしくな嬢ちゃん」

「よろしくお願いします、楓です」

 

 男らしくてすごく大きな体……。楓は少し見蕩(みと)れてしまいました。

 

「カエデか。いい名前だな」

「ありがとうございます、自慢の名前なんです」

 

 ガーフィさんとアリアさんはどうやら結婚しているみたいです。

 

「……元気ねぇな嬢ちゃん。何かあったのか?」

「……どこへ行けばいいのか分かりません」

「家は?」

「ありません」

「…………アリア」

「……いいわよ〜」

 

 ガーフィはアリアに何も言っていない。しかし、ガーフィの考えを読み取ったのかアリアはそれに返事する。

 

「……カエデ。行く宛てがないなら、俺達のとこに居ろ。期限はない。お前が居たいならずっとここに居てもいい」

「しかし、それはご迷惑なのでは……?」

「そうでもない。俺達にちいせぇガキが居てな。お前が良ければ、そいつの面倒を見てくれないか? それが条件だ」

 

 そんなのは条件にはなっていません。

 ですが行く宛てがない以上、楓はこの人たちの優しさに甘えることにしました。

 

「……任せて下さい」

 

 こうして楓はシーネット夫妻にお世話になることになったのです。

 

 ***

 

 

 ここに来てからどれくらい経ったのか。楓はシーネット家でアスフィという子供に勉強を教えることになりました。

 

「……で、ここはこうで」

「ありがとうございます!」

 

 とても真面目でいい子です。楓が教えられるのは日本で学ぶ簡単な算術くらいですが。

 

「そういえばカエデお姉ちゃんはいつまでウチにいるんですか?」

「……うーん、分かりません。アスフィが大人になる頃には居ないと思います」

「そうなんですね……ちょっと悲しいです」

 

 楓は敬語が抜けません。アリアさんにもっと柔らかくいこうと言われましたが難しそうです。

 

「…………お兄ちゃん」

 

 楓は喧嘩ばかりしていた兄の事を懐かしむようになりました。

 まだそれほど日が経っている訳では無い。けれど、ここに来て数日経ち分かりました。ここは日本ではないと。どういう原理か分からない。しかし、ここは日本ではない何処か。それも夢でもなく現実。もう会うことが出来ない兄。

 

「……カエデお姉ちゃん、外に出ましょう!」

「外、ですか?」

「はい! 実は友達が居るんです! 紹介します!」

 

 アスフィは友達を紹介すると言って楓の手を引っ張る。

 

 ……

 …………

 …………………

 

「……始め……まして。レイラ………です」

「初めまして、楓です」

「レイラ、固いよ!」

「……だって……緊張するんだもん」

 

 レイラと言う少女の頭には犬の様な耳が付いていた。

 

「これ、本物ですか?」

「きゃっ」

 

 楓はついレイラの耳に触ってしまいました。

 

「す、すみません! 初めて見たのでつい……!」

「……いえ……大丈夫……です」

 

 日本では見た事がないその耳。……いえ、兄の部屋にあったフィギュアで見た事あるかもしれないです。

 

 それから楓達は日が暮れるまで遊びました。高校生にもなってついはしゃいでしまいました。

 

 

 ***

 

 

 それは突然でした。

 

 シーネット家に呼ばれてから二年程経ったある日。

 

 空が真っ白になったのです。

 

「…………なにあれ」

 

 空が真っ白といえば別におかしくないと思うかもしれません。

 

 しかし、雲一つない真っ白な空。

 

 例えるなら、絵の具で真っ白に塗ったかのような。

 

 混じり気のない白。

 

 楓はシーネット家の小さな家の窓から、それを眺めていました。

 

「……お前らっ! 俺のとこに来い!!」

 

 ガーフィさんが叫び、その元に向かおうと手を伸ばした瞬間――

 

「うっ……」

 

 頭の中に酷い耳鳴りが起きました。

 

 その瞬間、真っ白だった空は、空だけに留まらず、世界全体を包み込むように真っ白に覆われたのです。 

 

 ……

 ……………

 ………………………… 

 

「おい、ガキ! とろとろ歩いてんじゃねぇ! 殺すぞ! ……おい! 聞いてんのか? あ?」

「………………うるさい」

「あ? 何だとコラッ! 大人を舐めてんじゃねぇぞ! ガキのくせによ! オラッ!」

「……がはっ」

 

 ……ここはどこだ。僕は何故大人に殴られている。分からない。こいつらは誰だ。僕は誰だ。……何も分からない。

  

「よう、お嬢ちゃん。良かったら俺とデートしないかい」

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