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解決編

 色々あったが取引は無事に終わったようだ。

 金塊はアルジャーノンに渡され、羽場は解放された。

 通訳のフランクに案内されて、僕、渡川、羽場の3人は車まで移動する。

 移動の途中で蚊が1匹飛んでいたので手で払いのけた。

 僕たちは車に乗った。

 運転手、助手席にフランク、後部座席に3人、真ん中に羽場。

 僕たち3人はアイマスクをつけて車は出発した。


 しばらくして車は止まった。

「マスクを外して外に出な」

 と、フランクに言われたので僕達はアイマスクを外して外に出る。

 細い道の行き止まり、まわりに多くの木が生い茂っている。


 どこだここ?

 辺りに建物などは一つもなく、大きな音を出しても問題なさそうな場所だ。

 拳銃を発砲しても大丈夫そうだな。


「……」

 僕はフランクの顔を見る。

 険しい顔をしている。


「あ、あの……。渡川はどうでもいいので、僕と羽場さんの命は見逃してもらえませんか?」

 ダメもとで聞いてみる。

「なにか勘違いしてねえか? 何もしねえよ」

 フランクは道の先を指さした。


「この一本道を下っていくと村がある。そこでタクシーでも呼んで帰ってくれ」

「どうせなら村まで送ってくれよ」と渡川。

「この国で羽場は有名人だ。目立ちたくない」

「なるほど」

「では預かっていたスマフォを返す」

 フランクは僕と渡川にスマフォを返した。



 僕たち3人はフランクと別れて道を歩き始めた。

 しばらく歩いていると、渡川は自分のカバンをガサゴソあさり、皮ケースの箱を取り出して羽場に渡した。

「羽場さん、これ預かっといてください」

「なんだこれ?」

「2人分のワクチン、羽場さんと夏木君の分です」

「……」「……」僕と羽場は言葉を失う。

 渡川が続けて話す。

「あの場にいたものはアルジャーノンと私を含めて全員感染した可能性があります、成雪君は対策したので多分大丈夫です」


 え? マジで感染したのか僕ら?

 どうやって?

 羽場が口を開く。

「それは無理だ。彼らはガスマスクをしていてカナリアは無事だった。金塊に素手で触っていない。メンバーは君と成雪君の動きに注意していた。感染させることはできない」


「昔、仕事仲間にいましたよね、それができる物を作ってしまった女が」

 羽場は少し考えた。

「……ショウジョウ、魔女か。現地で火あぶりにされて死んだだろ」

「あれ、よく似た人形とすり替えたので生きてます」

「生きてるのか……」


「はい、彼女からアレをもらいました」

「盗んだのか?」

「もらいました」

「盗んだんだろ?」

「しつこいなーー」

「そうか、彼女のなら可能か。それを使った君は死んだら地獄行きだ」

「生きていても地獄ですよ」

「……」

 この2人は何を話しているんだろう。

 口をはさむタイミングを失ってしまったな、と僕は思った。


 30分ほど歩くと、村についた。

 羽場が村の人に話をして、タクシーを呼んでもらった。

 タクシーが来て僕たちは乗った。

「で、どこに行くんだ? 渡川」

 助手席に座る羽場が後部座席にいる途川に声をかけた。

「Z国首都の警察本部に行くように運転手に言ってください」

 羽場は目を見開いて驚いた。

「ついに今までの罪をつぐなって服役するのか?」

「違いますよ。警察の捜査本部で羽場さんの妻が待っているから会いに行くんです」

「そ、そうか。君が捕まったらいい弁護士を紹介するからな」

 羽場が運転手に話しかけ、タクシーは走り出した。


 しばらくして、タクシーは警察本部に到着した。

 僕たち3人は受付へ向かった。

 羽場が受付の婦警に声をかける。


『あー、アルジャーノンに拉致されていた羽場穂集です。私の妻がここにいると聞いています』

 なんとも変な説明である。

 受付の婦警は驚いている。

『え? 羽場さん? 本物? 無事だったんですか! 部屋に案内します』

 そして僕たちは部屋に案内された。

 中では複数の警察官と、軍人がせわしなく動いていた。

 大きなホワイトボードには羽場の顔写真が貼ってあり、Z国の地図も張られている。ここが捜査本部のようだ。


 渡川はそこにいた、立場的に偉そうな人に話しかけた。

『お久しぶりです、署長』

 ……渡川、英語しゃべれるんだな。

 話しかけられた男は渡川をマジマジと見つめた。

『渡川三途! てめえ何しにこの国に来やがった!?』

 どうやら署長は渡川を知っていて、その関係は最悪のようだ。


 そんな時、1人の上品そうな民間人の女性が歩いてきた。

「穂集さん、助かったのね!」

 と喜びの声を上げ、羽場に抱き着いた。

「心配かけてすまなかった」

 彼女が羽場の妻なのだろう。

 感動的な光景だ。

 みんなが抱き合う2人に注目する。


 誰からともなくパチパチと拍手をしはじめ、それは部屋中に響き渡った。

『無事でよかった!』『やった残業せずに帰れるぞ!』

 みんなが歓声を上げる。


 2人を見て笑顔になった署長が渡川に近づく。

(事情聴取でもされるのかな?)と僕は思った。

 署長は銀色の手錠を取り出すと、渡川の両手にそれをかけた。

『渡川三途、3年前に入国禁止と説明しただろ。逮捕だ!』

 そういって署長は渡川を部屋の外に連れ出した。

 あっという間の出来事であった。


「……」

 突然の出来事に無言になるみんな。

「前科持ちかよ、渡川!」

 僕は1人叫んだ。



 警察署の待合室。

 僕は羽場とテーブルをはさんで向かいあって座っている。

「先ほど、僕は警察官に事情を聴いてきました。どうも渡川は3年前に治療薬をZ国に密輸をして無許可で貧困層に安く販売していたようです。

 保釈金を払えば渡川を解放してくれるのでお金を貸していただけませんか羽場さん?」


「お金なんて払わなくていいぞ」羽場はそっけなく返事した。

「たしかに渡川は嫌な人です。でもさすがにかわいそうでしょう」

「あいつはわざと捕まっている」

 わざと捕まるだと?

「えっ? 何が目的なんですか?」

「夏木君、アルジャーノンのメンバーが感染したらどうすると思う?」

「……それは、医者に行くでしょう」

「しかし、未知のウィルスで医者は対処できない。渡川は治療できる。どうする?」

「渡川の言うとおりに金塊を返すか、渡川を拉致して治療させる、ですか?」

「もしくは渡川を殺すか。そこらへんにいれば拉致できて殺せるが、刑務所を襲撃するのは至難だ」

 たしかに、拳銃を持った警官が大量にいる刑務所を襲撃はできない。

「アルジャーノンが囚人や警官を買収すれば拉致できませんか?」

「怪しい奴に買収されて犯罪するより、治療薬を安く売ってくれた恩がある渡川についたほうがお得だろう」


「……」

 なるほど、金塊を返すしかないようだ。

 完璧な作戦だ。アルジャーノンのメンバーを感染させるという1点をのぞけば完璧だ。

「感染なんて無理ですよ」

「いや、可能だった。私たちはみんなあいつに視線と思考を誘導された。毒ガスをまかれるかもしれない、金塊が怪しいかもしれないという間違った方向に導かれて、結果見逃した」

「何を見逃したのですか?」


「クイズを出そう」

「クイズ流行ってるんですか?」

「流行ってる。ではクイズだ。1年間で世界中の人間が様々な生き物によって殺されている。では、1番多くの人間を殺した生き物は何か?」

「……」

 人間を殺した生き物か。

 クマやサメが人を殺すイメージが強いが、件数で言うとそれほど多くないと聞いたことがある。


「毒ヘビですか?」

「おしいな、それは3位だ」

 毒ヘビより上が2つもあるのか……。

「あっ、人間だ。戦争や殺人で人を殺している」

「人間は2位だ」

「……わかった、ウィルスだ」

「ウィルスは自己増殖できないから生き物ではない」

 ウィルスって生き物じゃないのか、知らなかった。


「わかりませんね、1位が何か」

「ウィルスを運ぶものだ。それに噛まれたものは感染する」

「……蚊ですか?」

「正解だ。日本では起きていないが、世界で1年間に70万人殺している」

「蚊ってそんなに危険なんですね」

「アジトに蚊がいただろう。渡川が持ち込んだ」


 あーー。

 いたなあ、蚊。

 あんまり気にしなかったなあ。

 マジか。


 ということは、渡川に渡されて僕が塗ったクリームは虫除けってことか。

「蚊でそんなにうまくいきますか?」

「うまくいくからショウジョウは魔女とまで呼ばれ、火あぶりにされた」

 ショウジョウさん何やったんだよ。


「この国大変なことになりませんか?」

「ショウジョウが作った蚊は不妊処理がされておりさらに短命だ。感染拡大は起きない、と思う」

「……」

 生物兵器使うとか、死んだら地獄行きだろ、渡川。

「私は妻を連れて急いで日本に渡る。アルジャーノンのメンバーに見つかるのはよくない。夏木君、君も一緒に帰ろう」

 僕は少し考えた。

「そうですね帰ります。刑務所の渡川なんて置いていきましょう」



 僕が日本に帰国してから1週間後、渡川が帰ってきた。

「おい、みんな見ろよ。校長から金塊借りたぜ。美しいだろ!」

 渡川は7本の金塊を部員にさんざん自慢した。

 そして、部員と一緒に金塊でピラミッドを作ったりドミノ遊びをした。


 その後、僕と一緒に校長室に行ってそれを返した。

 上羅校長は金塊を手に取った。

「アルジャーノンが捕まっていないのに、羽場が助かって金塊も返ってきた? おかしいぞ」

 そして、いぶかしんでいた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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