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『十二英雄伝』 -魔人機大戦英雄譚- 【RD事変】編  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
RD事変 一章『富を破壊する者』
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四話 「アーズ、飢えざる者」


「アー…ズ?」



 ユウトは聞き慣れない言葉を反芻はんすうする。やはり知らない言葉だったので何度も首を傾げた。



「知らないのも当然だ。表に出られる組織ではないからな」



 そうした反応は、ユニサンにとってはいつものことだ。驚くこともない。


 ただ、この国がダマスカスという意味では、アーズという組織はいろいろと馴染みが深い。



「そうだな、四年前に起こった政府高官の殺害事件を知っているか?」


「四年前…、そういえば…」



 ユウトがアピュラトリスに入る前のことだ。政府の高官が惨殺された事件があった。当時はかなり大きなニュースになっていたので今でも覚えている。


 被害者は外務省の次官を含めた八人。


 七人は護衛の人間ですぐに身元が割れたが、次官については当初発見されたのは身体だけで、しばらく【頭部】は見つからなかった。


 発見が遅れた理由は、頭部の皮が剥がされていて個人の特定ができなかったことと、その頭部が食肉加工場に隠されていたからだ。


 加工の際、明らかに豚とは異なる肉が流れてきたため、従業員が異変に気がついたという非常に凄惨な事件であった。



「まさか…それが…!? でも、あの事件は犯人が捕まったはずじゃ…」



 犯人は精神異常者で、この事件について特定の組織による犯行声明もなかったため、テロではないとされていた。


 ユウトも悲惨な事件ではあったが自分とは関係がないので、この件について深くは考えたことはなかった。


 しかしである。


 冷静に考えてみれば、たかだか精神異常者一人が政府の高官を殺せるだろうか。それも次官という非常に高い身分の存在である。


 彼は常に四人以上の腕利きのSPを連れていたはず。今回においてはさらに多い七人だ。軍人か強力な武人ならいざ知らず、一般人による犯行は到底不可能に思える。


 実のところアーズは政府に対して犯行声明を出し、要求もした。


 だが、ダマスカス政府はけっして情報を外には出さなかった。テロに屈するかどうか以前に、テロそのものをなかったことにしたかったからだ。


 アーズもまたそれ以上の追及はしなかった。ダマスカスは人間も消耗品と同じように考える傾向が強い国。次官が死ねば代わりの者を登用すればよいだけなのだ。


 また、アーズという組織は宣伝という意味でのプロパガンダを好まず、実質的な変化を求めるのが理念である。大衆に対して事件を訴えたところで何かが変わることがないこともよく知っていた。


 見る目のない人間、聞く耳のない人間に何を言っても無駄なのだから。


 ユウトは、ユニサンの言葉が真実だと思った。


 それは現状が証明している。この難攻不落のアピュラトリスに侵入し、一番厳重であるはずの第三制御室に堂々といる男の言葉だ。そんなところで見栄を張る必要もない。



「酷い。どうしてそんなことを…」



 凶悪犯が目の前にいる恐怖よりも、ユウトは残酷さに対して嫌悪感を覚えた。あまりに非人道的だからだ。


 しかし、ユニサンの言葉はまったくの別の視点だった。



「これほど慈悲深いやり方はない。すべての人間が即死だったのだからな」



 彼は慈悲深いと言った。実際、被害者は苦しむ暇もなく絶命したのだ。すべて一撃によるもので、確実に急所を狙ったことによる即死だった。


 アーズは相手を苦しめることをしない。憎しみで動いているわけではないからだ。もっと合理的で実質的なものを好んでいる。


 顔の皮を剥いだことも強いメッセージ性があった。人間は誰もが同じ血液を持つだけではなく、一皮剥けば骨と肉の塊の存在。そうなれば誰もが皆平等であることを示すためだ。


 この地上において、【女神の子であるすべての人類】は平等に扱われなくてはならない。


 それがアーズの主張である。一つだけ誤算だったのは、処理を任せた人間の怒りが収まらず余計な行動を取ったことだ。食肉加工場への投棄までは計画になかった。


 これはダマスカス政府がテロを認めなかったため、結果的に容認されることになった。事件が双方ともに意味のないものになったからだ。



「これも報道されていないが、やつらはODAで不正を行っていたのだ」



 ダマスカスはODAという形で海外支援を行っている。対象は主に貧困国で、食料だけではなくライフラインの整備、その管理をする現地住民の教育など、規模はかなりのものだ。


 ただし、そうした事業の多くは自国のゼネコンや商社が担当するので、結局はダマスカスの利益に還元される。ODAは名目でしかない。


 むろん、多くの貢献をしている事業ではあるが、被害者の次官たちは多額の不正に携わっていた。これも公表されていない情報である。



「それでも人の命をそんな簡単に奪うなんておかしいですよ」



 不正があったならば暴けばいい。政府が認めなくても公になれば何かしら動きはある。ダマスカスには正義だってあるのだ。それがユウトの考えだった。



「それが裁かれなくてもか?」


「…それは悔しいですけど、正しいやり方があるはずなんです。そのための司法でしょう」



 その言葉はユニサンに「ダマスカス人らしいな」と思わせるのに十分だった。


 ダマスカス人は平和に慣れている。慣れきっている。金と物が溢れ、どんな人間でも生活が保障されるものだと思っている。


 それは間違いではない。ユウト自身は善良な人間であり、その言葉も本心から述べられたものであることはすぐにわかった。


 彼を責めるつもりも言い返すつもりもない。それができれば一番であることはユニサンも同じ気持ちだからだ。しかし、どうしても許せないことがあった。



「では、これはどうだ? 連中が企画した【世界一周ボランティアの旅】だ」



 この企画は大々的に宣伝され、多くの賛同者を集めた。その多くは一級富裕層で、財閥層からは多額の支援金が集まった。


 ユウトはそれに聞き覚えがあった。公職にあった者ならば一度は聞いただろうフレーズだったからだ。


 その時は「また変なことやりだしたな」程度にしか思わなかった。被害者たちも、それが惨事を招くなどとは夢にも思わなかっただろう。



「ボランティアとその事件に何の関係があるんですか? そりゃ不正があったなら資金が流れたんでしょうが…」



 ユウトが疑問を続けようとした時、空気が冷たくなったような気がして身震いする。


 見ると、ユニサンの気配が変わっていた。


 静かに怒りを噛み殺すような表情は、ダマスカスにある寺院の【鬼】を彷彿させる。その表情と気配にユウトは完全に呑まれてしまう。



「あれはな、公金を使った【接待】だったんだよ。しかも最低のな」



 彼らが計画したのは、文字通りのもの。世界一周旅行をしながらボランティアを行うといった企画だ。

 

 豪華な大型客船に乗った富裕層たちは、旅の途中で貧困国に立ち寄っては施しを与えた。その光景はテレビでも放映され、彼らの【美徳】を最大限にアピールする。


 そして再び豪華な船に乗り、船内での豪遊を繰り返しながら他の貧困国に向かい、同じように施しを与える。施した物資は多く、たしかに貴重であった。少しばかりの腹は膨れたかもしれない。


 だがしかし、彼らは大きなものを傷つけられた。



「【誇り】だ! 人としての尊厳だ!! やつらは遠慮なく一番大切なものを踏みにじったのだ!!!!」



 貧困者を集め、事前にリハーサルを行う。


 施しを与えられたら頭を下げて感謝するように指示する。


 それを嫌って離れる貧困者もいたが、残る者も大勢いた。彼らには養うべき家族がおり、栄養失調で死を待つだけの子供が何人もいるのだ。そのためならばプライドを捨てるしかない。



「彼らが感謝したと思うか? そんな者は一人もいなかった」



 残されたのは【見世物】にされたという屈辱だけ。


 唯一あった尊厳すら踏みにじられ、悔しさに塗れながらも必死になって頭を下げたのだ。下げさせられたのだ。


 弱き者は呪った。


 相手をではない。自分自身をだ。


 富を持たない自分を呪った。哀れんだ。


 それはたしかに弱さだろう。心が弱いのだからそう思うのだと罵るのは自由だ。


 だが、彼らは本当にそうした呪いを自分に放たねばならなかったのだろうか?


 違う。違う。


 彼らは本来ならばもっと可能性を持っていた。持とうとしていた。貧しくとも懸命に生きようとしていた。そうした最後の家までやつらは侵したのだ。



「人はな、心で生きているのだ。富があろうとなかろうと誇りは誰もが持っている。誰に踏みにじる権利があるのだ! お前たちにあるのか!!」



 ユウトには、溢れる怒気が彼の肉体から迸ったように見えた。


 赤く、少し黒い何かがユニサンの周りを覆っている。


 事実、溢れていた。


 怒気は【戦気せんき】となり、実体化していたのだ。


 初めて触れる戦気にユウトは強い圧迫感と同時に、ユニサンが持つ怒りに直接的に触れる。


 哀しみ、怒り、怒り、哀しみ、怒り、怒り、怒り、怒り、怒り!!


 アーズは基本的に現実的な変革を求めるように要求をする組織だ。本来ならばこのような不正程度で行動は起こさないが、ダマスカスの高官は最大の失策を犯した。


 彼らの頭の中は金と物だけに染まっていて、人間にとって最も大切なものについて考えが至らなかったのだ。


 腐りきっている。


 自尊心と自己顕示欲を満たすためだけに偽善を行う富裕層。彼らは一見すれば慈善活動を行っているように見えて、実態は自己の欲求を満たすためだけに行っていた。


 自分は正しいことをやっている。困った人間に施しを与えるなんて素晴らしい人間だ。自画自賛こそが彼らの求めるものだった。そして、その欲求を満たすことで高官たちは莫大な金を手に入れる仕組みであった。


 偽善であってもしないよりはいい。実際に多少なりとも資本が貧困者に還元されたのは事実。そして、もっと大切なものを踏みにじったのも事実。


 だから殺された。


 惨めに、哀れみを請い求める食肉用の豚のように。


 豚は人間に命乞いをする。


 だが、人間はそれを聞かない。許さない。


 だから彼らもその言葉を聞かなかったのだ。


 ただそれだけのことでしかない。


 立場が変わっただけにすぎないのだ。


 それが【富める者の義務】を怠った末路であった。



「………」



 ユウトは言葉が出なかった。


 ダマスカスの高官たちの恥知らずな行いに対してはもちろんだが、あまりに簡単に人を殺してしまえるユニサンたちに対しての恐怖でもあった。


 人が動くには原動力が必要だ。ユウトは社会的成功を欲する人間であるものの、人を殺してまで成し遂げようとは思わない。社会のルールもあるし倫理感もある。そうまでしなくてもダマスカスでは食べることには困らない。


 だが、彼らは人を殺せるのだ。


 自分とは人種が違うのだ。


 その視線に気がつき、ユニサンの怒りの表情は少しずつ歪んでいく。笑顔の形に。



「不思議か? 俺たちが自己の主張や不満をぶつけているだけの者に見えているか? だからお前たちは無知なのだ。いや、【無為】なのだ」



 富んでいる人間には、そうではない飢えた人間以上に豊富な知識がある。環境が整っているので、その気になれば世界の惨状について知ることができるのだ。実際に報道もされているので情報はある。


 しかし、無為である。


 彼らは何もしない。


 知ったとしても理解しようとはしない。


 行うのは偽善のみ。偽善は弱者の心をさらに抉る最悪の行為なのだ。それは許せないことだ。


 ただし、そこに限界があった。



「我々は誤っていたのだ。間違っていたのだ。これでは上手くいくはずもなかった」



 ユニサンは自己否定を認める。アーズの行動は間違っていたのだと。


 だが、それももうすぐ終わりを告げることになる。


 ユニサンの登場こそが、この【シナリオ】の幕開けとなるからだ。


 強者と弱者の立場を入れ替える【悪魔のシナリオ】の。


 いや、立場を変えれば【救済のシナリオ】なのかもしれない。紛れもなく彼らにしてみれば救世ぐせなのだから。



「そして、それは【一人の男】によって成る」


「それがあなた…なのですか?」



 ユウトにしてみればユニサンは得体の知れない男だ。発する気配も込み上げる怒りも今までの人生で感じたことのない大きさを感じる。



「俺が? 俺がか!? はは、ははははは! 無知とは恐ろしいものだな。お前はエリートなのだろう? それなのに何も知らないのだな!」



 ユニサンは笑う。


 自分など蟻にも満たない存在であると笑う。【その男】と比べれば、彼というカリスマに比べれば、世界のすべてが霞んでしまうのだと笑う。


 アーズ、【飢えざる者】と呼ばれている彼らの組織は、もともとは貧困救済を目的としたNPOの慈善団体だった。


 当初は一人のダマスカス人が海外で始めた個人活動だったこともあり、当人の余った資産で運用できる程度の規模であった。一人が暮らすには多すぎる資産を分配していたにすぎない。


 日々の地道な活動もあってか、その規模は少しずつ拡大していったが、あくまでNPO団体。やれることは限られており、当然ながらこうした過激な活動は行われていなかった。



 それが変わったのは、【一人の子供】が現れてからだ。



 子供は過激な妄想に走るもの。自分の世界だけがすべてだと思い、好き勝手なことを言う。


 「あれができたらいい」「これがしたい」「こうあるべきだ」、そんな程度の妄想だ。


 それらは現実という壁によって簡単に崩れさる可愛い妄想。学校に通って、社会に出ていけばおのずと薄れていく淡い考えにすぎない。


 最初は皆もそう思っていた。なぜならば自分たちがそうだったから。子供の考えなど簡単に大人たちに打ちのめされ、社会に潰されてきたから。


 だが、その子供は違った。


 彼が言ったことはすべて現実になった。


 彼が指示したことは全部実行された。


 団体の資金を運用して利益を上げ、活動の幅をさらに広げていった。できることも劇的に増えていった。いつしか子供は少年となり、少年でありながら団体のすべてを掌握するカリスマとなっていた。


 知能だけでなく武にも秀で、理想を語り、弱き者たちを引き上げる彼は、間違いなく指導者として最高の資質を持っていた。


 彼も最初は富を分け与える行動で満足していたようだった。知恵を与え、人権を守るために方々に根回しをして生活の向上を図った。時に暴力に対しては力で対抗したが、あくまで自衛や弱者を守るためだった。


  しかし、少しずつ何かが変わっていった。


 彼の主張することが激しくなったのは、何がきっかけだったのだろうか。


 デフォルトした国家に対して国連軍が略奪を始めた時だっただろうか。女性が子供を抱えたまま焼かれた時だっただろうか。飢えた子供に自身の足を与えた父親を見た時だっただろうか。それとも、雪降る街での異教徒同士の殺し合いを見た時だっただろうか。


 どちらにせよ、変わらぬ現実に対して彼が取った行動は諦めではなかった。抵抗でもなかった。


―――【支配】


 そう、彼は現実を支配することを選んだのだ。


 誰もが諦めてしまう壁を見て、彼は思った。



「なんて脆い壁なのだろう。本気になれば今すぐにも壊せてしまえそうだ」



 彼の要求は次第に大きくなっていき、政府や企業、組織に対して激しい追及をするようになっていった。いつしかそれは脅迫に変わり、対抗措置として過激な行動も取るようになった。


 ここでも本来ならば壁に当たる。相手も抵抗するのだから反撃に遭えば挫折もするだろう。痛みを味わえば弱気にもなる。


 しかし、そこでも彼は普通とは違った。


 才能が違いすぎたのだ。


 彼は成し得てしまえた。武力においても知識においても、そのカリスマにおいても。彼さえいれば何でもできたのだ。脅迫も誘拐も闇討ちも、果ては戦争行為までも。そしてついにアーズは武力組織へと変わっていき、その名も変わった。


 反先進国組織アーズ―――【飢えざる者】へと。


 彼らの最大の目的は、最優先課題である食料の平等分配であった。まず何よりも飢えないことを目指したのだ。それが名の由来である。


 ただし、近年では彼らの活動に限界が見えていた。テロを行うにしても小規模のもので、それによって現実はまったく変わらない。飢える者は飢え、富める者は富み続ける。社会に構築されたシステムがあまりに強大なのだ。


 彼にもそれは打破できないかのようにも見えた。だから周りの人間も弱気になっていたのかもしれない。次第に組織の活動はほとんど形骸化していった。


 否。違ったのだ。


 それは凡人の視野でしかなかった。彼はやれたのだ。そのための準備もしていた。武器も揃えた。人脈にも目処を立てた。他国を操るための計画も立てていた。


 だが、やらずにいた。


 彼に残されていたわずかな【良心】、そして【理想】がかろうじて最後の決断を止めていた。


 それが血によって拭われた時、彼は真なる救世主になった。


 弱者の、弱き者たちの【英雄】へと。


 そして、強者に対する【悪魔】へと。


 その彼が戻ってきた時、ユニサンは身震いするほどの高揚感と戦慄を覚えた。神秘主義者が神の面影を見たときのように、物理学者が新しい法則を発見したときのように、あるいは死刑囚が死刑執行直前に愛を知ったかのように、震え、涙を流した。


 大の大人が、屈強な男が泣き叫び、許しを求め、救いを欲し、使命を求めた。どうか自分を使ってくださいと請うたのだ。


 悪魔は従うことを許した。


 ユニサンは許された。今までのすべてを。


 この瞬間、ユニサンはすべてを捧げたのだ。すべてを受け入れたのだ。


 自身が蟻であること。使い尽くされ、捨てられることを受け入れた。命令されたからではない。自らそうしたかったのだ。


 それこそが彼という存在。【彼らにとっての救世主】の存在である。



「ユウト・カナサキ。お前は悪い人間ではない。無為が許されるわけではないが、お前個人を責めるつもりはない」



 ユニサンはユウトを嫌ってはいなかった。かつての自分ならば不満に囚われて見境なく殺していたかもしれないが、今はもっと【正しい価値観】を身につけていた。


 この社会そのものがすべてを誤ったのだ。一番大切な教育を疎かにし、うがった価値観をユウトたちに植え付けてしまった。だから今は哀れんでもいる。


 彼らを責めることは、生まれながらにペットショップにいる子犬に責任を問うようなもの。それはフェアではない。彼らは社会に飼われている【家畜】なのだから。



「だが、痛みは味わってもらおう」



 ユニサンの顔は無表情だった。静かに決意を秘めた表情だ。それがたまらず怖かった。


 むしろ怒っている時のほうがまだ人間味があって温もりがあった気がする。そこには感情があった。人としての怒りがあった。だが、今は完全に消えてしまった。能面のような顔にあるのは目的を遂行する意思だけ。


 今のユニサンは感情を乱すことなく、ためらうことなく、ある種の慈悲を込めて相手を殺せるのだろう。


 助けを求める者の喉を潰し、両腕を引きちぎり、痛みを与えながら殺せるのだ。それがたまらなくユウトには怖いのだ。



「僕を…殺す…んですか?」



 ユウトは今になって彼らの怖ろしさを理解した。


 彼らは何でもやる。やれてしまうのだ。一度決めたらやり抜いてしまえるのだ。



「幸か不幸かお前には役割がある。素直にここにいれば明日には救出されるだろうさ」



 生きている者が残っていればな、という言葉を残してユニサンたちは出ていった。


 部屋からユニサンが出ていったあとも、ユウトはただただ縮こまっていた。歯が噛み合わないことに苛立ったように、ガチガチと歯軋りを繰り返す。


 ユウトは、生まれて初めて人間が怖いと思った。


 その意思が、その執念が。


 きっと世界を燃やせる存在がいるとすれば、それは人だけなのだと知った。


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