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84.男尊女卑



「とりあえず、当面の資金を確保することには成功しましたが、これから先もここにいるのであれば、ある程度継続的に稼ぐ方法を探す必要がありますね」


騒がしい昼間の酒場の一角で、侍女長がよく通る声でそう言った。


ここは、国境を越えてすぐのところにある獣人国の首都『テゲレア』。

王国や帝国、魔国などでは見られなかった様々な種の獣人が住んでいる街である。

行き交う人々の9割ぐらいが獣人で、5分ぐらいが人間、後はその他(エルフとかドワーフとか魔族)だ。


普通、国境近くに首都があるのは変だろうとは思うが、侍女長曰く、


「獣人達は己が力こそを正義とし、その力を発揮できる場所を常に求めています。魔族と獣人はしょっちゅう小競り合いをする間柄なので、皆がすぐに戦場へと駆けることができるようになった結果、この街ができたのだと言われています」


だそうだ。


その噂の信憑性は定かではないが、とにかくそれぐらい血気盛んな種族性なので、道行く人の大半が筋肉モリモリのゴリマッチョ。

肩がぶつかっただけで喧嘩なんていうガラが何かと悪い街並みらしいので、細心の注意を払って生活していく必要がある。


そんな危険な国に到着した俺たちが最初にやったことは、当面の資金の確保である。


侍女長を含めた俺たち魔国サイドは、ほとんど着の身着のままで出てきたわけで、当然通貨なんて持ち歩いてないし、キーラ達も魔国に突貫して俺を連れさらった後は、すぐさま王都に戻る予定だったので、あまり手持ちがないとのこと。

そのため、宿に一、二泊すれば路銀が底を尽きるような極貧状態だったために、色々と手持ちの物を売っぱらったという訳だ。


売却したのは、主に魔国サイドの服である。

着ていた当初から思ってはいたが、やはり宮仕え用なだけあって、俺たちが着ていた服はかなり高価な物らしく、店側が即金で金貨をポンと出すぐらいのお値段がした。

それでも、古着ということでかなり値下げされていたのだろう。

侍女長なんかは若干不満気にしていたが、今は足元を見られたとしても金がほしい状況。

街を歩くための安めの古着に着替えて、その服は売り捌くこととなった。(ちなみにこの古着はお店のサービスで無料でいただいた)


こうして、とりあえずの資金を得た俺たちは宿屋を借り(部屋割りでめっちゃ揉めたけど、とりあえずは魔国サイドと王国サイド今日は泊まる予定)、腹を満たすためにも大衆食堂へと足を運んだのである。


侍女長の先の発言は、食堂で飯を待っている間の雑談代わりに言われたことであった。


「資金源は冒険者ギルドで良いのでは?ギルドならば、能力に見合った報酬がもらえる訳ですし……」


そう答えたのは、キーラである。


キーラは食事が来るのが待ちきれないのか、厨房の方をチラチラと見ながら楽観的に答えてみせる。

そんな姿を見て、呆れたように溜息を吐いてみせたのは侍女長だ。


「何故私がこの質問をしたのか、その意図が理解できていないようですね、貴方は……。この国に、というよりも人間が支配している国以外に冒険者ギルドというものは存在していません。ですから、王国にいたときように冒険者となって日銭を稼ぐということはできませんし、短期で雇ってくれる場所なども早々見つからないでしょう」


「……っ」


そう言って、侍女長はもう一度大きな溜息を吐く。


その態度にキーラはイラッとしたようだが、店内で騒ぎを起こしてはいけないと思ったのか、なんとか怒りを抑えてくれる。


「……じゃあ、食料採取で暮らせば?ここに、くるまでに、そこそこ食べられるのあったから、たぶんいけるよ」


ぼんやりとした口調でアルバがそう言った。


あまり意見を言わないアルバが頑張って言ってくれたのかな、と思うと言いづらいが、その意見はどうなんだろう?と思う。


「それってつまりはサバイバルってことだよな?アルバ一人ならどうにかなるかもしれないが……俺たち五人となると難しくないか?」


「………マティスなら、私が面倒みる、けど?」


「いや、気持ちは嬉しいけど……というか、他の三人は?」


ナチュラルに外されていたので、一瞬気にならなかったが、よくよく考えたらおかしいだろ。

しかも、俺の問いかけにアルバは沈黙。お陰で他の三人も苦笑しているようだ。


「…………マティスが」


長い沈黙の後、そろそろ飯がくるかな〜、と思い始めた頃くらいにアルバがようやく口を開いた。


「………マティスが、私の“お願い”、一つ聞いてくれるなら、皆の分も、頑張る、けど?」


「お願い……?」


はて……?お願いとはこれ如何に?

別にそんな改って言われなくても、助けてくれる以上お願いの一つや二つ、聞いてあげるのが仲間というものだろう。

むしろ俺程度が叶えられるようなお願い事で、食料採取五人分引き受けてくれるなら安いものではないだろうか?


そう思ってテーブルの向かい側にあるアルバの赤い瞳を何とはなしに覗き込んでみると、急に背筋がゾワッとした気がした。

別に本人は至って普通に小首を傾げた格好をしているだけ。

だから、何も問題ない気がするけどーー


……なんだかアルバに借りを作るのはマズイ気がするというのが、俺の率直な感想だ。


どうしようかなぁ、と無言でアルバと見つめ合っていると、ケモミミウェイターさんから「お待たせ致しました〜」という声が聞こえてきたので、この話はお流れとなった。







「そもそもの話、野宿やサバイバルというのは最後の手段でしょうが。マティスは姫様を汚い外で寝かせるつもりですか」


食事を食べ終え、人心地がついたところで侍女長から厳しい叱責がされた。


いや、まぁ確かに野宿なんて言うのは最終手段かなとは俺も思っていたけどさ……。


当のお姫様であるシーフェは「あはは……」困ったように笑うだけで許してくれているのだが、侍女長のお小言は止まらない。

そのうちキーラが我慢できなくなったのか、「そんなに言うんだったら、あなたが何か意見を言ってくださいよ!」と言って、激しい口論に発展してしまっている。


アルバは無表情でポカーンと虚空を見つめ、俺が溜息を吐いていると、先程まで苦笑いをしていた姫様から提案があった。


「確か、隣国の文化について調べたときに聞いたと思うんですけど……この国には、拳闘士と呼ばれる職業があるとうかがった覚えがあります。ラルファなら強いですし……その、ファイトマネーもそこそこもらえるのでは?」


おっ?初めてまともな意見が聞けた気がする。

なるほど、拳闘士か……。

一回の戦闘でどれくらいのお金が貰えるのかで大分生活が変わるとは思うが……。

継続してお金が稼げる可能性は高いだろう。


「その拳闘士って誰でもなれるものなのか?」


「えっ、と……あんまり詳しくないので、絶対とは言い切れないですけど……種族問わず、と書いてあったので、多分そうじゃないかと……」


「なるほど……」


これは一考の価値有りかもな。

俺がもっと詳細について聞こうとしたところで、侍女長が口論をやめて口を挟んできた。


「確かに種族問わず、とは明記されていますが……私は残念ながら拳闘士にはなれません」


「……え?なんで、ですかね?」


「単純な話ですよ。拳闘士とは、男がなる職業であると。この国でそう明記されているからです」


「えー!?じゃあ、なれるとしたら俺、ですか?」


「そう言うことになりますね……」


うおぉぉっ、なんでじゃあ!なんで男だけなんじゃあ!?

ここに俺よりも強いやつがいるというのに、そいつは参加できずできるのは男である俺だけ。

拳闘士なんて言葉からして危険な匂いがぷんぷんするというのに、ほとんど実戦経験のない俺がなるなんて、無理があるだろう!


いや、マジでなんで男だけなんだよ!と俺が嘆いていると、その疑問に侍女長が答えてくれた。


「獣人国は男尊女卑思想が激しい国として、有名なんですよ。よって、力に関わることは全て男がするものであると決められており、戦闘行為に準ずる一切のものが女性には禁じられています。……先程の門番の言動を聞いたでしょう?あれはそういうことですよ」


そう言って、侍女長はまた深く溜息を吐いた。







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