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『十二英雄伝』 -魔人機大戦英雄譚- 【RD事変】編  作者: 園島義船(ぷるっと企画)
RD事変 一章『富を破壊する者』
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十一話 「ジン・アズマ その2」


「追わなくていいのか?」



 オンギョウジたちが上の階層に到達したことをマレンから確認し、ユニサンはアズマに問いかける。


 それを知ってか知らずか、あるいはまったく興味がなかったのであろう。アズマは正直に答えた。



「興味があるのは強き意思を持つ者だけ。こんな塔など、どうなろうと知ったことか」



 ユニサンには意外な言葉ではなかった。


 一瞬ではあるが交えた際、アズマから発せられたのは、どちらかといえば自分側の波動。何物にも屈しない強い精神力だったからだ。


 アズマにとっては富などに興味はない。富で武を磨くことはできないからだ。


 ある意味では今のダマスカスを軽蔑もしている。だからこその共感なのかもしれない。


 しかし、両者が似ていたとしても戦いは避けられない。



(まだ地上には知られていないか)



 ユニサンにとってアズマがこうした人間であったことは好都合だ。


 他に知られてしまう前に迅速に倒してしまえばよいのだ。こちらは三人。十分に勝機はある。



「全力でいけ!」



 ユニサンとロキ二人の戦気が一気に増大する。


 赤々と燃え上がった戦気は美しくもあり、実に洗練されていた。



「相手にとって不足なし!」



 アズマも黒刀を構えて真っ向勝負。


 先手はユニサンたち。今度は短剣を持ち、再びN8が飛び込む。



(二度は見失わぬよ)



 アズマには動きが見えている。


 速いがこうした相手とは何度も交えてきた。エルダー・パワーには忍者もいる。彼らとの模擬戦は柔軟性を養うための訓練になった。


 アズマは動きを読んで斬りかかろうとするが、今度もまた困惑することになる。


 N8の姿が増えて見えた。それどころか八つに分かれた。



(分け身! しかも八つ)



 武人には大きく分けて【三つの因子】がある。戦士、剣士、術者のそれである。


 ただし、この三つの中間に【暗殺者】と呼ばれる因子が存在する。


 正式に命名されているわけではないが、かつての偉大なる者の中にこうした因子を強く持っていた者がおり、それを強く受け継いだ者を暗殺者あるいは忍者と呼んでいる。


 正確には戦士の中でもより身軽な因子と、ある程度の剣士の資質を備えた者がこれに該当する。いうなれば軽度の【ハイブリッド〈混血因子〉】である。


 そして、彼ら特有の技の一つがこれ、【分身】である。


 一説によれば自身の戦気を分けて写し身を作るといわれており、気配だけで見分けるのが非常に困難な技であった。


 戦士や剣士でも使う人間はいるが、やはり稀である。ちなみに通常は二つ、三つ以上出せれば一流だといわれている。


 それが八つとなれば見極めは困難。引いてはやられる。暗殺者相手に騙し合いをしていても埒が明かない。


 アズマは真っ直ぐ前進し刃を振るう。


 二体を切り裂いたが、それらは見事に幻であった。


 それも承知の上。周囲を分身に囲まれながらもさらに進む。


 すでにロキN6は剣気を『風気ふうき』に換えていた。


 それを放つと、剣衝は幾多の風の刃へと変わってアズマに襲いかかる。


 『風衝・五閃』である。今度は五閃であったが、その分だけ威力は増していた。



(やってくれる!)



 こちらも五閃放てれば一流である。


 しかも一つ一つの威力は、風気を剣に溜めて斬りかかる『風威斬ふういざん』に匹敵していた。それが同時に襲いかかってくるのだから恐ろしいことだ。


 アズマは走る軌道を直角に変え、追尾して襲いかかる風の刃に向かって横薙ぎの一閃を放った。


 剣王技、『広紡こうぼう風月ふうげつ』。


 風衝・五閃が五つに分かれた縦横の刃で襲ってくるのに対し、こちらは横一閃の広域技である。


 威力は風威斬に及ばないものだが、アズマも並の武人ではない。戦気で威力を倍増させた特別製だ。


 風と風が衝突し、巨大な上昇する突風を生み出した。


 体勢が崩れるのを嫌ってアズマは後退。



(威力は互角か)



 アズマはその事実に驚愕していた。今練った戦気はかなりの威力を込めたものだ。それでも相殺が精一杯だったのだ。


 この仮面の剣士も暗殺者も桁違いの実力者である。アズマも傭兵として実戦で腕を磨いていたが、そうした者たちと出会ったことなど数えるほどしかない。それだけの猛者が目の前に二人いるのだ。


 そして、ユニサンである。彼もすでに追撃を開始していた。


 右手に攻撃用のナックルダスターを装備し、万全の態勢。その右手に集まった戦気が『炎気』に変質したのが見えた。


 覇王技『炎竜拳えんりゅうけん』。


 『炎龍掌えんろんしょう』では前方に放つ炎の渦を右手に集め、直接叩きつける応用技だ。


 数百人単位の兵士を一瞬で焼き尽くすだけの威力が一点にこもった一撃である。当然、直撃すれば危うい。



「この殺気! この勢い! ご満悦だぞ!!」



 ユニサンの拳には迷いも躊躇いもない。ただ目の前の敵を屠るために全力で向かってきている。その気迫、燃えるような敵意に感動を隠せない。


 アズマは刀を振りかぶり、迫るユニサンに対して勢いよく振り下ろした!!


 その速度は今までの中で最速。だが、やはり死に体だ。この体勢ではユニサンのほうが圧倒的に有利であった。


 両者の攻撃が衝突し、戦気が爆発。二人とも吹き飛ばされる。


 ユニサンは右手に負った傷を確認しつつ着地した。



(あの男、あの体勢であのような芸当を!)



 真っ向勝負では間違いなく負けると確信したアズマの一撃は、ユニサン本人ではなく拳にまとった炎気に向けられていた。


 そこに自身の戦気をぶつけて爆発させ、その勢いで連携攻撃から脱出する。


 最初からこれが目的だったのだ。その判断力と迅速な行動力、なおかつ実際にやれてしまうだけの技量に舌を巻く。


 ユニサンの拳には刃の痕が残っていた。ダメージは小さいが、死に体においても変わらぬ威力は脅威である。


 ただし、攻撃はまだ終わっていなかった。ロキN8が無防備になったアズマに向かって短剣を突き刺そうと跳んでいた。


 六つの残像が螺旋のようにアズマを囲み、全方位から一斉に攻撃を開始する。



「ふふ、ふはははは! あははははは!」



 アズマは笑う。


 そうだ。こうでなくては意味がない。強い相手と戦うことを望んだのは自分なのだ。


 ここでさらに彼は次の領域に入った。



「わが奥義、惜しみなく出させてもらうぞ!」



 ユニサンが次にアズマを見た時、彼の黒刀には赤い血が塗られていた。


 舞う血飛沫。必殺の間合いで飛び込んだにもかかわらず、斬られたのはロキN8であった。


 何が起こったのかロキN8には理解できなかった。わかったのは、アズマの刀が一直線に本体に向かってきて自身を切り裂いたこと。分身もほとんど意味を成さなかったこと。


 そして、その一撃が目視不可能な速度だったことである。


 あまりの速さに誰もが見えなかったのだ。それが一番恐ろしい。


 それでもロキN8は、受身を取ってすぐに後方に跳躍してユニサンと合流。


 N8は、右胸から腹にかけてばっさり斬られており、傷ついた動脈から大量の血液が流れ出ていた。



「いけるか?」


「問題ない」



 ユニサンの問いにロキN8は感情を表さないまま頷く。


 腰の高級救急箱からゲル状の止血剤を傷口に塗り込むとすぐに固まり、出血そのものは止まった。



(問題ない…か)



 アズマは痛みの感情を一片も見せないロキを見つめる。自身の刃は確実に相手を捉えていた。


 赤虎せきこ流奥義『神刃じんば』。


 赤虎流剣技の中でも最速の技であり、アズマが得意とする奥義でもある。


 この剣においては分身は役立たない。刀そのものが勝手に動くからだ。それは放った人間の潜在意識が勝手に相手を識別する、という意味である。


 剣に生き、剣を極めようと日々鍛錬を重ねている剣士が、無意識に剣を振れるようになって初めて体得できる奥義の一つだ。毎日万を超える回数の剣を二十年振るって、ようやくその域に達するといわれている。


 アズマはその才によって十年で体得した。その努力が認められてエルダー・パワーの席を与えられた経歴がある。それだけ体得が難しく価値ある技なのだ。


 ちなみに剣王技と呼ばれているのは、歴代剣王が編み出した剣技を体系化したもので、どの分野に属する剣士であっても学べるように整えられた【一般技能書】である。


 これらは本屋でも買えるし、国立の図書館で読むこともできる。実技を学びたければ剣術道場で実際に教えてもらうことも可能である。


 当然、それができれば、である。あくまで本に書いてあるにすぎず、体得するには日々のたゆまぬ努力が必要となるだろう。それに加えて資質がなければ不可能なことだ。


 そうした体系化された剣術とは別に、世にはさまざまな派生剣術がある。赤虎流もその一つ。エルダー・パワーに伝わる独自の剣術流派であり、偉大なる紅虎丸の弟子、赤虎せきこの名を与えられた剣士が師匠の技を元に編み出した剣術である。



(神刃をかわされたのは久しぶりだな)



 神刃によって今のアズマがある。今までこの奥義をかわした者はエルダー・パワーの師範代くらいのもの。


 今のアズマならば師範クラスの相手にも当てることが可能だとも考えていたので、自身の慢心を戒める機会になった。まだまだ未熟であることを知る。


 それでもN8は重傷ではあるはずだ。当たった瞬間に身体をひねられたので心臓には当たらなかったが、医者が診たら即入院と緊急手術の診断をするだろう。いや、おそらくは意識があることに驚くかもしれない。


 止血剤も万能ではない。体内では出血も続いているはず。そのままでは数時間以内に死ぬはずだ。


 だが、N8にもユニサンたちにも動揺はまったくない。



(あの仮面の者たち、妙に【尖っているな】)



 アズマはロキに対して通常とは異なる違和感を感じていた。


 感覚がシャーブすぎるというのだろうか。妙に鋭いのだ。武人といえど人間である。どんなに強くなっても温もりや感情というものがある。それが希薄に感じられる。



(薬物投与、もしくは強化手術の類か)



 スポーツマンがドーピングを行うのと同じく、武人に対してもそうしたものが存在すると聞いたことがある。あの反応は異常である。アズマは彼らもその類ではないかと疑っていた。


 そもそもMG戦闘でパイロットに使われる鎮静剤の一部も本来は違法薬物であるし、昔から伝わる秘伝の強壮薬は身体に悪いものが多い。


 さまざまな非人道的な手法で力を引き出すことは戦場では珍しくはない。ただ、そうした者は同じ武人である人間にはすぐにわかってしまうのだ。「これは普通とは違うな」と。


 事実、【ロキ〈悪魔の手足〉】という存在は、【強化された武人】である。


 文字通り彼らは、自身の主に従うためにすべてを差し出した。その身も心も、因子すらも捧げたのだ。


 だから彼らは躊躇わない。


 ただ目的を遂行するためだけの存在となれる。



「その意気やよし!」



 アズマはそんな相手に好感を覚えた。


 強くなるのが武人の生き方ならば褒めるべきだろう。世がどう言おうが、そこまでの覚悟があることそのものが彼らの凄みとなっているのだから。


 アピュラトリスに戦いを挑む者が生半可であるはずもない。相手はこれだけのものを捧げた。ならば自分も捧げなくてはならないだろう。



「ならば、全身全霊をもって挑ませてもらおう!」



 アズマの戦気がさらに洗練されていく。荒ぶっていながらも研ぎ澄まされた戦気だ。


 それを見たユニサンは確信した。



(この男、やはりエルダー・パワーか)



 ダマスカスと戦ううえでの注意点。一つが最新武器を使わせないこと。そしてもう一つが、エルダー・パワーと呼ばれる存在であった。


 ユニサンたちは、彼らに対してダマスカス軍よりも詳細なデータを得ている。彼らの何人かが派遣されていることも知っている。その中には黒刀を使う凄腕の剣士の情報も入っていた。


 記憶によれば、彼はエルダー・パワー『剣士第五席』の剣豪である。


 その実力は見ての通り。ユニサンたちの連携攻撃を二度に渡ってかわし、反撃すらもしているのだ。一対三で、である。


 単体でロキを圧倒するレベルにあり、さらにまだまだ余力を残しているので簡単な相手ではない。



「参る!」



 アズマは先手を取る。


 本来は先手こそアズマにとっては真骨頂なのだ。攻めて攻めて攻め続ける攻撃型の剣士であるからだ。


 アズマがX字に剣を振るうと、そこに風気が生まれ次第にうねりを上げて竜巻になっていく。


 剣王技、『風雲刃ふううんじん』。剣圧を螺旋上に発生させ切り刻む技である。


 さらに風雲刃をもう一つ発生させ、二つの剣圧がぶつかり合う激しい暴風を生み出した。


 もし一般人がそこにいればバラバラの肉片になるか、赤い霧になってしまうであろう威力だ。


 しかし、ロキN6は恐れもなく暴風に飛び込む。


 彼にとってはその程度は気にするほどでもない。衣服が傷つき、身体には切り傷が生まれるが、まったく動じずに剣を突き出してきた。



「見事! だが、恐れを知らぬがゆえの弱さもある!」



 アズマはロキN6を迎撃。


 相手の剣を受け止めただけでなく腹を蹴って吹き飛ばす。


 この竜巻の中ではいくらロキでも動きが制限されてしまう。わずかな隙が明暗を分ける。


 その隙にアズマはユニサンの懐に飛び込んだ。



「はっ!」



 戦気が圧縮された黒刀の刃が白く光輝き、ユニサンの足を狙う。



「ちぃっ!」



 ユニサンはかわすのが精一杯。


 彼は防御型の戦士であり、耐久力では勝るものの基本的に素早さではロキに数段劣る。ロキの速度と同等以上のアズマ相手では分が悪い。


 それを見たロキN8がユニサンの加勢に入る。



「そうくると思ったよ」



 いくら痛みを感じずとも動きが鈍くなるものだ。その証拠にN8に最初の速さはなかった。


 アズマはユニサンに追撃すると見せかけ、回転して右から迫るロキN8と正対。



「神刃!!」



 そして、渾身の神刃を放つ。


 ほぼ神速となった刃はロキN8の肩に入り骨を砕き、勢いそのままに腰まで一気に切り裂いた。


 神刃の一撃は今度こそ直撃し、心臓を完全に破壊。



(この男、これが狙いか!)



 ユニサンは舌打ち。


 アズマにとっては最初からロキN8が狙いだったのだ。ユニサンやロキN6はたしかに強いが、アズマにとっては圧倒的脅威ではない。苦戦はするが何とかなるレベルである。


 問題は、予測できない動きをする暗殺者のN8であった。


 彼がいるからこその防戦になっていたのだ。戦場ではタイプの違う相手が一番怖い。今回もそうであった。



(手応えあり!)



 会心の一撃。間違いなく即死の攻撃であった。


 しかし、アズマは直後にロキの本当の恐ろしさを知ることになった。ロキという悪魔の手足は、まさに悪魔そのものであったからだ。


 ロキN8はまだ生きていた。強化された肉体は心臓なしでもわずかな時間ならば動けたのだ。


 彼は自身の死期を悟ると、アズマに向かって突進。距離を取るアズマにも必死に食らいつく。



(この気迫、まさに亡者よ!)



 ロキN8は初めて感情を見せた。


 希薄で空虚な悪魔の手足ではなく、欠けた仮面から見えるその目は【怒り】に満ちていた。


 何が彼をここまで駆り立てたのだろう。狂信か、妄信か、それとも理想なのか。


 これだけの気迫をもって挑む人間の数は実際には多くはない。祖国のため、守るもののために心の底から自身を犠牲にできる人間は少ないのだ。


 その数少ない一人が目の前にいる。


 これこそ脅威。これこそ本当の恐怖。


 死に物狂いの人間ほど恐ろしいものはない。



「受けて立つ!」



 アズマは振り切れないと悟り、一撃で仕留めるために足を止めた。今度こそ完全に叩きのめすつもりだ。



「主よ、慈悲を与えたまえ!」


「なっ!」



 しかし直後、ロキN8は至近距離で【自爆】した。


 ただの爆発ではない。自身の体内に埋め込まれた指向性の対人用散弾が前方、アズマに向かって注がれたのだ。まずかわせる距離ではない。


 アズマは戦気を前方に集中させ防御の態勢。


 戦気は物理的なエネルギーであり、武人の体表を守る最初の盾にもなる。その総量や質によって強度は変わるが、アズマのそれも一般のレベルを遙かに超えるものであった。


 わずかでも戦気で防げれば、この距離でも鍛えた肉体で弾ける。そう思っていた。


 が、アズマは驚愕。



「ぐっ!!」



 散弾は戦気を【すり抜け】、アズマの肉体に直撃した。


 とっさに顔は防いだが、胴体から足にかけて散弾が命中。


 めり込み、貫き、いくつかは骨にまで到達した。



(しくじった。特殊弾か!?)



 世には戦気の影響を無視する【呪術】を施した弾丸が存在する。


 これは昔から存在するものであるが、稀少なためいかんせん値が高い。一発およそ八十万はする。金の延べ棒を撃つのと同じレベルである。それが散弾の一発一発に込められていた。


 しかも交戦最初にN8が放った散弾がこの伏線となり、アズマの警戒心を弱めることにもなっていたのだ。


 一度通常の散弾を防がせておいて、散弾なら大丈夫と思わせた。それも計算してのことならば恐ろしい相手である。


 この段階でアズマは、彼らに対する認識をさらに改めねばならなかった。



(この者たちは何者なのだ?)



 相手の強さにしか興味がなかったアズマであっても、これだけの力を見せられれば背後にある大きな力に気がつく。


 自爆したロキN8。それを当然だと言わんばかりに見つめるユニサンたちの目。ただの狂信や妄信ではない。その裏側には確実なる力が宿っている。


 そう、世界を相手にしても圧倒できるだけの何かがあるのだ。



「N6、お前は先に行け。ここは俺がやる」



 アズマが距離を取って身体の損傷箇所をチェックしていると、ユニサンはロキにそう命令した。


 そして、アズマにも提案する。



「いまさらになって一騎打ちと言うのもなんだが、受けてもらえるかな」


「……」



 アズマはその言葉に他意はないと判断した。


 ユニサンの言葉からは、ロキをこれ以上消耗したくないという『本音』と、その裏にある凄みを感じたからだ。


 まだ『奥の手』を隠している。そんな気配だ。



「よかろう。もっともお前を倒したあとに処理させてもらうがな」



 アズマにとってアピュラトリスはどうでもよい存在だ。しかし、ダマスカスという国は愛していた。古き良きダマスカスの素晴らしさはアズマにとっても守りたいものである。


 目の前の相手から感じる危険性は、ダマスカスそのものを破壊しかねない。さすがのアズマも見過ごしておくわけにはいかなくなった。



(これもマスター・パワーの慧眼か)



 自身をここに配置したのは、けっして慎重策ではなかった。むしろ今のアズマには、これでもまだまだ足りないくらいだと感じていた。


 孤高を自負する自分が、外にいるエルダー・パワーの仲間が気づいてくれることを祈るくらいである。


 この誇り高いジン・アズマが助けを求めるなど、他の者が聞いたら間違いなく笑うだろう。「冗談だろう? あいつに限ってそれは絶対にない」と。


 それだけの相手と認めざるをえない。



(強いな。強い。だが、これを超えねばすべてが無駄死にとなるのだ)



 それはユニサンも同様であった。


 ダマスカスの恐ろしさ、世界の力の恐ろしさを痛感していた。ロキの強さに酔っていたわけではないが、これでも足りないのだと知ったのだ。


 だが、彼には戦うだけの理由がある。ここでけっして負けるわけにはいかないのだ。



「主よ、我に力を」



 ユニサンはアズマとの一騎討ちに入った。



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