8.仲直りの仕方
すいません、今回めちゃくちゃ文字数が少ないです。
そして、多分明日もそこまで長くは書けないです。
少女は仲直りの仕方を知らない。
否、そもそもの話少女には彼のような本音を言い合える仲を作れたことが今までの人生で一度もなかった。
少女は獣人国の格式高い、高貴な家の出だった。
曽祖父の成した英雄的行動が、その家の権力を支え、父はその国の権力の中枢を握っている。
そうなると、当然少女に与えられる地位も必然的に高いものとなる。
さらに言えば、少女は操氣術に長けた強者だった。
獣人国にとって、強いとはそれだけで価値のあるものであり、強いだけである程度の権力を有するに値するものなのである。
そのため、少女は周囲から畏怖の念を向けられていた。
高すぎる地位に強すぎる本人の実力……。
周りは常に少女の一挙手一投足に気を配った。
当然、少女に反発する者は誰もいない。
必然的に少女の周りには風見鶏だけが集まってくる。
だから、少女はケンカをしたことがない。
仲直りという関係の修復に努める行為もしたことがない。
何故なら、少女が謝るよりも先に周りが謝るからだ。
そんな少女にとって、彼は奇異な存在に見えた。
他の凡夫とは明らかに違う、希少な存在に見えた。
それは、少女が犯されそうになっていたところを助けてもらったことにも、一因があった。
今まで、周りの誰よりもあらゆる意味で強かった少女は、人に助けてもらうという行為を受けたことがない。
だからなのか、その小さな胸に淡い恋心のようなときめきを彼に抱いた。
彼と何気なく歩く、彼と一緒に語り合う、彼と一緒に食事をする、彼と寝床を共にするーーー
今まで他の異性ともそういう体験はしたことが幾度としてあったが、彼とは比べ物にならないぐらいにつまらなかった。
逆に彼と一緒ならば、何をしても楽しい気分になった。
抱いた感情が何なのかを理解できるほど少女は人とコミュニケーションというものをとったことはなかったが、それでもこの感情が自分にとって心地よいことはすぐにわかった。
だからこそ、出会って間もないのにも関わらず、獣人族が滅多に行わないと言われると主従の儀を行った。
ーーーこれからは、彼と一緒に生きていく。
そう考えると、この緊迫した道のりも絵本に書かれていた冒険のようで面白かった。
それ故に、その分だけ彼とのケンカは少女の精神に多大なダメージを負わせた。
寒くもないのに手足がガタガタと震え、視界は涙によって滲み、よく見えない。
脳内は自分から離れていった彼に対しての怒りで熱くなる一方、心は冷たく冷えきっていた。
彼によって渡された食料を見遣れば、自分の力ならもしかしたらギリギリで王国に辿りつくぐらいの量は残っているかも、と少女は判断した。
しかし、それを少女の恋心が許さなかった。
ーーー何であんな死に損ないがマティスの隣で、わたしが一人で帰らねばならぬ?
その一点だけが脳にこびりついて離れない。
今までの人生で抱いてきた怒りとは違う感情、すなわち人を妬む心をキーラに抱いた少女は、震える手足でゆっくりと立ち上がった。
少女に一人で帰国するという選択肢はない。
帰ったところで家には少女がいけ好かない愚兄がいることだろうし、何より周りからビクビクされながら遠巻きに見られる生活に嫌気がさしていた。
したがって、自分の生活を一変できる彼の存在が不可欠だった。
しかし、そうは言っても少女は仲直りの仕方を知らない。
とにかく謝れば何とかなるだろう、程度にしか考えられないのだ。
それに謝ろうにも今すぐ謝ったところで、彼がせっせとキーラの世話をするのは目に見えている。
そんな彼の姿を間近で見たいとは思わない。
だから、一晩時間を置こうと考えた。
少女の見立てではキーラには今日中に多大な量の氣を送らなければ、看病の余地なく死ぬはずである。
そして、氣を送るには発氣と呼ばれる技術が必要である。
彼は少女の目の前で練氣を成功させたが、発氣はそれを遥かに上回る高難度の技術。
今の彼では到底こなすことなどできまい。
そうなれば、キーラの生命維持に失敗するとは必然と言えよう。
意気消沈した様子で道を歩く彼の様子が容易に想像できる。
その隙をついて、自分が真摯に謝りに行ってやれば、彼も自分の同行を拒否しないだろう。
ついでにキーラのことについて慰めてやれば、彼から忠誠心を貰えるかもしれない。
キーラを死なせてしまったことに自責の念を持つ彼と、その彼の傍で慰める少女。
その絵面を想像して思わず喜色満面の笑みを浮かべる。
それは、恋を抱いている少女の笑みにしてはあまりにも凶々しいものだった。