第90話「トラウマ再び」
コルネット村へと向かう俺とマキナ。当然のようにマキナの力で飛行している。徒歩で行くよりこっちの方が早いからな。
「……おいマキナ、あそこだ。あそこで降りてくれ」
「分かった」
俺とマキナはコルネット村に着地する。
「………なんだこれ」
俺の……アスフィ・シーネットの家がない。
「どうゆうことだ……? アスフィは産まれていない? いや、そんな筈は……」
そうだ、ミスタリス王国で俺は確かに会った。アスフィ・シーネットに。今は八歳くらいだろうか。
ん……? そういえば俺が会った時のアスフィ・シーネットは十二歳の容姿だった気がする。色々とおかしな所が多いな。
これもオーディンの言うバグなのだろうか。
俺はレイラの家を確認する。
そこに居たのは仲睦まじい家族だった。
幼いレイラに、父と母が居た。
「ルクスの話では、レイラの父親……レイモンド・セレスティアは勇者のパーティーに抜擢されたはず……」
どうゆう事だ……おいオーディン!
《……知らない。私はしっかりと再現しているつもりだよ。……可能性としては誰かの干渉を受けている……かもしれないね》
はぁ……? お前の世界だろ! もっとしっかり管理しろ!
《うるさいなー!! やってるよ!! 》
お、おう……悪い。
《…………やっぱり》
何だ?
《……第三者から妨害を受けている》
妨害……? お前の世界に? そんなこと出来るとしたら……
《同じ神しか居ないね》
出来そうな神に心当たりは無いのか?
《うーん……私以上にこの世界に詳しいものは居ない筈なんだよね。干渉するなんてもってのほかだ》
つまり心当たり無しってことか。
《うん……。ごめんね》
謝るな。お前は俺を救おうとしてくれた。むしろ感謝してる。さっきは悪かった。
《……ありがとう。マキナが惚れるのも分かった気がするよ! 》
やめてくれ……。
《……気を付けてねフィー。『妨害者』は必ずこの世界のどこかに居る。そいつをどうにかしない限り、また同じような事が起きるから》
フォレスティアが燃えていたのもそいつの仕業ってことか。
《その可能性が高いね。とにかく気を付けて……そして必ず見つけ出して欲しい。見つけてくれさえすればこっちでどうにかするから! 》
分かった……注意深く進むことにする。ありがとう。
《じゃあ引き続き頑張ってね! 》
…………『妨害者』か。エーシル……? いや、アイツは死んだ。
誰だ、この世界に干渉している神というのは。
「どうしたのだフィーよ」
「いや、なんでもない。……あの家族仲良いみたいだな」
「そうだな」
これに関してはいい事だが……そうなるとレイラは冒険に出ないという事になるのか? だとしたら少なくとも、この世界では死なずに済むな。
「いいじゃねぇか……行こうマキナ」
「もういいのか?」
「ああ、見たいものは見れた」
ここで俺に出来ることは何もない。
次はアイリスの国、『水の都フィルマリア』にでも行くか。
神が造りあげた街に。もう既に滅んだ後の筈だ。
俺はマキナに次なる目的地を言い、飛行体制に入る。
「フィー、一つ忠告する」
「……ん? なんだよ急に」
「ポセイドンに気を付けろ」
ああそうか。初対面のアイツは協力的ではないもんな。
それを言いたいんだろうマキナは。
「ああ、分かった」
「よし、では飛ぶぞ」
俺達は『水の都フィルマリア』に向かって飛行する。
***
「なんだお前達は」
懐かしいなこの門番。兜を被っているが、声からして恐らく前と同じやつだな。
あれ? 横にもう一人いるぞ。
「……」
俺はこいつの事知らないぞ。誰だこいつ。
「あの、ここに入りたいんだけど」
「身分証、もしくは通行許可証を見せろ」
なに!? そんなもの要るのか! 以前来た時要らなかったぞ?
「……持ってな――」
「これでいいか?」
マキナは身分証を出した。そこには俺の分もある。
いつの間に用意したんだ……。
「……確かに。よし、入れ」
厳重だなぁ……いや、前も必要だったのかもしれないな。
エルザとルクスの肩書きのお陰で通れたんだもんな。
ま、あの時は俺だけ通れず、結局アイリスが入れてくれたんだっけ。今回はマキナのお陰で正式に入ることが出来た。誰かの手が無いとおれ一人では入れないのか。
お達は『水の都フィルマリア』に入国した。
「……にしても相変わらず賑わってんなぁ」
「そうだな」
「なぁマキナ、あの身分証どうしたんだ? 俺はあんなの作った覚えないぞ?」
「ああ、あれか。ミスタリスで小さき王に作って貰ったんだ」
小さき王ってエルザの事か。マキナは俺がここに来る事を分かっていたって事か。流石俺のマキナだ。
俺は周囲を見渡す。そこに居るのは、アイリスの作り出した住民達。本物と見分けがつかない程精巧に作られているが、これらは全員偽物だ。それぞれが会話し、商売を営む。
アイリスはどこにいるんだろうか。ま、一応この国の王様だもんな。そう簡単に出てくる訳がないか。
「あら? お客様ですか?」
「…………あ、居た」
でもこの場合どうなるんだ? オーディンの作り出した神ってことになるのか?
《そうだよ! 本来のアイリス……神ポセイドンと変わらないよ! もちろん力もね! 》
お前なんでもありかよ……。もうお前一人でなんでも出来る気がしてきたぞ。
《それは無理だよ! 私は有能であるけど、最強じゃないからね! 》
どう違うのか俺にはよく分からん。
「あの? わたくしの国に何か用でしょうか?」
「いや、見学しに来ただけだ」
「…………そうですか。ではごゆっくり」
アイリスは去っていった。
なんだ……? やけに冷たいな。出会った時、こんな感じだったか?
ま、せっかくだし一泊していくか。もう日も暮れそうだし。
「宿を取ろうマキナ」
「分かった」
俺とマキナは宿を取る為、街を見て回った。
……
………
…………………
「高すぎだろ……泊まらせる気あんのか? ここ」
「仕方ない、アイリスが管理している訳では無いからな」
ん……? どういうことだ?
「マキナ、どうする?」
「我はフィーと一緒ならどこでも眠れるぞ?」
まあそれはそうなんだけど……。
一泊するだけで日本円にしておよそ十万円。
そんな金当然持っていない。
「仕方ねぇな。野営するか」
「ああ」
「……なぁマキナどうしたんだ? ここに来てから変だぞ?」
「…………我はあまり人が多いところは好きでは無い」
そうだったのか。だからあんな人気のない場所で暮らしていたのか。
「悪い、それは知らなかった」
「いや、大丈夫。苦手というだけだ」
となると、野営しかないか。このまま街に居るとマキナが心配だ。
俺達は城の外へ出る。
「……お前達もう出るのか?」
「ああ、野営することにした」
「そうか。ま、死なないよう頑張れよ」
「ああ、肝に銘じておく」
「……」
相変わらずもう一人の門番はだんまりか。
幸い『水の都フィルマリア』の周辺には水がある。飲水には困らなそうだな。あとは食糧か。
「ちょっと食糧探してくる。マキナは火を起こしておいてくれ」
「了解だフィー」
マキナはせっせと木を集めていく。
その間に俺は食糧だな。たしかこの辺は熊が居たよな。
……
…………
………………
「…………すまんマキナ。何も居なかった」
「構わない。気にするなフィー」
俺の頭を撫でてくるマキナ。身長的に難しいのもあって、俺は腰を低くする。これじゃ、頭を撫でられているというより、撫でられに行っていると言うのが正しいな。
しかし腹が減る……さっきから腹が鳴ってうるさい。
「見ろフィー!」
「ん? …………あ」
そこには奴がいた。俺にトラウマを植え付けたヤツだ。
「よりよって果実の魔物かよ……」