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彼岸の案内人  作者: 十月夏葵
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プロローグ

プロローグ


ここは彼岸。亡くなった者が行きつく場所。死後の裁判を受ける人々が今日もまた此岸から渡ってくる。私がここで働き始めて、幾星霜。未練というのはことに厄介なものだ。


未練とは諦めきれないものを言うという。では、強い未練をもったまま死ぬとどうなるのか?

「つまるところ、残留思念というものになるんだけどさー。幽霊だとかなんだとか言われてるのは大体それ。厄介なのは、強ければ強いほど物理的に干渉出来ちゃったりするところだよねー」

私がまだ某大王様の第一補佐の補佐(という名の体のいい雑用係)として務めを果たしていたころ、暇を持て余された大王様のお戯れという雑談に付き合わされた。その折に聞いた言葉である。

「君は憎しみと愛情だったらどちらが強く残ると思う?」

憎しみも愛だとかも似たようなものだと思っていた。質問の意図もよく分からなかった。正直、どっちでも良かった。それに、愛のためとかいう大義名分ですべてを投げうち、あまつさえあっさりと法を犯した人間を知っている。死して今現在に至るまで罪を償う為、地獄にて果てしない痛みを伴う刑に処されていたりする。死ねない分生きてた頃より辛いだろう。

「憎しみでしょうか?」

「不正解。君は第一補佐に似てるね。可愛くなくて、頭堅い。誰かにそう言われない?」

「少なくとも第一補佐様に言われたことはございません」

ああ、そうと笑いながら話を続ける気らしく、大王様は再び口を開く。

「はっは、答えや選択肢はひとつだけとは限らないじゃん。実は憎しみも愛も等しく強く残るものだよ」

「紙一重、表と裏などどこでも言われる言葉ですからね」

愛とはつまり執着。強く憎むこともまた執着。本質が同じならそれはほぼ同じものなのかもしれない。耳障りがいいか、悪いかっていう違いだけだ。

「守護霊っていうんだっけ?そういう存在として、守る側に働く場合もあるんだけれど。そういうことって稀だしー。大体はいわゆる悪霊的なものになっちゃったりするわけ。そこで今度新しい部署作ろうと思うんだ。未練って割と些細なことで解決しちゃうし」

彼岸はお役所仕事によく似ている。裁判というものは色んな手続きがいる。ここで省略されるのは弁護人の手配ぐらい。そもそも、死んだ人間に弁護士なんていらないのだから。判決が下った後のあれこれとか、データの管理やらあれやこれや何個もの部署がある。

「新部署ですか。どうしてもとおっしゃるんでしたら、書類に判子押していただいたらすぐにでも」

「仕事早いね。でも、新部署って戸惑うことも多いでしょ。だから仕事できる優秀な人に最初主任っていう肩書でいろいろやって欲しいんだよね。勿論、業務内容に必要な権限も与えるし、あんまり幼いようなら恩赦措置も考えるから。いいと思わない?」

「…それは私にやれということでしょうか」

にやあっと笑い快諾で嬉しいよと肩を叩かれた。要はめんどくさいから丸投げされたとしか思えない。そうして(無理矢理)新しく配属されたのが

『彼岸30課 未練対策案内班』

通称30N課。そして主任は私、認識ナンバー137番『イザナ』。

新部署に移る直前に大王様に言われた言葉がある。

「死者の過去に触れるということは、人の紡ぐ物語に触れるということだよ。元人間なのに一切の過去を思い出せないきみにはいい経験になるはず。思い出せないのは罪じゃないけど、君ほどの能力を遊ばせておく余裕は彼岸にはないから」

この言葉の意味というより真意がいまだに分からないままだ。


これは案内人の私と死してなお現世に強い未練を残すものの物語

死者たちの哀しい追憶の物語

そして過去を持たない私の自分を探す物語

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