(011)新たな出会い
(しかし、ダサかったよなァ、アイツ・・・一方的に殴られて)チハルは一樹の事を思い出していた。(それにしても、あの3人、仁志と、圭介、直人は絶対に許さない。アイツらめ!)ぎゅっと唇を嚙みしめるチハルだった。一樹が暴力を受けてから一週間が過ぎた。その間チハルの学校で例の3人組をずっと無視し続けるチハルがいた。「三上先輩にやられちゃったかな、チハル?」ナオトが言う。「当然だろ、三上さんだぜ。あの人相当ヤバいからなァ・・・」と、圭介が言った。「チハルに声掛けたくてもさ、三上さん出て来ッかもと思うと声掛けられねェよなァ」とヒトシが言った。「おう!それよ、それ。やべェ~よ。ぜってェ~。触らぬ神に祟りなしって言うしなァ、知らねェ振りが一番だ。」と直人が言った。バツの悪い話を3人で言っている所を偶然通りかかったチハルが聞いてしまった。(いってろ、くそタコがァ、あ~あ・・・だせェ~ヤツばっかりだなァ・・あれ?そういえば今日アイツが帰って来るッてママが言ってたよなァ。)チハルが学校から帰宅した後、風間家の夕食時にミチルが「あなた、こちらが海原一樹君、佐竹さんと千原はもうすでに紹介済よね?一樹君、こちらが風間建設社長で私の旦那様でもある風間健です。」と一樹に主人の風間を紹介した。
「初めまして、風間です。着いてすぐに娘のチハルの件では大変だったみたいですね、お礼を言いたいと思っていたんだ。チハルを守ってくれてありがとう。家内が色々君の人となりを褒めていてね、旦那様の私としては、ちょっと嫉妬心が芽生える気がしたのだが、今こうして君を目の前にしてみると、今時珍しい、すがすがしい好青年だと、実感したよ。宜しく頼みますよ、これから。」と言って一樹に手を差し伸べた。その手を握り返しながら、「海原一樹です。こちらこそ宜しくお願いを致します。」と一樹が言った。「本当に物静かで利発そうな、今時珍しい好青年だ。」風間がミチルに言った。「そうでしょう。あなたならきっと、気に入ると思っていたわ。」とミチルが答えた。その会話を聞いたチハルが「そうかなァ?私にはダサくしかみえないんだけど・・・」と一樹には聞こえないように言った。「チハル!」とすかさず、ミチルが言った。「いっけない!」と首をすくめて、ちろっと舌を出してチハルが言った。「ハハハ・・・、チハルにかかっちゃァ一樹君も大変だァ。ハハハ・・」と楽しそうに笑いながら風間が言った。「あなたまで・・・もう、しっかりチハルを叱って下さらなきゃァ・・・」と困惑したなかにも、楽しそうに言うミチルの姿があった。「ハハハ、まァ、そう言うなって、ああ、気分悪くしないで下さいよ一樹君。チハルも悪気があって言ってるんじゃァないから。」風間が明るい笑顔で一樹の方を見ながら言った。「はい。別に気にしていません。本当の事ですから・・・」一樹には微笑ましい家族との会話の方が羨ましかった。「もう、何を言ってるんだか・・一樹君は何もダサいことなんか無いから気にしなくていいわよ。むしろダサいのはチハルの方だわ。」とミチルが言った。「えェ~。なんで?」冗談じゃないと言った表情でチハルが言った。「表面に着飾ったブランド品で相手を威圧している、あなたの言葉や仕草は、一樹君のように相手を思いやる心より、数段ダサいです。!姿格好で、ダサいと決めつける事は本当に恥ずかしい行為だと言うことに気づきなさい。!」と、いつになくミチルのキツイ語気を受けてチハルも「何よ!」と言ってスゴスゴと、2階の自分の部屋に退散していった。パパである風間も(仕方ない)といった表情で近くに置いてあった新聞を慌てて広げて読んでいた。「ところで、一樹君。来週から茂木でタイヤテストとマシーン調整に出かけるから、そのつもりでいて頂戴ね。」とミチルが一樹に言った。「はい。分かりました。けれど・・・?」一樹が考え込むようにミチルに言った。「けれど・・なに?」ミチルが一樹に聞いた。「その間、俺は何をすればいいのかな?と思って・・・」と一樹が」聞いた。「そうね、会社見学とかも考えてるけど、とりあえずゆっくりしていて欲しいから、佐竹さんに手伝っていてもらおうかしら。嫌じゃない?」ミチルが一樹に聞いた。[嫌だなんて、とんでもない。俺は全然かまわないですよ。」両手を横に振りながら一樹が答えた。「それでね、一樹君にパパと相談して車を一台プレゼントすることにしたのよ。だって、足代わりないと不便でしょ?それと、今回の件のお礼とお詫びの意味もあってなのよ。だから、何も気にせず貰って頂戴。」とミチルがいとも簡単に言った。「え~ッ!マジですか?」あっけに取られながら、一樹が声をあげた。「明日、届くから楽しみにしていてね。ヘッドのお店の地図も用意しておくから、車が届いたら行ってみるといいわ。多分みんなそこにたむろしているわよ、きっと。」とミチルが言った。「うわァ~ッ!うれしいッス!!ヘッドに会えるなんて・・」感無量の表情で一樹が言った。「ヘッドも喜ぶわよォ~きっと。何せ、一樹君の事、ほぼ毎日と言っていいほど、聞いて来るからねェ~。」とミチルが嬉しそうに一樹に言った。「ママ、一樹にばっかりサービスいいんじゃない?」といつの間にか2階から降りて来たチハルがママのミチルの傍らに座りながら言った。「あら?あなたいつの間に?」とミチルがチハルに言った。そして「一樹はないでしょう?・・年上なんだから」と、続けて言った。「いや、俺はその方が気が楽でいいです。それと佐竹さんも、呼び捨てで、呼んでほしいです。」と一樹が言った。「ほらね、若い人はみんなそうなのよ。」とチハルが言った。「わかったわ、佐竹さんには私から話しておくわ。でもあなたの呼び捨てには感心しないわね。」とミチルが言った。「かまいませんよ、むしろ親しみを感じて一樹の方がいいです。」と一樹が言った。「ほ~ら、ママ。構わないって言ってんだから、大丈夫だって!」とチハルが言った。「そうは、言ってもねェ~、あなたはどう、思う?」とミチルが風間に聞いた。「別にいいんじゃないかな?若い人は若い人同士で、一樹君もその方がいいと、言ってるしママは一樹君を思う余りチョッと過保護になっているよ。それって、一樹君疲れてしまうと思うから若い人のやることは見て見ぬ振りをしてあげなさい、」風間の一声にミチルも「わかったわ」と答えた。「さァすが、パパね、言う事が凄い!・・で、私へのプレゼントは何?」とチハルが言った。「しょうがないわね。お小遣いあげるからそれで好きなもの買いなさい。」とミチルがチハルに言った。「やったァ!!ねェ~ママ。私ね、新作のエルメスのバックが欲しかったんだ。」と目を輝かせながらチハルが言った。「いいわよ。ただし1万円で買えるならね。」とからかい気味にミチルが言った。「えェ~!!ひどくない?ママ、一樹は車で私は1万円だなんて!パパァ何とか言ってよ」しかしチハルの必死のお願いもどうやら無理の様だった。