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81.大事

遅くなりましたが、何とか投稿できました。明日も投稿する予定なので、よかったら読んでください。



魔王と侍女長の間に魔力のパスがつながっていて、それによって眷属化のダメージがくるようになっているのだと仮定すれば、俺の鍵の能力でそのパスの元を閉じてしまえばいいのではないだろうか?

理路整然とした根拠は……ない。


でも、これ以外に試せる方法が俺には見つからない。

とりあえずのダメ元で試すには侍女長の身体がボロボロになりすぎている気もするが、そんなことを気にしている余裕も時間もこちらには残っていないんだ。


……これに賭けるしかない。


「侍女長……ちょっとジッとしててくださいね」


「……?わかりました」


勇者の魔力と侍女長自身の魔力は身体全身に纏っているのに対して、魔王とのパスの役割を果たしているだろう魔力の纏い方はちょっと変わっている。

侍女長の心臓部分に集約し、その後血管を経由するような形で魔力が全身を巡っているようだ。


つまり、パスの元栓はこの心臓部分に当たるということだろう。


侍女長の胸……に触るのはさすがにデリカシーがないから、鎖骨の下辺りで一番心臓になるべく近い位置に手を添えてみる。


「……んっ」


と、侍女長の口から艶やかな声が上がるが気にする余裕はない。


全神経を魔力の籠った目と右手に集中。

目で異常がないかを判断しつつ、手のひらにハートの錠を出現させる。


「今から、しますから……」


「こんな所で、ですか……?」


「は?まぁ、そうですけど」


そんな場所なんて選べるような状況じゃないと思うんだが……。

心なしか触れている体も少し熱くなっているような気もするし……あぁ、あれか?

外で上半身裸は恥ずかしいってことか?


まぁ、すぐに終わらせるつもりなんで待ってくださいよ。


そう言った意味を込めて侍女長に笑みを浮かべてみせると、侍女長は顔を赤らめてそっぽを向いた。

どういう反応なん?それ。


……まぁ、考えている余裕はないしな、後で聞けばいいだろう。


とりあえずは了承を取ったという体で右手の感覚に集中する。

感覚的には、普段俺は魔力の限界を取っ払っていることと同じことをすれば良いだけっぽい。

難しい手順はなく、ただ侍女長の心臓部分に集約している魔力に向かって錠をつけるイメージを持てば良いだけだ。


「……」


俺がしばらく侍女長の身体に触り続けていると不意に、ガチャリ、と音がした。


すぐさま魔力を確認……うん、大丈夫みたいだ。

侍女長との間に繋がっていた魔力のパスは、綺麗に消し去り、勇者の魔力も残りかすが少しあるだけになった。

後は操氣術で治癒を促してやれば、そのうち勇者の魔力も消え去るだろう。


「ふぅ……」


手を一度離し、深呼吸を一つ。

そして、今度は傷が一番酷いお腹に触れる。


「ひぅっ……」


と、何か聞こえた気がするが気にしない気にしない。

とにかく俺は治療に集中集中!

じんわりと氣を相手に送り込み、治癒能力を強化。


「んっ、んっ、んっ……」


少しずつ傷がなくなっていっているようだが、俺のショボい操氣術ではこの辺が限界か。

仕方がないとスペードの鍵を使って氣のストッパーを無理矢理解錠。


「ぐっ……」


「あっ、んぅっ……」


息も絶え絶えになりつつも治療を再開。

何故か治療相手の侍女長の息も上がっているような気がするが、気のせいに違いない。


文字通りの氣力全開で挑んだ治療行為は辛うじて成功した模様。

傷が酷かったお腹周りを始め、ザックリといっていた胸や脇、首元の傷もなくなり、元の氷のように白い肌が顕になっていた。


「ゴホッ……ぜぇ、ぜぇ……」


「……はぁ、はぁはぁ……これは……?」


氣力がほぼすっからかんになり、ゼーハー荒い息を立てながら地面に這いつくばっている男と、赤みがかった綺麗な上半身を晒している女という妙な構図が出来上がっているものの、これはただの治療行為だ。断じてけしからんことをしていたわけではない。


「どう……だっ……はぁはぁ、これで……体は、治っただろう?」


「こんなことをしてもすぐにまたダメージがーー」


いまいち現状を把握できていない様子だった侍女長も自身の体を触って確かめているうちにあることに気づいたようだ。


「ない……。私の魔王様との繋がりが……ない」


まるで結婚指輪でも失くしたかのように慌てふためくさまに少し驚きながらも、俺は解説してやる。


「ちょっと前にもこの力について、見せたことがあるかもしれないけど、一応説明しておきます。これは俺の異能。鍵と錠の能力であり、なんでも開けたり閉じたりすることができます。それは扉や宝箱のような物は当然として、生命力は魔力だって開閉可能です」


「魔力も開閉可能……」


「そうです。今、行ったのは侍女長と魔王、さまとの間にある眷属化の役目を果たしているであろうパスの入り口を閉じたのです。その結果、魔王さまから魔力の供給が無くなり、同時にダメージがくることもなくなった、というわけです」


「そんな……つまり私は魔王様の眷属ではなくなった、ということですね?」


「はい、そうです」


がっくりと膝をつく体勢で落ち込む侍女長。

いや、そんなに落ち込むことなくね?とりあえず、助かったんだから喜べよ。


そう思って侍女長に近づくと、突然立ち上がってきてガッと肩を掴まれた。


「なんで!?何でそんなことをしたんですか!?私には、私には……これしか、なかったというのに……」


「はぁ?何言っているんですか、侍女長?眷属化きらなかったら死んでたんですよ?普通喜ぶことはあれどなげくことなんて……」


「私が魔族として、あそこの侍女長として生きていけたのは全てこの眷属の証があるおかげです。この痛みがあるから魔王様のお役に立てていると、そう実感できていたんです。ですが、それがないのならば私は死んだ方がーー」


ーーバシンッ、とその言葉を発せられるよりはやく俺はそいつを叩いていた。


「死んだ方がマシ?今、そう言おうとしてたのか?そんなわけねぇだろ!」


人生生きてるだけで丸儲けなんて言うほど俺は世間が優しくないことを知っている。

だから、生きていることに絶望し自ら自殺をする人間をただただ悪いと罵ることはできない。

別に知らない奴が自殺する分には俺も何も言うつもりはないが……。


「誰にも必要とされない奴、自分の居場所を作れない奴、家庭環境に絶望する奴……色んな奴が自らの首を絞め、身投げする。俺も何人かそういうタイプを見てきたけど、そういう奴の大半は誰にも必要とされていなかったと思い込むタイプだ。だからみんな孤独に死ぬ。自分の体は自分が好きにして良いんだと思い込む。でも、そうじゃない!自分の体は自分だけのものじゃないんだ!」


親が腹を痛めて産んだんだ。少なくとも親にはその子の体を案ずる権利がある。

逆にいえば、自分の体を好き勝手にボロボロにされるわけにはいかないのだ。

友達だってそうだ。

自分の友達には長生きしてほしいと思うだろうし、そんな友達が自殺をしていたらショックを受けるだろう。


……俺は親にも恵まれなかったし、友と呼べる存在もいなくなってしまったから自暴自棄になってしまったが……。


少なくともお前は違うだろ!


「なんだ、自分にとっての大事なものは魔王様だけで、自分を大事にしてくれているものも魔王様だけだとそう思っていたのか?んなわけあるか!シーフェはあきらかにお前のことを好いていたし、そうでなくとも俺はお前のことを大事に思っている!」


「……は?あ、なたが……?」


「あぁ!そうだ!あんまり長い付き合いだとは思ってないけど、それでも大事なものは大事だ!言葉を変えるなら俺は侍女長のことが好きだ!だから、簡単に死んでほしくないし、自分の体を大事にしてほしいと思う」


「……大事、好き……」


虚だった侍女長の目に力が戻っているのを感じる。

少なくとも自殺をするような精神状態ではなくなったことだろう。


俺は話しているうちに勢い余って抱きついていたようだったので、体を離してしばらく落ち着かせていると、侍女長がポツリと呟いた。


「そう、ですか……。なるほど、たまに貴方からは視線のようなものを感じていましたが……そういうことだったんですね」


「ん?……あぁ、まぁそんな感じだ」


よく意味はわからなかったが、とりあえずは肯定。

こういう娘は自分の話を否定されたりすると一気にダークサイドに堕ちてしまったりするからな……あまり否定しないようにしないと。

姫様だって侍女長が死んだら悲しむだろうし、さっきは勢い余ったとはいえ俺も侍女長のことは嫌いじゃないんだ。

少なくとも死んだら悲しいとは感じる筈だ。


だから、今はとにかく肯定。お前は必要なんだとそう言い続けてあげる必要がある。


「わかり、ました。自分でもその、唐突すぎてあまり気持ちの整理がつかないのですが……出来るだけはやめに返事をするようにしますので、今後とも末永くよろしくお願いしますね?」


「うん?あ、はい、よろしくお願いします」


珍しくニコッと微笑みかけてくる侍女長。


まぁ、悪いことではないしな、大丈夫だろう。


侍女長の目がドロリと濁っていることにそのときの俺は気付かなかった。








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― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりに見直してますが、侍女長かわいい。 作者がヤンデレ好きなの伝わってきて良いですね、、、
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