Special ep.7……
「おいおい、どういう事だよ」
『どういう事とは?』
「……なぜ生きている」
『……なぜ生きている、ですか。何を言っているのか分かりませんネェ』
「エーーーーーーーーーシル!!!!」
俺の叫びが響く。喉が裂けるほどの絶叫だった。
……
…………
………………
「エーーーーシル!!!」
飛び起きた瞬間、俺の視界がぐにゃりと歪んだ。体中から汗が滴り、鼓動が耳の奥で鳴り響いていた。
「どうしたフィー!!」
隣からマキナの声がする。彼女は焦った様子で俺を覗き込んでいた。
「…………夢……か」
「悪い夢でも見たのか?」
「…………ああ。最悪な夢だ……マキナ、起こして悪かったな」
「いい。フィー、なにかあるなら我に相談しろ」
マキナはそう言いながら、俺の頭を優しく撫でた。その仕草が、ひどく温かくて──それが余計に、俺の心を締めつける。
「……ありがとう、マキナ。でもこれは相談するものじゃない……そんな気がする」
そう、相談なんかしても意味がない。これはただの夢だ。
──けれど、なぜか胸がざわつく。俺は確かに名前を呼んだ。
「そうか……エーシルと言っていたが、誰だ?」
「……分からない。ただ憎い……そんな気分だ」
自分でも驚くほどに、心の底からそう思った。
エーシルって誰だ?なぜ俺は、あれほどの怒りを持ってその名を叫んだ?
まるで、魂に刻まれた復讐のような感覚。
──俺は……何をしたいんだ?
「フィー。我にはフィー程大事なものは無い」
「……それは俺も同じだ、マキナ」
「だから今から言うことを聞いて、嫌いにならないで欲しい」
「嫌いになんてなるわけが無い。俺は世界で一番、お前を──マキナを愛してる」
心からの本音だった。マキナ以外の何を信じろと言うんだ。
「フィーは今、後悔していないか?後悔しているなら前に進め。後悔を引きずっていても仕方がない」
「……なにを言ってる、マキナ」
「我は恐らく長くは生きられないだろう。だから、フィー。我という『呪い』にこだわるな。好きな者がいるならそいつを愛せ」
「……は?何言ってんだよマキナ。俺はお前が一番好きだし、世界一愛してる」
何を言い出すんだ。そんな悲しげな顔をするな。
「その気持ちは凄く嬉しい。本当だ……今にも幸せで涙が出そうだ。だけど、フィー。今は立ち止まる時じゃない」
──おい、やめろ。
そんなことを言うな。お前まで、そんなことを……!
「――分かりませんか?」
「……分からないようだよ、ルクス」
突如、背後から声がした。
振り返ると、ルクスとアスフィが立っていた。
「……お前ら。なんでこんな所に。俺たちの部屋だぞ!さっさと部屋に戻れ」
「…………ありませんよ。……ええ、ありません。そんなものはもう」
「お前もかルクス…………お前らは俺に何が言いたいんだよ!!!!どいつもこいつも俺をからかってんのか!!!」
「…………レイラ」
「レイ……ラ?」
突然告げられた名前。
だが、耳にした瞬間──俺の心臓が凍りついた。
心地良い響き。それなのに、異様な胸騒ぎがする。
知っている。俺は、この名を知っている……!
「本当のアスフィはレイラと一緒にこのミスタリス城に来ました。でも今のアスフィを見てください。隣に居るのは私です。レイラではありません」
「…………レイラ」
まるで幻聴のように、その名前が頭の中で反響する。
「いい加減目を覚ましてください。あなたが見ているのは幻想です」
「げん……そう…………これが?マキナと旅をして、ベッドで一緒に寝て……これが幻想?」
何を言ってる?そんなわけが──
嫌だ。
分かりたくない。
やめてくれ。やめてくれ……!!
俺をそんな目で見るな!!
「はぁ……僕に任せてルクス」
アスフィが静かに前に出る。
「いいんですか?アスフィ」
「……こうなったら仕方ないでしょ。これは僕にしか出来ないからさ。……でしょ?」
優しく、しかし鋭い眼差しを俺に向け――
「ねぇ、フィー。君は僕をどう思ってるの?申し訳ないと、そう思っているんだろ?」
「……何を言って――」
「いいかい、僕はまだ死んじゃいない。いや、正確には僕らというべきか」
アスフィは微笑んだ。
「僕の大好きなレイラはどうなるの?他にも君は人を愛した。愛しすぎたのさ」
「…………っ」
「フィー……いや、須藤 剣一」
耳元で囁かれたその名に、俺の呼吸が止まる。
「君にはまだやることがあるはずだ。本来の君の剣の腕は、エルザより上だ」
アスフィは一歩、俺に近づいた。
「剣一の名は偽りか?」
『立て、剣一。我はお前の目覚めを待っている』
頭の中で、誰かが囁く。
「……俺は……どうしたらいい」
「自分で考えなよ。僕にそこまでしてやる義理はないよ」
アスフィは淡々と告げる。
だがその言葉には確かに──俺を奮い立たせる何かがあった。
げんそう。それは誰の仕業なのか。




