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『十二英雄伝』 -魔人機大戦英雄譚- 【RD事変】編  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
RD事変 一章『富を破壊する者』
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二十話 「預言者 その1」


「サカトマーク・フィールド、あと十三分以内に発動可能です」



 マレン・ルクメントは、アピュラトリスのシステムを管理しながら後方にいる人物に報告する。


 アピュラトリスが誇る絶対防壁システムであるサカトマーク・フィールドは一度発動すれば絶大な防御力を誇るが、発動するまでには面倒な準備が必要であった。


 塔の外壁に沿って設置された約八万七千個のジュエルモーターを動かすには、それに見合うだけの巨大なエネルギーが必要である。幸いにもそれはアナイスメルから得られるのだが、変換作業が必要なのだ。それに時間がかかる。


 また、この作業は誰にも知られずに行わねばならない。マレンはオンギョウジたちのサポートを行いながらこうした作業もしていた。



「そのまま続けろ。タイミングはこちらで指示を出す」


「了解しました」



 男は会話を交わしたユニサンを想いながらマレンが操作している媒体、【疑似オリハルコン】が埋め込まれた操作板を見つめる。


 そこにキーボードというものはなく、第三制御室にあったようなデバイスが存在し、マレンはそこに両手を乗せているだけであった。


 だが、これだけで十分なのだ。


 普通のシステムではアピュラトリスに侵入などできない。もしそれができるとすれば【賢人の遺産】しかない。


 この疑似ミッシング・パーツは【ペア】として存在しており、ユニサンがはめこんだミッシング・パーツを通じて全システムに介入する仕組みになっていた。これがなければ、いかにメラキ序列五位のルイセ・コノとはいえ、アナイスメルに干渉などできないのである。


 それを思うと、ユニサンやロキがいかに重要な任務を負っていたかを再認識し、命をかけて臨んだ彼らに最大限の敬意を表したい気持ちになる。


 そして、彼らに必ず訪れるであろう破滅に、それを受け入れた彼らの誇り高き心に心が震えるのだ。



(すまぬ)



 割り切れと言われれば割り切る。すでに何度も割り切って生きてきた。だから今度も割り切れるはずだ。


 しかし、ユニサンという男は幼い頃からよく知っている友である。その彼を犠牲にすることは男にとっても苦痛であった。


 それでも事態は進んでいく。止まることは許されない。



「ロキたちは司令室を制圧。司令官を捕縛したようですがどうしますか?」



 その後、ロキたちは労せずに司令室を落とすことに成功していた。その理由は意外なものであった。



「【降伏】か。まさかそのような決断をするとはな」



 そう、ナカガワの決断とは降伏であった。


 すでに敗戦は確実だと悟ったナカガワはあっさりと降伏を決断した。それがどれだけのことを意味するか、ダマスカス人でなくても容易にわかるものだ。


 ダマスカスそのものであるアピュラトリスが奪われることを容認するということは、まさに売国奴と呼ばれても仕方のない行為である。ましてや軍属のナカガワならばなおさらだ。生き残っても死は免れないだろう。


 それでも彼は、このまま全滅するより降伏を申し出たのだ。すでにシステムが乗っ取られていることはわかっていたので、マレンに対して呼びかけた。


 この降伏に至るまでのやり取りは司令室内でも幾ばくかの議論を呼んだが、ナカガワは自分が全責任を取ることで押し通した。


 悩んでいる時間で兵士が次々と死んでいくのだ。他の軍人ならば難しかっただろう決断は、自由を愛する海の男によってたやすく成されたのだった。



「司令官のナカガワ様は自決を求めているそうですが」


「ふっ、腐っても将校か。司令室はもう大丈夫か?」


「はい。すべてのシステムをロックしました。防護壁を下ろせば誰も入れません」


「司令官は縛って隔離しておけ。そのような人間ならば顛末を見届ける権利もあろう」



 ダマスカス軍人は大きな戦から離れて久しい。それゆえに軍部は形骸化しつつある。その中でナカガワは枠に囚われないものを持っているようだ。


 それがこの男、フレイマンには面白く映る。



「オンギョウジの現在位置は?」


「直通ルートで地上に向かっております。あと三分弱で到達する予定です」



 司令室を突破したオンギョウジたちも、想定外の事態はあったものの順調に進んでいた。


 あと数分もあれば地上一階に到着するだろう。そのまま地上六階にまで行けば最上階エリアにつながる直通エレベーターが使える。彼らが屋上で仕事を完遂すれば、ついに第三ステージである。



「司令室のロキもオンギョウジの援護に向かわせろ。まだ油断はするなよ」



 計画は順調であった。このままいけば第三ステージへの移行も問題なく進むだろう。


 ただ、この男、フレイマンには少しばかり懸念があった。



「ザンビエル、情報が漏れているのではないのか」



 フレイマンは、自身の背後にいるザンビエルという一人の老人に対して少し厳しい口調で問いつめる。


 事前に調査した限りでは、アピュラトリスにはダンタン・ロームのような術対策はされていなかったはずだ。もしそれがなければオンギョウジも無駄に消耗しないで済んだのだ。


 計画は順調なのだが、物が物だけに気になる。簡単に導入できるものではないし、隠行術に精通している必要がある。隠行術はメラキの得意中の得意の技となれば、やはり疑ってしまう。



「そのようなことはありえぬ」



 ザンビエルは当たり前のことを聞くなと無愛想に答えた。それもフレイマンには気に入らない。



「お前たち【メラキ〈知者〉】は一枚岩ではなかろう」



 メラキ。ルイセ・コノやザンビエルのような存在を知者、メラキと呼ぶ。彼らは【悪魔】がアーズを取り壊して生み出した【ラーバーン〈世界を燃やす者たち〉】に新たに加わった者たちである。


 ユニサンが自身を最後のアーズと名乗っていた通り、すでにアーズは粛清され、構成員は一部を除いてすべて新たな人員によって構成されていた。新たに集められた人材の多くは【天才】と呼ばれる人種である。


 一年前のガネリア動乱時において、もともと彼の呼びかけに賛同していた者たちもいれば、リサーチして勧誘した人間もいる。マレンもその時に加入した人間で、もともとハッカーをしていた純朴な青年であったが、悪魔のあまりの魅力に即座に陶酔することになる。


 だが、悪魔一人でこれだけの力を集めることはできない。そこには【賢人】の力が必要となる。


 それがメラキという存在。

 【賢人の思想】を受け継ぐ者たちなのだ。


 悪魔が悪魔になった時、最初にザンビエルが現れ、頭を垂れた。



「主よ、我ら一同、光輝く意思の命によって集いました。どうぞ配下にお加えください」



 ザンビエルは悪魔が誕生することをすでに知っていたのだ。


 その時に加わったメラキたちの多くは賢人の遺産を持ち合わせていた。そう、彼らは【賢人の遺産の管理】を任されていた者たちなのだ。


 誰に? 賢人に?


 いや、メラキは賢人ではない。あくまで賢人の【思想】に殉ずる存在なのだ。彼らもまた【賢人そのもの】に出会ったことはない。


 その意味するところは、単純にそのまま受け取ることができないから難しい。この複雑さこそが賢人という存在を今まで理解できないものにしていたといえる。


 あの偉大なる者に次ぐといわれた【黒賢人くろけんじん】はどこにいるのか!


 それに答えられる人間はどこにもいない。

 それは叡智であり、真理そのもの。


 そもそもどこにいるとか、あそこにいるとか誰が賢人だとか、そんなものにはまったく意味がないのだ。


 黒賢人は黒賢人であればよい。

 ただそれだけで世界が動くのだ。


 そして、これらの力はすべて、悪魔が悪魔足りえた時に動かすことを許可されたものであった。そして、彼が悪魔になることは【史実】だったのだ。


 疑似オリハルコンも賢人の技術によって作られたものである。この生まれ変わった【巨大戦艦ランバーロ】もまた、賢人の財力と技術によって強化された存在であった。


 そもそもランバーロ自体が賢人の技術を使って造られたものである。ガネリア動乱の時に使われたランバーロはあくまで悪魔が【出力を意図的に抑えた】ものであった。あくまで人として扱える範囲に留めたものでさえ、あれだけの力を持っていたのだ。その枷が外れ、真なる力が発揮された今こそが本来の姿である。


 これこそが悪魔の城に相応しい。


 だが、フレイマンにはまだメラキに対する【嫌悪感】がどうしても拭えないのだ。フレイマンはザンビエルの能力は信じていても、すべてを信じているわけではない。これはラーバーン内のバーンとロキを含めた構成員すべてにいえることである。


 それはおそらく、あの時に出会った黒い少年を思い出すからであろう。

 もし彼が訪れなければ、悪魔は生まれなかったに違いないのだ。


 フレイマンにとってメラキとは、ある意味で憎しみの対象でもある。しかし、今は頼らねばならない相手。そうした矛盾が今の嫌悪感を培ったのだろう。こればかりはどうしようもないことであるし、隠そうとも思わない。


 暴発しそうになる気持ちを抑え、フレイマンは静かにザンビエルを問い詰める。



「では、この一件をどう説明するのだ?」



 彼らの中には明確な役割分担が存在する。


 戦闘はバーンやロキ、情報操作や技術的なものはメラキが担当している。マレンなどのような者はレレメル〈支援者〉と呼ばれ、その中間を補う役割を担っている。


 これらは全部で一つを構成している以上、両者は反目し合っているわけではない。強い協力関係にある。だが、求めているものが同じとは限らないのだ。



「情報は漏れておらぬ。これは断言しよう」



(断言…か)



 ザンビエルの言葉は自信に満ち溢れていた。


 その自信がどこから来るのかフレイマンにはいまだ謎だが、メラキの実力は認めるしかない。実際ルイセ・コノがこうしてアナイスメルにダイブし、前人未踏の百十階層にまで達しようとしている。それだけを見てもメラキの力は異常である。


 そう、異常すぎる。


 このような現代人類社会の限界をたやすく突破した者が、まったくの無名で存在していたことがあまりにも不自然なのだ。


 だが、そのことそのものが、彼らの力の異常性を証明している。彼らが完全に情報を隠匿しようと思えば止められる者はいないのだ。賢人の遺産であるアナイスメルを使い、全世界の富が集まるダマスカスでさえメラキの存在は知らないのだから。


 ただし、それはこうも言えるのだ。

 メラキとは、【すべての国家に存在している】のだ、と。


 アナイスメルが賢人の遺産である以上、それを本当の意味で管理している者たちがいる。ただ彼らは自らを表に出さず、静かに暮らしているにすぎない。ただの一般人として、ただの物好きな芸術家として。あるいはいち公務員として生きている。そうなれば彼らを見つけることは容易ではない。


 こちらに組みしていない、まだ知られていないメラキがいてもおかしくはないのだ。それが敵に回れば厄介である。



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