第94話「更なる目的地へ…」
亜久津から俺が居なくなった後の真相を知り、他のクラスの奴も来ているということもわかった。ただ問題は生きているか、だな。
「なぁ、マキナ。少し寄り道をしてもいいか? ちょっと調べたいことが出来た」
「ああ構わない。フィーの行くところが我の行くべき道だ」
相変わらずだよ、マキナは。でもそんなとこも好きだ。
「じゃ、いくか」
「え、俺の意見は?」
はぁ? こいつまさか俺たちにずっと付いてくる気か?
俺は考える。
「……お前、何が出来る」
「何が出来るって……何がです?」
「お前が付いてくることによって、俺達にどんな利益が生まれるかってことだ」
「えぇ!? 知らないっすよ! 俺そんな秘めたる力があるとかそういうのないんで!」
ちっ。使えねぇ……。こいつまた|『ゼウスを信仰する者』《ユピテル》に戻ったりして俺の事殺しにくるとかないだろうなぁ。
「……分かった。ただし、条件がある」
「なんですか?」
「一度でも裏切ったら即殺す」
「分かりやした! フィーさん!」
お前ほんとにあの亜久津か? お山の大将気取ってたのさっきの話だろ。なんでそんなにコロッと性格変えれんだよ。
「大丈夫だフィー。その時は我が制裁を下す」
「ひぃー!? 何もしませんて!!」
ま、マキナがいればどうにかなるか。
「じゃあ、お前もこい。雑用係一号だ」
「俺そんな扱いなんすか……」
「嫌なら来るな」
「いえっ! 大丈夫です! ……どうせ行く宛てなんて無いんで」
以前の亜久津なら絶対に付いて来させなんてしないが、今の反省したという亜久津なら大丈夫か。雑用として存分にこき使ってやろう。
過去の反省の意味も込めてな。
「で、どこに行くんすか?」
「『楽園』だ」
「……楽園? なんすかそれ」
「……フィー本気か?」
「本気も本気だ。俺だって好きで行きたい訳じゃないぞ? ただ、クラスの奴がもし居るとしたら『楽園』の可能性が高いんじゃないかって思ってな」
『楽園』。その地に行けば分かる。なぜその場所が『楽園』と言われているのかを。
俺は再構築前の世界にて、マキナと喧嘩をして一人で旅をしていた時、偶然にも俺はそこに足を踏み入れた。『楽園』は来るものを拒まない場所。もしクラスの奴が居るとすればその『楽園』が一番可能性が高いと考えた訳だ。
「フィー。あそこは行けば帰って来れなくなる」
「そんな事は無い……多分」
「えぇ!? そんな怖いとこなんすか!?」
「……ま、まぁな。ある意味怖い。行ってみれば分かる。マキナ、今回も頼む」
俺はマキナに『楽園』に連れて行ってくれと頼み込む。マキナはあまり乗り気では無さそうだ。だが、しぶしぶといった感じで納得してくれた。
「……行くぞ」
「え、なんすかこれ!? 何する気っすか!?」
「黙ってろ。マキナが集中できねぇだろ」
マキナは俺と亜久津に微弱な雷を纏わせる。
「なんか痺れるんすけど! 大丈夫なんですかこれ!?」
「死にはしない」
「では行くぞ、フィー」
マキナに連れられて行く。
目的は『楽園』だ。
***
《本当に行くのかい? 》
なんだよオーディン。お前から話しかけてくるなんて珍しいな。
なにかあったのか?
《いや、別に何も無いよ! ただ、『楽園』に行って帰って来れるのかなって……そう思っただけさ》
以前の俺なら難しいだろう。だが、今は違う。今の俺はアスフィとしての経験値とフィーとしての経験値、二つもある。そう簡単には誘惑には負けないつもりだ。
《へぇ〜。そんな軽い気持ちで『楽園』に足を踏み入れたら絶対に帰って来れないけど大丈夫なの? 》
…………多分。
《あはは! 随分と自信がなくなったね! 》
お前のせいだろ。ここは嘘でも背中を押してくれよ。大丈夫君なら帰って来れる! って。
《私もそう言ってあげたいところだけど、残念ながら今の君には難しいんじゃないかな〜と思ってね! 》
なんでだよ。俺は一度行ったことがあるんだぞ。……それに時間はかかったが、帰ることも出来た。一度帰ることが出来たんだ。
今回も帰れるはずだ。
《一度帰ることが出来たからと言って、今回も帰れる保証はどこにも無い。あそこはもう、君が以前行った『楽園』では無いかもしれないしね》
………どういうことだ。
《『アンノーン』だよ。その存在が私の幻想世界に干渉している。本来この幻想世界はね、フィー。君の記憶から創り上げたものだ。だけど、異変が起こっている……君もそれは分かっているだろ? 》
ああ。俺の記憶と違う部分が何度もあった。フォレスティアが燃えていた事もそうだし、亜久津の件もそうだ。あまりにも違いすぎる。
《それが恐らく『アンノーン』のせいだ。……何者かは分からないけど、私の世界に干渉できるんだよ? 只者じゃないよ》
そんな事は分かってる。そいつの正体を暴く為にも情報がいる。
その為に俺は『楽園』に行く。俺の知り合い……が居るはずだ。
もし以前の俺のように偶然足を踏み入れたのならまだ『楽園』にいる可能性が高い。亜久津の話ではこちらの世界に来たのはさっきの話みたいだからな。
《『楽園』に行きたいのなら行けばいいんじゃない? 》
なんだよ、随分と投げやりになったな。
《ま、一応忠告はしたからね! ……マキナを悲しませるのだけは赦さないよ? 》
……ここは俺の記憶だろ。本当のマキナじゃない。それにいずれ俺とマキナは喧嘩をすることになる筈だ。
《だとしてもだよ。私の神友は感情を表に出すのが難しいだけで、色々思っていることもあるんだよ? 》
知っているさ。マキナを愛してるんだからな。
《うん! それも知ってる! ……だからね、フィー。マキナを助けてあげて。あの子はね、優しい子なんだ。今もこっちで君を見ているんだよ。『呪い』のせいで看病することの出来ないもどかしさを抱えながらね》
………そうか。それを聞いて安心したよ。
《安心? 》
帰る理由が明確になった。マキナを救えるのは俺だけだ。
《……あはは! やっぱりフィーは面白いね! 惚れそうだよ! 》
勘弁してくれ……お前みたいな腹の底で何を考えているか分からない奴に好かれても困るだけだ。
《酷いな! 私これでもフィーの事結構気に入ってるんだよ!? 》
そうかよ。なら、その気に入ってる男からの頼みだ。助言をくれ。
《助言? 》
ああ、『楽園』についての助言だ。
《う〜ん。そうだなぁ……『楽園』に居るよ》
……誰がだ。
《君の探しモノだよ》
クラスの奴か。
《そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない 》
おいおい、ハッキリしてくれ。そこまで言ったんなら教えてくれよ。お前もマキナが大事なんだろ? なら俺に教えた方が良いに決まってるだろ。
《うん……そうだね。でもね、フィー。私は今まで見てきて、君がこの世界をクリア出来るとは思えないんだよね。だから後は自分で考えて行動するんだ。マキナを救いたいなら尚更ね》
……分かったよ。ありがとな。
《良いのさ! 私は君の味方だからね! 》
結局助言っていう助言はくれなかったか。まぁいい、後は自分で考えてやってみるか。にしても味方……か。向こうにいるルクスとエルザのやつ、今頃どうしてんだろうなぁ。