第104話「重なる者」
『盟約』に誓い、これまで何度も見た白の空間に飛ばされた俺とフタバ。
「じゃ早速始めよっか! 先行は譲るよ! 聞きたいことがあるならどうぞ!」
聞きたいこと……か。ありすぎるな。正直三つじゃ全然足りない。ここは慎重に選ぶ必要があるな。
まず一つ目の質問は『アンノーン』の目的についてだな。
よし、まずはこれでいこう。
「お前の目的はなんだ」
「え……? 私の? そんなのでいいの?」
「あ、ああ。さぁ答えろ」
「…………………お金? かな」
「は?」
こいつ今お金って言ったか? 俺の聞き間違いじゃないよな?
「おい、それって――」
「おっと! それ以上聞くと二つ目にカウントされるよ? いいのかい?」
俺は咄嗟に口を閉じた。
「…………悪い、今のは無しだ」
「いいよ」
危ない所だった。思わず質問を無駄にするところだった。
にしても、金? 『アンノーン』の目的が金だと? 本当にそうなのか? だが、嘘をついているようでは無いようだ。嘘をつけば『盟約』に違反したと見なされ消滅するはず。していないところを見るにコイツは嘘をついていない。……しかし腑に落ちない。
「……じゃあ二つ目……を聞いていいんだよな」
「うん、いいよ。今は君のターンだからね」
二つ目。さて、何にするか。こいつの目的の部分をもっと深堀したい所だが、上手く躱されそうだしな。違う質問にするのが妥当か。
「では、二つ目だ」
「うん、どうぞ」
「ここに俺達を閉じ込める理由はなんだ。気まぐれではないだろう」
「……そうだね。気まぐれではない。君たちが邪魔だったからという話になったからそうしただけだよ」
話になった……? つまり一人で出した答えではないということか。マズイ、上手く答えを躱されている気がする。真実を暴こうとしてもその奥の真相が全く見えてこない。やっぱり俺はバカだ。マキナであればこんなヘマはしないんだろうな。あるいはエルザか。あいつは基本バカお嬢様だが、大事な場面では人が変わったかのように頼りになる。
「あと一つだね」
「…………では最後の質問だ」
「うん、どうぞ」
「………『アンノーン』。お前は一人か?」
「………………良い質問だね。答えはノーだ」
という事はやはり一人ではないのか。『アンノーン』は複数人居る……この質問に至ったのには理由がある。
向こうの世界で現れたという『アンノーン』と、オーディンとの通信を妨害し、こちらに話しかけてきた『アンノーン』。俺の目の前にいる『アンノーン』はそのどちらとも違う気がした。
口調や笑い方、品性のようなものが俺に干渉してきた者とは違った気がした。俺は目の前のコイツの事を知らない。だが、何故だろうか。俺はコイツを知っている気がする。
「じゃ、次は私の番だね」
次はフタバの番だ。全く質問の予想が付かない。こいつは俺に何が聞きたいんだ……?
「そんな気構えなくていいよ、軽い質問にしてあげるから!」
「ああ、それなら助かる」
もちろん信じてなどいない。
「……君は今、エーシルとの『盟約』で得た闇の力を行使できるのかい? もちろんこの場合、今私達がいるこの日本という世界でという意味だよ」
ん……? なに? 死を呼ぶ回復魔法の事を言っているのかこいつ。
「……まだ試したことは無いが、使えるんじゃないか?」
「…………ふーん、分かったよ」
「こんな曖昧な答えでも良いのか?」
「うん! 君がもし使えなくても使えると思い込んでいればそれが答えになるし、その逆もそうだよ」
そうなのか。だが実際使えるんだろうか。俺は使える気でいたがこの質問をされた事で少し疑問に思う。だが、試すにしては危険すぎる魔法だ。そんな機会は無さそうだな……。
「じゃ、二つ目いくね」
「ああ」
「君は神についてどう思う?」
神について……そんなものを聞いてどうするんだ。
しかし、答えなければならない。俺が神について思っている事か。
「そうだな……身勝手なやつらだと思う」
「うんうん、だよね!」
「ただ、可哀想だとも思う」
「ふーん……そう」
なんだこいつ。神に恨みでもあるのか? 露骨にテンションが下がったな。
「次が最後だフタバ」
「……うん、そうだね。じゃあ最後はね――」
最後の質問。今までの質問は意図が読めなかった。一体どんな質問をしてくるのか。
「――君は今、罪悪感を抱いているかい?」
「…………イエス」
「だろうね。ではこれで最後だ」
「こんな質問でいいのか」
「言ったでしょ? 軽い質問だって」
『盟約』をしてまでする質問には思えなかったな。だが、フタバは満足そうな顔だった。
「はい、じゃあ『盟約』はここで終わる」
「なんか呆気ないな」
「あははは! そうだね!」
『盟約』によって作り出されたこの白い空間にヒビが入り始める。
何度見てもこの世界の終わりを迎えるようなこの瞬間が嫌いだ。
マキナとの別れを思い出してしまう。
結局あまり情報は引き出せなかった。やっぱり戦うしかこの幻想世界から出る方法は無いのか。こちらにはエルザが居るから負けることはないと思うが。
「あ、そうだ! 戦う、なんて選択肢は辞めた方がいいよ? 私に勝てるわけないからね!」
「お前心でも読んだか」
「あはは! まさか!」
確かに力を発揮できないとは言え、セリナの背後を取るくらいだ。実力はあるんだろう。だが、ここは日本。ヒトである以上、異世界の住人であるエルザには勝てないだろう。
「戦うなら止めはしないよ」
「この世界から出る方法が聞き出せなかったからな。手荒にはなるが、この世界から出る為なら俺は誰だろうと容赦しない。最悪お前を殺してでもここから出るつもりだ」
「……殺すなんて怖いこと言うね。それなら私も全力で迎え撃つよ。言っとくけど、手加減しないからね?」
手加減か。それはこっちのセリフだ。
「この空間を出たら戦闘開始だ」
「残念だけどそうだね!」
「じゃあなオーディン」
「うん! また………え?」
「はっ、引っかかったなバカめ。俺を甘く見すぎだ」
「…………そ」
白い空間が開けた時、それが戦闘開始の合図となった。