第104.5話「懐古」
フィー達の戦いが幕を開けた一方で、向こうの世界では――
「流石にエルブレイドは手強いですね……」
「ワシに勝てる気じゃったか?」
「ええ一応。しかし、暴力そのものである貴方相手では、私に勝ち目はなさそうです。ですので――」
「エルブレイドさん! こいつ逃げる気です!」
「じゃな……」
「追わないんですか!?」
「放っておけ、ルクスよ」
「……アヒャヒャヒャッ! 賢明な判断です。では私はこれで失礼します」
『アンノーン』はエルブレイド達の前から姿を消した。
「……消えた?」
「じゃから言ったじゃろう。無駄なんじゃよ。あやつ、転移魔法を使えるようじゃな」
「……転移魔法ですか。勇者パーティーの一人が持っているとされる最上級魔法ですよね。なぜそんなレア魔法を持っているのでしょうか」
「知らんわい。……ところでルクスよ」
エルブレイドは剣を鞘に戻した。
「何でしょう?」
「久しぶりじゃな! 大きくなったのう……って言いたいところじゃが、なんじゃチビのままじゃなぁ」
エルブレイドはルクスの頭を撫でようとするが、ルクスはそれを華麗に躱す。
「相変わらずうるさいですね。エルザに言いつけますよ?」
「すまんすまん! それは勘弁してくれんか! エルザちゃんに嫌われたくないんじゃ!」
「親子揃ってエルザにデレデレですね。エルフォードさんは隠すつもりはなかったですが……あ、すみません」
「……いいんじゃ。あいつはエルザを守って死んだんじゃろう。それなら悔いなく死んだはずじゃ」
エルブレイドは空を見る。綺麗な夜空を。
「……行くぞルクスよ」
「え? どこにですか?」
「『炎城ピレゴリウス』じゃ」
「でも、アスフィがまだ――」
「それに関しては大丈夫じゃ。直に起きるじゃろう……それにオーディンが居るからのう」
オーディンは今もなお目を瞑り、眠るアスフィに手をかざし動かない。
「置いていけと言うのですか?」
「そうじゃ」
「もし魔物などが現れたら誰がアスフィを守るんですか!?」
「――心配ない。我がいる」
エルブレイドの戦闘を見守っていたマキナが二人の前に姿を現した。
「流石だなエルブレイド」
「……マキナ殿。息災じゃったか?」
「この身は既に『呪い』に犯されている。そう見えるのなら老いぼれているなエルブレイド」
「ガッハハハハッ! マキナ殿も変わらんのう! 手厳しいわい」
「……お二人はお知り合いだったんですね」
「我はほとんど覚えていないがな」
マキナは表情を変えない。
「行くならさっさと行け。フィーは我が必ず守る。この身にかえても」
「そうじゃな。ではいくぞルクスよ」
「……分かりました。そこに行けばなにか分かるんですよね」
「そうじゃな。分かることもあるじゃろう」
エルブレイドとルクスは『炎城ピレゴリウス』に向かった。
……
…………
……………………
「良いのですか? マキナ」
「アイリスか。無事か?」
「ええ、わたくしはあなたの言う通り丈夫ですので」
「……そうか」
「…………あなたの神友は今も戦っていますよマキナ」
「ああ」
「動かなくていいのですか?」
アイリスは満身創痍だった。神力を奪われた以上、その身は人間に等しい。
「今の我に出来ることはない」
「そうでしょうか?」
「なにかあるのか?」
「それは自分で考えて下さい。わたくしはあなたの神友ではありませんので」
「…………そうか。変わらんなポセイドン」
「そうですね。……ですが――」
アイリスはふらつきながらも言葉を続けた。
「味方です」
「……そうか」
そう言うとアイリスは再びその場に力なく倒れた。