表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

マル秘のレシピ

 ドラゴン・レディ様は、アワアワしながらツバキへ()きかえしてきました。


「あ、(あか)大根(だいこん)(しろ)いニンジン?」

「そうにゃ!」

「白い大根と赤いニンジン……の間違(まちが)いでは、ないのですか?」

「赤い大根と白いニンジンにゃん。魔女(まじょ)のご主人様(しゅじん)が、アタシに『夕飯(ゆうはん)のため、赤い大根(だいこん)と白いニンジンを買ってきてくれ。どうしても、赤い大根と白いニンジンが欲しいんだ。赤い大根と白いニンジンを、食べたいんだ!』と言ったのニャン」


 ツバキ……。コンデッサはそんなこと、言ってませんよ。


 コンデッサがツバキへ(たの)んだのは、あくまで『大根とニンジンを、買ってきてくれ』ということだけです。

 (みな)さんも、早とちりや勘違(かんちが)いをしないよう、人の話はキチンと聞くようにしましょうね。


「アタシは、使(つか)()ニャン。だから、ご主人様の(のぞ)みは絶対(ぜったい)(かな)えるのにゃ!」

「むむむ……」

「お(ねが)いしますニャン! ドラゴン・レディ様!」

「ううう……」


 ドラゴン・レディ様が、うなっています。

 この世界(せかい)に、〝赤い大根〟と〝白いニンジン〟などという、野菜(やさい)は無いのです。無いものは、出せません。


 けれど今さら、『わたしに、その願いごとを(かな)えるのは無理(むり)です』とは、ドラゴン・レディ様は(くち)に出来ませんでした。

 見栄(みえ)っぱりですね。


「ドラゴン・レディ様は、とっても(えら)くて、とっても親切(しんせつ)で、とっても(かしこ)くて、出来ないことにゃんて無いんでしょ!? 〝バンノーの(りゅう)〟ニャんだよね!」


 期待(きたい)をこめてドラゴン・レデイ様を見る、ツバキ。その(ひとみ)は、キラキラと(かがや)いています。


「え~と、え~と、え~と、ツバキさん、その……」

「ニャニ? ドラゴン・レディ様」

「…………なんでもありません」


 ()いつめられる、ドラゴン・レディ様!

 しかし『ドラゴン・レディ』という(ほこ)(たか)き名にかけて、引くわけにはいきません。なんとか良い解決策(かいけつさく)は無いものか、頭の中をグルグルさせながら考えます。


 ほどなくして、ドラゴン・レディ様の(かお)(あか)るくなりました。


「うんうん……分かりました! それではアナタに、赤い大根と白いニンジンを(あた)えましょう」

「ありがとうございますなのニャ!」


 ツバキは(よろこ)びます。

 ドラゴン・レディ様が空中(くうちゅう)両手(りょうて)(かか)げると、どこからともなく、1本の大根(だいこん)と1本のニンジンが(あらわ)れました。ドラゴン・レディ様は右手に大根、左手にニンジンをつかみ、ツバキへ()しだします。


「これを、()()りなさい。こっちが大根で、こっちがニンジンです」

「……でも、この大根は白くて、ニンジンは赤いニャン」


 ツバキは戸惑(とまど)います。

 そうです。ドラゴン・レディ様がくれたのは、普通(ふつう)の白い大根と赤いニンジンだったのです。


(あわ)てないでください、ツバキさん」


 ドラゴン・レディ様はそう言うと、(ふたた)び両手を空中に(かか)げました。すると今度(こんど)は、2つの容器(ようき)(あらわ)れます。ソフトチューブの(かたち)をした半透明(はんとうめい)容器(ようき)で、それぞれ中身(なかみ)は、赤と白――赤いドレッシングと白いドレッシングのようです。


「これも、アナタに上げます」

「…………ケチャップとマヨネーズにゃん」

「ハイ、そのとおりです。白い大根に赤いケチャップをぬれば、〝赤い大根〟になります。赤いニンジンに白いマヨネーズをぬれば、〝白いニンジン〟になります。赤い大根と白いニンジン……これで、問題は(すべ)解決(かいけつ)ですね。わたしは、本当に(かしこ)いです」


 ドラゴン・レディ様は、得意(とくい)そうに(むね)()ります。


「そうなのかニャ~。これで、良いのかニャ~」


 ツバキは、しきりに小首(こくび)(かし)げました。納得(なっとく)がいっていない様子(ようす)です。


「これで良いのです。アナタの主人(しゅじん)である魔女(まじょ)も、間違いなく『大根とニンジンとケチャップとマヨネーズを、()ってきなさい』という意味で、アナタに『赤い大根と白いニンジンを、買ってくるように』と言ったはずです」

「本当ニャン?」

(うたぐ)(ぶか)い猫さんですね…………そんなに心配(しんぱい)なら、これも持っていきなさい」


 1(まい)(かみ)をツバキへ手わたす、ドラゴン・レディ様。

 紙には『アナタも美味(おい)しく作れる、マル()レシピ! 大根(だいこん)のケチャップ()と、ニンジンのマヨネーズサラダ』とのタイトルが、()いてありました。


「大根にはケチャップを、ニンジンにはマヨネーズを使って、上手(じょうず)料理(りょうり)するための手順(てじゅん)(しる)したレシピです。これがあれば、美味(おい)しい夕飯(ゆうはん)が食べられますよ」

「わ~、うれしいニャン。ありがとニャン、ドラゴン・レディ様!」


 ツバキは大喜(おおよろこ)びで、大根とニンジンとケチャップとマヨネーズとレシピが書かれている紙を、マジック(ぶくろ)の中へ、しまいました。

 そして、ドラゴン・レディ様とハッピキとサンビキへ(わか)れの挨拶(あいさつ)をして、コンデッサが()(いえ)へ向かって()けだしました。


 でも、ドラゴ山からコンデッサやツバキが住んでいる家は、(とお)いのです。ツバキは大丈夫(だいじょうぶ)でしょうか?


 大丈夫(だいじょうぶ)でした。


 ツバキはあっという()に、()()へ帰り()きました。


「ご主人様(しゅじんさま)! ただいまニャン」

「おかえり、ツバキ」


 元気(げんき)よく(いえ)の中へ()びこんできたツバキを、コンデッサは(あたた)かく(むか)えてくれました。


「ご主人様! アタシ、ちゃんと〝赤い大根〟と〝白いニンジン〟を買ってきたニャン」


 ツバキはうれしそうに、マジック(ぶくろ)の中から、大根とニンジンとケチャップとマヨネーズとレシピが書かれている(かみ)を、取り出します。

 そんなツバキをコンデッサは(やさ)しい(ひとみ)で見つめ、とても()めてくれました。


「そうか、そうか。ご苦労(くろう)さま。良くやったぞ。ツバキは、(えら)いな~」

「アタシはご主人様の使い()にゃんだから、当然(とうぜん)ニャン」


 コンデッサとツバキは顔を見あわせ、どちらもニコニコと(わら)いました。


 あれ? これは、どういうことなのでしょう? どうしてコンデッサは、これほどツバキへ、(やさ)しく(せっ)してくれるのでしょう? 


 ツバキは買い物に出かけてから帰ってくるまでに、ずいぶんと時間(じかん)をかけてしまっています。


『ツバキ! 帰ってくるのが、こんなに(おそ)くなって! どこで、道くさを()ってきたんだ? しかも、マヨネーズやケチャップなんて、余計(よけい)なモノまで買ってきて』とコンデッサは(おこ)っても良さそうなものなのに……。


 (じつ)はコンデッサは、ツバキが出かけてしばらく()ったあとに「おや? ツバキの帰りが、ちょっと遅いな」と心配(しんぱい)になって、(さが)しはじめていたのです。


 コンデッサは魔女(まじょ)ですから、ホウキに()って飛べます。すぐに八百屋(やおや)さんに、つきました。

 

 八百屋(やおや)のおばさんから事情(じじょう)を聞いたコンデッサは、またホウキに乗って空を飛び、たちまちのうちに地面(じめん)を走っているツバキを見つけ出しました。

 けれど、(こえ)はかけませんでした。『ご主人様の(ねが)いを(かな)えるのニャ!』と頑張(がんば)っているツバキの姿(すがた)にコンデッサはジ~ンと感動(かんどう)してしまい、ひそかに見守(みまも)ることにしたのです。


 そう。

 コンデッサはホウキに乗り、はるか空の上から、ドラゴ(やま)であったことの全てを最初(さいしょ)から最後(さいご)まで、ちゃんと(なが)めていたのです。


 ツバキがドラゴ山へ行くときも、ドラゴ山から帰ってくるときも、(みじか)時間(じかん)ですんだのは、コンデッサが魔法(まほう)でコッソリ(たす)けてあげていたからでした。

 ツバキに気づかれないように、魔法で道を(みじか)くしてあげていたんですね。


 そしてコンデッサはツバキが帰ってくるより早く家へ(もど)り、何も知らないことにして、(やさ)しく出むかえてあげたというわけです。


 コンデッサとツバキは、とっても仲良(なかよ)しなのです。


 その日の夕ご(はん)のメニューはもちろん、大根(だいこん)のケチャップ()とニンジンのマヨネーズサラダでした。


美味(おい)しいニャン、ご主人様」

美味(おい)しいな、ツバキ」


 ドラゴン・レディ様がくれた料理(りょうり)のレシピは、たいへん(やく)に立ちました。

ツバキ「まだ、続くのニャ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 魔女さんと猫さんの温かな関係性のうかがえる素敵な場面でした。本のタイトルが逐一、お茶目なのも楽しくてとても良かったです。ドラゴンレディさんの無理矢理感もこの雰囲気の中では楽しくて素敵でした…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ