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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

別の世界ではただの日常です

褒められ続けた男の人生

作者: 茅野榛人

 とある住宅街に住む父と母と息子が、家の中で全員亡くなった。

 父と母は病死、息子は自殺。

 息子が両親の看病を怠り、死亡させた後、息子は暫く飲まず食わずで過ごし、首を吊ったとの事。

 両親を死なせた後、息子はインターネットの小説投稿サイトに小説を投稿しており、『褒められ続けた男』と言うタイトルで、内容は自らの経験した人生だった。


『僕は小学生の頃から一貫して小説家を目指していた。

 理由は、兎に角周りがの人間達が僕の書いた小説を褒めてくれるからだった。

 小学三年生の頃、特にこれと言って夢を持っていた訳では無かった当時、適当に、本当に適当に書いた小説を両親に読んでもらったのが始まりだった。

 盛大に褒められた。

 僕が自らの意思で作ったものの中で、最も褒められたものだった。

 最初はただ純粋に嬉しいだけだった。

 ところが調子に乗って次々と小説を書いて行くと同時に、僕は段々と純粋な嬉しさに、違和感を覚え始めるようになった。

 僕は小説を、何本も何本を書き、両親に読んでもらった。

 流石にダメ出しをされても全くおかしくないにも関わらず、両親は僕の書いた小説を褒め続け、大絶賛してくれた。

 ここまで僕の書いた小説が褒められると、僕には小説の才能があるのでは無いかと思うようになり始めた。

 一度もダメ出しをされなかったのだ、才能が無いと思う方が無理だと思う。

 僕は、将来小説家になると決意をした。

 高校三年生になった頃、僕の小説やニックネームを世に広めなければと思い僕は、とある小説投稿サイトに小説を上げ続け、SNSも始めた。

 兎に角暇があったら小説を書いた。

 そんな生活を送っていると、少しずつではあるが、僕の小説が色々な人達に読まれるようになって行き、感想も届くようになった。

 感想はと言うと……ダメ出し一つ無いお褒めの言葉に満ちていた。

 もはや不気味さまで感じた。

 まるで一人の人間が淡々と感想を述べているような、お褒めの言葉の数々……いや! ありがたいんだ、お褒めの言葉は本当にありがたい、時間を割いてわざわざ僕の小説を読んでくれて感想まで書いてくれるなんて、こんなにありがたい事は他に無い。

 ただし日常的に貰うと、どうしても違和感を覚えてしまう。

 しかし僕はポジティブな言葉を貰い、小説を書くモチベーションがますます上がって行き、もはや止まれなくなっていた。

 僕は何千本と小説を書いたにもかかわらず、一回もダメ出しをされず、評価はますます向上して行った。

 しかし僕は小説家として食べて行く事は出来なかった。

 これまで一度もダメ出しをされる事は無かったのだが、収入や出版に関する話になった時に限って、何故か僕の小説が評価される事は無く、小説家としての収入はゼロ、賞を受賞する事も無かった。

 収入や出版の話になった途端、まるで現実世界から全く別の世界に切り替わっているようにさえ感じる。

 いや、実はその逆で、別の世界から現実世界に切り替わっているのかもしれない。

 僕は大量の小説を上げたのだが、一切収入は入らなかった為、今は全くと言って良い程想像していなかった、貧困生活を送っている。

 小学生時代や、中学生時代は、有名な小説家になって、親孝行する事を夢見て頑張って来たのに、今はもう、何もかもが分からない。

 どうしてこうなってしまったのであろうか、小説家を目指した所為か、褒められた所為か、もう分からない。

 でも、今僕が欲しいのは、お褒めのお言葉です。

 お願いします、どうか僕に優しいお言葉を下さい。

 待っております』


 息子は、この小説を投稿した数日後に自殺した。

 実に悲惨で、読んでいると息が詰まる内容だが、この小説には妙な点がある。

 息子の書いた小説だと、息子の書いた小説は絶賛され、インターネット上でも一切ダメ出しをされず、温かい言葉で満ちていたと言う事なのだが、息子の書いた小説はどれも大した評価はされておらず、それどころかSNSには大ブーイングの嵐が巻き起こっていた。

 現実逃避の為に改変したのか、もしくは、本当に別の世界で過ごしていたのか、真実は不明である。

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