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『十二英雄伝』 -魔人機大戦英雄譚- 【RD事変】編  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
RD事変 一章『富を破壊する者』
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四十五話 「ロキというもの その2」


 【指示通り】にいくつかブロックを進んだ時、いつも以上に広げていた志郎の波動円のレーダーに明らかに異質なものが入り込んだ。志郎はデムサンダーよりも危機察知能力が高く、いち早くその存在に気がついたのだ。


 志郎がたびたび口にする「嫌な予感がする」という言葉であるが、探知能力の高い武人は総じて勘が鋭い傾向にある。彼らは無意識のうちに周囲の探知を行っており、全体の雰囲気として事象を捉えることができるのだ。


 それゆえにデムサンダーも、志郎が言うのならば何かあるかもしれないと思うわけである。そして、その勘は当たることになる。



「ディム、二つ! 速い!」



 その速度からゆっくり説明する暇がないと悟り、とっさに断片的な情報を伝える。コンビを組んでいるデムサンダーにはそれだけで十分だった。即座に戦闘態勢を整える。


 そして三秒後、角を曲がって目の前に現れたのは、奇妙な仮面を被った二人の黒衣の人物であった。制御から離れたブロックの調査に出向いていたロキN6とN7である。


 ここで両者に奇妙な状況が生まれた。

 互いに一瞬見合ってしまい、時間が止まる。


 ロキの二人も、志郎とデムサンダーの存在には気がついていた。しかし反応は非常に小さく、一般人だと想定していた。当然排除するつもりで視界に入ったのだが、いざ発見した瞬間に相手の力量がさらに上だと気がつき、慎重な対応を取ったのだ。


 一方の志郎とデムサンダーも、まさかこんな相手が現れるとは思っておらず、状況を理解するのに一秒ほど要してしまった。


 その両者の状況の差、温度差が、この不思議な空間を生み出すことになる。


 先に動いたのはロキ。

 もともと相手を排除するのが目的であったので対応が早かった。


 N6が剣を抜いて志郎に斬りかかる。



(速い!)



 志郎は敵の素早さに驚く。


 走る速さから動きの良さはわかっていたが、いざ戦闘となったときのロキの速さは異常なほどであった。剣を横薙ぎに払い志郎の胴を切断しようとする。


 相手の奇妙さもあって志郎の反応は遅れた。しかし、驚いて見開かれていたその目が一瞬で細くなり、高鳴っていた心拍のリズムが即座に穏やかなものとなる。そうなればもう身体は自然と動いていた。


 次の瞬間、不思議な現象が起こる。


 斬りかかったはずのN6の身体が、無防備で【宙に浮いていた】のだ。



「――――っ!?」



 ロキN6は、何が起こったのか理解できず周囲を見回す。


 下には平然と立っている志郎の姿がある。その身体に傷は存在しない。とっさではあったがN6は本気で斬りかかった。その攻撃を受けて無傷であることが理解できなかったのだ。


 ただ、それよりも直面しなければならない事実がある。無防備となったN6は反撃を受けねばならないのだ。


 志郎がN6を宙に浮かしたと同時に、デムサンダーは跳んでいた。謎の仮面剣士の顔は見えないが、困惑していることはすぐにわかった。志郎とコンビを組んでいるとよく見る光景なので、デムサンダーに驚きはない。



「うらぁあ!!」



 デムサンダーの蹴りが、N6の無防備な背中に直撃する。防御しようにも完全に崩されたあとなので、まさにクリーンヒットであった。


 直撃を受けたN6は吹き飛ばされ、肉が硬いものにぶつかる音とともに壁に衝突する。



「ディム、やりすぎだよ」



 そのあまりのクリーンヒットを見て志郎が苦言を呈する。



「ちっ、ついマジで反応しちまった。殺しちまったか?」



 相手の殺気に反応して、デムサンダーも本気で蹴ってしまった。常人なら衝撃で胴体が真っ二つ、あるいは粉々になっているところだ。


 そうなっていないことを見れば、相手が強い武人であることは一目瞭然である。それでも無事では済まないレベルの一撃であった。衝撃だけでも、一般人が遭遇するトラックとの交通事故に匹敵する。


 威力は見ての通り。倒れたN6が動く気配はない。



「できれば捕まえたいね」



 相手の素性も気になるし、いきなり斬りかかる状況も理解できない。当然、無意味な殺生もしたくないので、まずは志郎が捕獲を優先するのは妥当な判断である。



「あと一人いる。あっちは捕まえるか」



 デムサンダーはN7に視線を向ける。N7は剣を抜いたまま、こちらの様子をうかがっているようだ。さきほどN6の攻撃を防がれたことで警戒している様子である。



「やっこさん、相当やる気らしいな」



 デムサンダーは、N7から発せられる殺気が増大したのを感じた。


 肌に突き刺さるような殺気は、そこらの殺人鬼など足元にも及ばない。相手は仲間がやられたことなどまったく気にしていないようだ。それどころかますますやる気である。


 その様子が志郎には引っかかる。


 普通ならば、倒された仲間を一瞬でも見るはずだ。そういった視線は必ず生まれる。だが、N7は一度も吹き飛ばされたN6に視線を向けなかった。


 だからこそ気がつけたのだろう。


 気配を殺して起き上がったN6が、再度志郎に対して攻撃を仕掛けようとしていたことに。


 N6は最初の行動とは正反対の静かな動きで、滑るように志郎の死角から剣を突き立てようとする。



「っ!」



 迫る刃に志郎は無意識で対応。両手にまとった戦気を素早く回転させ、渦のような力場を生み出した。N6の刀は、その力場に触れると巻き込まれるように方向が逸れ、志郎から遠ざかる。


 渦の力場は、攻撃してきた相手の力に比例する。自身が放った渾身の一撃に引っ張られてN6は再び宙に投げ出された。


 覇王技【覇小無はしょうぶ渦舞うずまい】。相手の戦気の流れを利用する防御系覇王技である。戦気の流れを利用するので、生まれもった戦気の量が少なくても扱える技だが、流れを読む感性と相手の戦気に合わせる柔軟さが必要な高度な防御技である。


 かつて武人の頂点である覇王でありながら、攻撃ではなく防御を極めようとした変わり者の女性がいた。彼女は自らを覇小はしょうと称し、武をと呼び、こうした防御の型を積極的に編み出していった。


 ダマスカスで発展した合気道のような武術も、彼女が編み出した技を参考にしたものといわれている。初手でN6の攻撃を宙に弾いたのもこの技である。


 防御。たかが防御。

 されど防御である。


 それを極めた者は、あらゆる災厄から身を守ることができる。技を編み出した覇小は、何万という軍勢をたった一人で無傷で制圧したともいわれるほど強かった。


 彼女は何もしない。ただ流れるままに歩いただけ。そんな彼女に何もできなかった武人たちは戦意を喪失するしかなかった。守り勝つ。それもまた最強の称号である。


 志郎は「覇小無」という武を知った時、打ち震えた。生まれもって戦気の少ない彼は、一時期伸び悩んでいたのだ。戦気は、攻撃にも防御にも必須のものであり、武器の残弾と同じ意味を持つ重大な要素だからだ。


 しかし、覇小の技はその名が示す通り、非常に少ない戦気でも発動できる技ばかり。重要なのはタイミングと戦気の質である。技をひたすら磨くことで、志郎は一気に成長したのである。


 その技の冴えは、ロキの攻撃すら凌ぐほどである。



(危なかった)



 志郎は肝を冷やす。正直なところ防げたのは奇跡に近かった。


 N6の攻撃は完全に死角からであったし、志郎は直前まで気がついていなかった。それでも対応できたのは、エルダー・パワーとして日々鍛錬してきた結果である。


 師範の一人である剣士特別第二席、黄虎おうことの訓練においては殺気のない攻撃は当たり前である。殺気のない攻撃を防ぐには、自身もそうあらねばならない。


 もし志郎が相手に危害を与えることを目的に殺気を帯びていれば、おそらくロキの攻撃には対応できなかったに違いない。防御に専念し、相手を制圧することだけを考えていたからこそ反応できたのだ。そうでなければ確実に致命傷だったことだろう。



(相手は本気だ!)



 この瞬間、志郎は初めて死の予感を感じた。


 ロキは予告もしなければ、話し合いのそぶりもしない。ただただ相手を殺すためだけに行動している。志郎は今までの実戦経験から、ロキの危険な雰囲気を感じ取っていた。



「こいつ、まだ動けたのか!」



 デムサンダーは躍動し、再び宙に飛ばされたN6を追撃しようとする。が、すでにN7が風衝・十閃を放っていた。


 十にも及ぶ風の刃は、跳躍したデムサンダーの行動を封じるように全方位から迫ってくる。避けられないことを悟ったデムサンダーは、全身から防御の戦気を放出してすべてを受け止めるも、荒れ狂う暴虐の刃が肉を切り刻む。



「ディム!」


「大丈夫だ!」



 そうデムサンダーは言ったものの、肌には複数の切り傷が見受けられた。



(ディムの防御を貫くなんて!)



 デムサンダーの防御はけっして悪くなかった。もともと強靱な肉体を誇る彼は防御力が高い。それを切り裂くのは容易ではないのだ。志郎はその技の切れに驚愕する。


 N6は平然と着地すると再びN7と合流する。その動きに淀みはなく、違和感もない。



「ちっ、蹴りのダメージはないってか!? 志郎、こいつら普通の相手じゃねえぞ!」



 デムサンダーの蹴りを受けて動けるだけでも驚きだが、相手はまったくダメージを感じさせない動きをしている。これが普通の反応でないことは明白だ。


 同時に、このアピュラトリスでの異変が、想像を超えたものであることを悟る。



「どうやら、お嬢様が招待されたのは仮面舞踏会だったらしいな。仮面がないと入場お断りだってよ」



 デムサンダーが仮面のロキを見て皮肉を言う。



「でも、これじゃ武闘会だよ」


「ははっ、ちげぇねーな」



 さすがのエリスも、このような状況は想定していなかっただろう。


 仮にこんな相手を見つけたら、速攻で爆弾を投げつけそうで怖い。いなくてよかったと心底思う志郎たちであった。



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