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83.フェミニスト?



ヒュッ、と風を切り裂くような鋭い音とともに拳が飛んでくる。


「……ぐっ」


俺はそれを氣力によって強化した右腕でガードするが、思ったより威力が強くてよろけてしまう。

体勢を整えているうちに相手がまだ拳を突き出し、俺はガードして体勢を崩され……と基本的に防戦一方。

何とか相手の拳に耐えて反撃しようとするも、軽快なステップで躱されカウンター。


ゴホッ、とモロに腹に的中して思わず膝をついた。


「おいおい、なんだよ、その程度かよ。せっかく久しぶりの侵入者だと思って、期待してたのに……。オレぁはまだ氣だって使ってねぇんだぜ?」


マジかよ、おい。

じゃあ、今までは素の身体能力でこの強さだった、ってのか……。

さすが、戦闘種族だのと言われるだけはあるわ。


攻撃が途切れたのを利用して、俺は間合いを無理矢理に取ると痛む腹を押さえつつ火属性魔導を放つ。


「んお?なんだこりゃあ、新手の火遊びか?」


ボオォォッ、と勢いよく射出された炎を獣人の門番はなんでもないように片手であしらう。


「……まぁ、いいや。とにかく準備運動は終わったって、ことでそろそろ本気だすぞ」


よっ、と軽く掛け声を出して、間合いを詰めてくる。


「オラッ!」


「がぁっ!?」


先程までとは比べ物にならないスピードの拳が飛んでくる。

当然、俺は反応すらできない。

無様に頬を殴られて、地面に転がされる。


そして、門番は俺が立ち上がる時間も与えずにすぐさま追撃を仕掛けくる。

今度は足技。

軽めの蹴りの風圧で俺の前髪がシュッと切れるのを感じて、慌ててその場を退くが躱しきれない。



「おあ゛ッ!?」


「お兄様ッ!」


「マティスさん!」


右肩あたりをざっくりと切られ、キーラとシーフェが飛び出そうとしてくるが、門番から待ったが入る。


「おいおい、最初に言ったろ?戦いは正々堂々一対一。これはこの国に入れるかどうかを賭けた男同士の決闘よ。それに割って入るなんてのは、たとえ貴族だろうと王族だろうとここでは許されてねぇんだよ。わかったら、すっこんでろよ」


「「……ッ」」


二人を軽く睨みつけると、視線を俺に戻した。

二人は悔しそうにしていたが、残念ながらこいつの言う通りだと思う。

もともと俺たちは正規の通行証を持っていない不法入国者。そんなやつに入れるチャンスをやっているだけでこの門番はまだ優しい方だろう。

侍女長とアルバもそう思っているのか、俺がいくら傷つけられようとも気にした様子がない。

……まぁ、もしかしたら特に関心がない可能性もあるが。


しかし、二人のお陰で時間ができたから仕込みはできた。


最初はちゃんとした戦いで勝ち取ってやろうとか考えていたが、こんなの相手は無理だわ。

今までゴロツキとか冒険者とか相手にしていたが、そんなの目じゃないほどにこの門番が強い。

獣人が何故人間から恐れられているのか、その一端がわかった気がするわ。


……とにかく、こんなのはまともにやりあう相手じゃない。

テキトーに相手して、こそこそ勝ちを狙いに行く方が性に合っている。


挨拶代わりにまずは一発。

蹲った状態で立ち上がらない俺を訝しんだように見下ろしていた奴の目、めがけて岩弾を飛ばしてやる。

魔力を練る時間はあったので、今回は炎の膜もコーティング。

威力が全体的に底上げされたなかなかの一品である。



「おっと、引っかかるかよ、そんな不意打ちに。まだ勝ちを狙っている目をしているのはわかってたからな」


「……へっ。じゃあ、これはどうよ」


地面に手をついて魔力を流し、発動。

門番の両サイドから畳返しのようにして岩壁が迫り、彼をサンドイッチした。


……が、すぐにドガンッという派手な音が響いて中から奴が出現。

俺のショボい魔力だとどうにも門番の全力には及ばない模様。


まぁ、わかってたけどな。

本命はそれじゃないから、特に気にならない。


奴が壁を壊すぐらいには俺も立ち上がって、奴めがけて駆け出していた。

壊されると同時に目の前に出現し、何度か適度にパンチを食らわせる。


「ふんっ」


と、ニヤリと笑みを浮かべるだけでダメージがほとんど入ってないのがよく分かるが、別に問題ない。

俺はもともと施錠したかっただけだしな。


「んなッ……なんだこりゃ?」


ガチャン、ガチャンと二回音がしたかと思えば、門番の両手が力を失ったように宙ぶらりんに。ついでに氣の錠も閉めておいたので、操氣術も使えない。

その状態で額に指を突きつけてやれば、相手はニヤリと笑って首を横に振った。


「参った」


そう一言、呟いた門番を見て、俺は地面に大の字になって寝転んだ。







「案外、あっさり負けを認めるんだな」


「あ?別にそんな簡単に諦めたつもりはねぇが?」


「両手は封じたけど両足は自由だったから、やろうと思えば足技だけでもいけたんじゃないか、と思ってな」


「あぁ〜」


なるほど、と言わんばかりに声を上げるも、別に特に気にした様子はないようだ。


「まぁ、人間の割にはよくできてたしな。通行を認めてやるよ」


「ありがとう」


いつの間にかに友達のような気安い言葉遣いで喋るようになった門番に対して、俺も軽く謝意を述べる。


「おまけだ」とついでに俺の体も操氣術で治してくれたところで、俺はふと思った。


「あれ……そういえば、俺以外に侍女長達も通る予定なんだけど、こいつらは腕試し的なことしなくていいのか?」


「んあ?あぁー……そいつらな?そいつらは、まぁ、別にいいぜ。特に手を出す気にもなれねぇしな」


「へぇ、そうか。そっちが良いなら、こっちとしては願ったり叶ったりだから構わないけどさ」


意外に女性に優しかったりする国風なんかね、と思いながら門を素通りさせてもらう。


フェミニスト?って訳じゃないんだろうけど……俺があんなになって頑張ったのに、女性ってだけ免除はちょっと釈然としないなぁ。


俺が一人悶々としている中で、意外にも特別扱いされて喜んでいる女子はこの場に誰一人としていなかった。





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