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黄金の意味


 当日。

 僕と渡川はプライベートジェットに乗った。

 特に何もなく飛行機に乗れた。

 客席に座り疑問に思った僕は渡川に聞く。

「飛行機に乗るのに持ち物検査ないんですか?」

 危険物を持ち込ませないために金属探知やⅹ線検査のゲートを通ると思っていた。

「プライベートジェットだからほとんどないよ。昔、保釈中のカルロスGさんが、楽器ケースに忍び込んで国外逃亡したし、金持ちはやりたい放題だよ」

「へえ、そうなんですね」

 カルロスGって誰だ。


 飛行機はZ国に降り立った。

 Z国は太陽がギラギラと照りつけていて暑い。

 蚊やハエがとんでいてうっとおしい。

 タクシーに乗って宿まで行く。重い金塊が入ったカバンを運んで中に入った。

 夕方、2人で食事をする。


 早速、僕は口を開く。

「渡川先生、以前話した、7億円借りれた理由を教えてください」

「任務が終わってからでよくないか?」

「いや、先生が遠い所に行って会えなくなるかもしれないので、今教えて下さい」


 渡川は首を傾げた。

「遠い所?]

「遠い所です」

「どこ?」

「あの世」

「ははは、面白いな夏木君。わかった今話そう」

 渡川はポケットからスマフォを取り出して操作をした後、それをテーブルに置いた。


 画面に写真が表示されている。

 白衣を来た、男2人、女2人が笑顔でピースをしている写真だ。

「私が研修医だったときの写真だ。私の隣に移るメガネをかけた神経質そうな男の名は、上羅甚(かみらじん)。彼は上羅の一族だ」

 上羅の一族?

「なんですか、上羅の一族って?」

「上羅から産まれ上羅の血を引き継ぐもの、全員が天才だ。教育者、医者、科学者、数学者、政治家と様々な職業の者がいる」

「へえ、すごいんですね」

「ああ。だが一族は呪われている」


「……呪い?」

「遺伝病だ。脳に異常が起き完全な不眠になり眠れなくなる。数か月たって死ぬ。何歳で発病するかは決まっていないが、上羅の一族のおよそ3人に1人が発病して100%死ぬ」

「やばいじゃないですか」

「ほんとに悲惨だ。一族は全員が幼いころに親族を亡くしている。彼らは遺伝病を治す正解を追い求めて命懸けで生きている」

 だから、上羅校長は正解にこだわっていたのか。

「私の友人の上羅甚も不眠が発症してしまった。日に日に彼は弱っていく。世界中の名医が彼を治療しようとしたが治らなかった。

 私も彼の不眠を治そうと努力したよ。催眠術、子守歌、アロマオイルを何個も試したが駄目だった」

「……?」

 変なのばかり試している。

 この人本当に医者なのか? 偽物じゃねえか?


「そして甚は奇妙なことを言い始めた」

「奇妙なこと?」

「『年老いたネズミに若いネズミの血を輸血すると若返る』

『オスのネズミに子宮を移植したが機能しない。しかし、メスのネズミの血を輸血すると子宮は機能し始めた』

『だから、世界中の毒を体内に打ち込んで毒に勝った渡川三途の血を俺に輸血すればこの病は治るのではないか?』と」

「……大丈夫なんですか、それ?」

 ネズミじゃなくてせめてサルで実験しろよ、と僕は思った。


「私の血液型はO型のRhマイナスだ。だから基本的にどの血液型にも輸血はできる。しかし、私は多くの毒を取り込んでいるため非常に危険だ。友人の死に関わりたくないから輸血は断った」

 まあ、当然だろうな。

「甚は私を説得した。幼いころに姉を病で亡くしたこと。遺伝病を治す正解を見つけることが人生の目的であること。輸血で自分が死んでも得るものはあるし責任は問わないと。

 私は熱意に負け責任を問われない誓約書を交わした。そして、複数の医者、上羅校長の立会いの下、輸血をした。

 甚は苦痛にのたうち回り永い眠りについてしまった」

「永い眠り……亡くなったのですか?」

「不眠が治ったんだよ。3日後に起きたし今も生きているよ」

 紛らわしいな。


「では、上羅の一族は呪いに打ち勝ったのですか?」

「いや、そうではない。私の血が効いたのか、甚が服用していた薬と私の血がうまく反応したのかわからない。そして、他の上羅に効果があるか、輸血によってどんな副作用や後遺症が出るかもわからない。だから上羅の一族は今でも正解を求めている。

 そして、私は上羅校長に特別待遇で雇われることになった。色々と融通がきくし、お金も借りられるというわけだ」

「大金を借りられたのはそういう理由だったのですね」

 親族の命の恩人であり、特殊な血液を持った人間。

 上羅校長が渡川を冷凍保存しておきたかった理由もわかる。

 一族のために保存しておいたほうがいいし、死なれると困る。


 ついでに重要なことも聞いてみるか。

「渡川先生、アルジャーノンは7億円を手に入れたあと、何に使うのでしょうか?」

 僕は聞く。この男がテロリストに金を渡すことの意味を理解しているのか知りたい。

「そりゃあ贅沢だろう。毎日みんなでケンタッキー食べれるぞ」

 贅沢のレベルがショボいなあ。


「……銃や兵器を買い、兵隊を多く雇い、Z国の被害が拡大しますよね」

「ああそうか。そういうこともできるな」

 そういうことしかねえよ。

「テロリストにお金を渡したことが判明すれば、渡川先生と上羅校長は大きく非難されますよね」

 国際問題になりかねない。


「そのことを心配していたのか。安心したまえ、渡した金塊は取り返す。そういう計画になっている」

 僕は驚いた。

「テ、テロリスト相手にどうやって取り返すのですか?」

「今は言わない。情報が漏れてはいけない」

「……」


 どうやって取り返すのだろう。

 羽場さんを助けたあとに、警察や軍隊がアルジャーノンを襲撃するのか?

 身代金をお札ではなく、金塊にしたのは戦闘における破損や焼失をおそれてのことなのか?

 わからない。

 僕は疑問を抱えたまま次の日をむかえた。

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