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実は世の中の人間のほとんどが特殊能力を持っているよって話

作者: 城 初六

 特殊能力、それは皆んなの憧れである。えげつない怪力、エネルギー波を打つ、瞬間移動、巨大化、小人化、飛行能力、予知能力、月の力、魔法、除霊、特殊な呼吸法、忍術、変身、すべて皆んなが憧れる特殊能力だ。しかし、当然にこんな能力を持った人間はいない、そう思っていた。しかし、どうやらそうでもないらしい。皆んなは気が付いてないだけなのだ。


 僕が最初に自分の特殊能力に気が付いたのは、男友達とノリでプリクラを撮りに行った時だ。男5人くらいでカラオケに行き、ゲーセンに行き、男だけでプリクラを撮ろうぜ、という話になったのだ。さもカップルっぽくしたいからじゃんけんで負けた2人が入ることになった。結果、僕とUがじゃんけんに負けた。Uは中学生にして彼女がいたことがあるらしく、かなり撮り慣れていた。僕は横にいるUの真似をして、滑稽なあざといポーズをしていた。また、Uは撮ったプリをデコることにも慣れていた。Uは律儀にも出てきたプリクラを2人で分けるように提案した。そして、僕がプリクラを切るハサミを握った時だった。突然知らない男女の姿がフラッシュバックした。どうやら男女はプリ機、しかも先ほど自分が入っていたプリ機にいるようだ。男女の様子が今でいうVRのように見える。男女は恥ずかしげもなく、虫歯ポーズやアヒル口をしている。その様子を僕は、上下前後左右、あらゆる角度から見る事ができた。僕が茫然とハサミを握り続けると、Uが訝しげに顔を覗き込んできた。僕は慌てて元の世界に戻った。


後日、僕は一人でゲーセンに行き、ハサミを握った。やはり、プリクラを撮っている男女や女子たちの様子が目に浮かんだ。どうやら僕は、プリクラを切る専用のハサミを握ると、そのハサミを使用した人のプリクラ撮影の様子を見る事ができる、という特殊能力があるらしい。


 もっともこの能力はひとつ前のハサミの使用者のプリクラ撮影時の様子を見ることができる、ということに限定されるようだ。2個前の使用者の状況や、前の使用者がプリ機の使用前後に何をしていたか、ということは見ることができない。さらに、ハサミを手にしてから1度でも手を離すと、その様子を見る事は二度とできない。

 

 それと、ハサミはゲーセンのハサミのみに限られる。これは、前の彼女がマイハサミという物を使う、少しばかり変な人物だったことにより判明した。彼女はプリ機のハサミではなく自前のハサミでプリクラを切るタイプだった(もしかしたら、これも特殊能力だったのかもしれない)。そして僕は彼女のハサミで僕たちのプリクラを切った。僕は、彼女が前日に女友達とプリを撮っていたのを知っていたので、その様子を見る事に期待した。しかし、何も見えなかった。だから、ゲーセンに置いてあるハサミしか駄目だということが分かった。まあ、なんにせよ、かなり限定的な特殊能力だ。


 僕はこの能力を知っていたが、誰にも話すことはなかった。なぜなら、能力が役に立たないからだ。プリクラを見せつけられて思うのは、この顔は実際にはどんな感じなのだろうか、ということだろう。実際、僕はこの能力に気づいて、加工前の顔が見られるじゃん、と思った。しかし、僕がハサミを持つときは大抵は見ず知らずの人である。そして、前の使用者がその場にいなければ、だからなに、という話になるし、その場にいれば、加工前の顔がすぐ目の前にあることになる。そのあたりの下世話な楽しみはないのだ。

 

 次に僕がこの能力を誰にも話さなかったのは、これが話の種にもならないからだ。プリクラを撮っている人たちの様子なんて皆んな一緒であるから、見る分には楽しかったとしても、話を聞かされて楽しいものではない。たまに、不健全な行為をしている人を能力で見ることはあるが、それについて話すとこちらが自己嫌悪に陥ってしまう。だから、僕はこの特殊能力を秘密にしていた。


 僕はこの特殊能力を不要な物であると考えていた。しかし、不思議な物でこの能力を使わないと落ち着いていられなくなってきたのだ。だから、僕はとにかくゲーセンに入り浸った。ゲームに負けるとハサミを握ってリフレッシュした。そんな生活を送っていった。


 ところが、近年ではプリクラをハサミで切る必要性が減ってきている。皆んなQRコードでダウンロードするからハサミを使わないのだ。だからゲーセンによってはハサミがないところが増えた。さらに、プリ機のブースは男子のみは入れない、という場所が増えた。最寄りのゲーセンにもその波はやってきた。最寄りから締め出された僕は他のゲーセンに行かざるおえなかった。


 ある日、ハサミを握っていると、不釣り合いに見える男女が見えた。男性は70を過ぎており、女性は10代に見えた。他人の恋愛に口出しは無用だが、70と10には驚いた。さすがに祖父とプリクラは撮らないだろうし、能力でみた様子だと恋人のようだ。

 

 後日、ニュースを見ていると、「10代の女性が行方不明」である、と報道されていた。驚くべきことに、その女性は先日、プリクラを撮っていたあの女性だった。彼女は僕の住む町からかなり離れた場所に住んでおり、警察も彼女の自宅周辺しかまだ捜索をしていないという。僕はすぐに警察に匿名電話を入れた。その1週間後には、女性は僕の住む町の近辺で保護された。しかし、70代男性が捕まった、という話は聞かない。何はともあれ、僕は善いことをした。僕の特殊能力が役に立ったのはこれが初めてだろう。


 しかし、この能力故の不幸というものがある。ある日、僕は一人で行きつけのゲーセンに行き、案の定ゲームに負けてしまった。僕は、プリ機のハサミでも握りに行くか、と思った。そして、周りに人がいないのを確認し、ハサミを握った瞬間、激しい激痛に襲われ、僕は気絶してしまった。


 幸い命に別状はなかったものの、1週間ほど入院する羽目になった。どうやらハサミに毒が塗ってあったらしい。カップルを狙った下劣な犯行である。犯人も監視カメラから特定され、無事に捕まった。だがしかし、だがしかしである。僕はプリ機のところで一人、ハサミを握りながら倒れているところを公衆の面前に見られてしまった。なんか変な誤解を招きそう(というより案外誤解ではない)ではあるが、こういうこともあるだろう。


 

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