80.眷属化の仕組み
感想を2件とブクマ登録などをいただきました。マジでありがとうございます!あからさまな批判でもない限り、作者的にかなり嬉しいので本当に助かります。この調子で明日も頑張っていこうと思いますので、ブクマ、評価、感想など是非お願いします。
「侍女長……姫様の側を離れて良かったんですか?」
「……大丈夫、です。あの人間も、姫様が傷つけば貴方がどうなるかさすがに理解できているでしょうから……。不用意に傷つけるような愚行は、犯さないでしょう」
「……まぁ、それはそうだとは思いますけど」
やっぱり、城を出た辺りから侍女長の様子がおかしい。
普段だったら、たとえ敵がいなくても姫様の周りに一人は付くようにと言っていた人が、俺が襲わないと保証したとは言え、人間の近くに無防備な状態で置き去りにするなんて……。
しかも、未だに魔導を発動しっぱなしだ。
今ここには人間もエルフもいない、俺と侍女長しかいないのに何故魔導をとかないのか?
……もしかして、そうしないといけない理由でもあるのか?
「……話、というのは今後の計画について、です。マティスはとりあえず砦まで向かってください。あそこには、兵士が常駐しているので、きっと保護してくれるでしょう。……エルフはともかく、人間の保護を許容されるかは、怪しいですが……まぁ、そこは貴方の話術にかかっているところです。一緒に行動したいならば、頑張りなさい」
「……えっ、あっはい、頑張ります。でも、その……侍女長も一緒に説得とかしてくれるんですよね?」
俺がそう問いかけると、ゆっくりと彼女は首を横に振った。
「……申し訳ありませんが、私は城に戻ります。やはり城付きの侍女として、魔王様の危機を見過ごすわけには、いかないので……」
「えっ?じゃあ、今から城に戻るんですか!?」
「……はい。だから、今ここで段取りを済ませておきたかったんです。マティス、しっかりと姫様をお守りするのですよ」
そう言って、薄らと笑みを浮かべてみせる侍女長の姿と、死に際に遺言を残した爺ちゃんの皺くちゃな笑みが重なってみえた。
……はぁっ!?何でこんなめちゃくちゃ可愛い娘の笑みと爺ちゃんの笑みがダブって見えるんだ?おかしいだろ。
俺が脳内でごちゃごちゃと考えているうちに、侍女長は言いたいことを言い終わったのか、ゆっくりと俺に背中を向けてこの場を去ろうとしていた。
その様は普段のキビキビした動きをしていた彼女とは似ても似つかない、緩慢な歩みだった。
まるで引き留めて欲しいかに思えるそのゆったりとした動きに、嫌な予感がした。
そう思った瞬間、俺は侍女長の腕を掴んでいた。
「?……どうしましたか?」
侍女長の腕は氷のように冷たかった。
まぁ、あれだけ魔力を発していれば身体も冷たくなるか……。
でも、手首に伝わる脈の速さは異常だし、よく見れば呼吸も荒い。
「侍女長……なんか無理してませんか?」
「……無理とは?」
「体の具合が悪いんじゃないですか?そんなに魔力も無駄遣いして……なんか様子がおかしいですよ、さすがに。しかも、今の姫様を放って城に戻るなんて言い始めて……」
「……仕方がないですね」
俺がそう言い募ると、侍女長はゆっくりとこちらを振り返って、前掛けエプロンをバッと取ると、胸元のボタンを外し、服をはだけてきた。
「……!?」
唐突な痴女行為に驚愕した俺だったが、すぐに侍女長の痛ましい現状に目がいった。
「これは……」
「……ここに来るまでの間に、なんども話をしたでしょう?これが……眷属化の代償です」
侍女長のシミひとつない白く綺麗な肌には、至る所に裂傷があった。
傷口は大きく開いており、このまま何もしなければ血がドパドパと溢れ出て、出血多量の死んでいただろうと思われる程の多量の傷。
その傷を無理矢理塞ぐために、侍女長は傷口全てを凍らせていた。
「だから、今まで魔導を使い続けていたんですね……」
「……通常の傷であれば、私も治療可能なのですが……どうやら勇者の力は魔導の働きを抑える効果があるようですね……」
傷口には白い電撃がビリビリと流れており、侍女長の魔導をほとんど阻害してしまうようだった。
「……魔王様には眷属が私を含めて、3人います……。よって、この傷は魔王様が本来受けるはずだったダメージの四分の一になっているはずなのですが……それですら、この有様です」
「……こんな状態で魔王城へ行くつもりだったんですか?」
「仕方ありません。魔王様の危機となればーー」
「ーーいい加減、素直に話してくださいよ!そういう問題じゃないでしょう、この傷の量は!」
俺が侍女長に怒鳴るということが今までなかったためか、侍女長はビクッと肩を震わせた。
「こんな状態じゃあ、勇者と魔王の戦いに巻き込まれて何もできずに死ぬのがオチでしょうし、何なら魔王城まで辿り着けずに道中で野垂れ死ぬ可能性だってあるんですよ!なのに、何でそんなに意地を張ってーー」
「意地を……張っているつもりは、ありません。ただ、これしか方法がないと、言っているだけです……。このような有様では、砦までの移動すら困難。姫様の足を引っ張るくらいなら……いないほうが、マシでしょう」
「だから、自分は黙っていなくなろう、って言うつもりですか?」
俺が苛立った様子でそう問いかけると、侍女長は沈痛な面持ちで頷いた。
なるほど……何で死に際の爺ちゃんとダブったのか気になっていたが……どうにも侍女長はもう死期を悟っていたらしい。
侍女長の表情は、完全に特攻に向かう兵士のそれだ。
自分が生き残れるとは思っていない、殆どの確率で自分が死んでしまうんだろうな、とそう悟りきった顔をしているのだ。
俺的には侍女長には死んでほしくない。
侍女長は頼りになるし、姫様の精神を支えてくれる大事な存在だ。
そして、これまで一緒に過ごしてきた彼女には、自分に何かできることがあるならば、喜んで協力しようと思えるくらいには俺自身情が湧いている。
しかし、侍女長を生かすにはどうするべきなんだ?
眷属化の傷は、主人が傷つけばその眷属もダメージを受けるというもの。
たとえ、操氣術で今ある傷を全て癒したとしても魔王がまた傷つけば彼女にも傷がつく。
一時的な対処としてはともかく、根本的な問題の解消には繋がっていない。
逆に魔導からのアプローチも芳しくないだろう。
勇者の能力は、どうにも魔導を阻害する働きがあるようだし、俺はそもそも侍女長ほど魔導に長けていない。
彼女が対処できないものを俺が対処出来るとは思えない。
とすれば……俺に残っているのは、この鍵の能力だけだ。
でも、この能力で一体何を開閉すれば良いんだ?
傷口を……しても意味ないか。
傷口を閉じれば出血を抑えることはできるが、操氣術同様根本的な解決になっていない。
そうするぐらいなら、体力の回復もできる操氣術にした方がまだ良いだろう。
……どうする?根本的な解決ができそうにないならとりあえずの応急処置でもしておくか?
いや、万が一魔王が死んでしまったらそのフィードバックで侍女長も死ぬだろう。
むしろそこまで保つかも怪しい。
姫様の目の前で侍女長が亡くなれば、当然姫様はショックを受けるだろうし、俺だってそんなのは見たくない。
やはり眷属化の問題をどうにかする方法を考える必要がある。
煮詰まった考えをほぐすために、俺は侍女長の姿をなんとはなしに眺めてみる。
魔力を込めた目で見つめても、侍女長の体には三つの魔力の奔流を感じるだけで何も変わったところはーー
……ん?三つ?
「……そういえば、侍女長。俺、あんまり眷属化の仕組みについて詳しくないんだけど……眷属化ってどうやってするんでしたっけ?」
「……眷属となる者に主人の体液を飲ませる、それが眷属化の条件です」
「どうして体液を飲むと眷属になるんですか?」
「……私も、専門の者ではないのでよくはわかりませんが……その、主人となる魔族の魔力が眷属となる者の身体に浸透し、その二者間で魔力のパスができると、言われています。そのパスを通して、眷属の肉体や魔力を強化し、そして主人の怪我を肩代わりする、と。そのようなことを研究者が言っていたような気がします……」
「魔力のパス……」
侍女長の身体に巻きついている魔力は三つ。
一つは侍女長自身の魔力。
二つ目は、勇者の攻撃によってつけられた勇者の魔力。
となれば、後一つはーー
……何となく、打開策が見えた気がする。




