79.ルール
ゴールデンウィークに向けて、連日連載を予定しています。しばらくの間書いてなかったので、ちょっと文章がおかしいですが、よろしくお願いします。
「……それは、さすがに無理があるでしょう、マティス。そこのエルフはともかく、人間がそばにいてはいつ寝首を掻かれるかわかったものではありません」
「ーーな!?それは言うんでしたら、そちらこそ信用なりません!いつその眷属とやらの力でお兄様を操って私たちを害そうとするか……こちらは心配でおちおち寝てもいられませんよ!」
「まぁまぁ、落ち着けって二人とも。そう言うと思ったから、ちょっと今からルール考えようぜ?」
「「……ルール、ですか?」」
お互いがお互いを信用しきれていないのは今までの会話でよくわかった。
ならば、お互いにそれぞれが不可侵であることを証明できるような状態に持っていけばいいだろう。
「まず、侍女長としては第一に守るべきは姫様だろう?逆に言えば、姫様が害されなければこちらはやっていけるわけだから、とりあえずはキーラと……後、一応アルバも、姫様、俺が後ろに背負っている女の子な?からまぁ、2、3メドル離れてもらうってことでどうだ?」
「……それだけでは、少々不安、ですね……。私が、許可しない限りマティスへの接触を禁止、後は……会話も厳禁、でしょう」
……えっ?それはちょっと厳しくね?
キーラもそう思ったのか、眉間に皺を寄せているが、侍女長は嫌ならばこの場から去れ、と言わんばかりに冷気を発した。
「……なるほど。それならば、こちらからもそこそこ条件をつけても文句は言われませんよね?まずはそこの魔族、侍女長さんとやらのお兄様への接触は禁止。次にお兄様は侍女長さんへと視線を向けることを禁じます」
……は!?視線を向けるのを禁止……ってさすがに無理があるだろう!?
「無理じゃないです。相手方も同じような無茶振りを言っているのですから、このくらいは当然です。そして、最後にお兄様を使って何か悪さをできないようにお兄様の首には私の鎖を巻き付けさせていただきます」
そう言って、手からジャラリと黒い鎖を出現させた。
「……それはーー」
「無理とは、言わせませんよ。貴方だってお兄様に見えない鎖を巻き付けているようなものなんですから。こっちだって物理的にでも縛っておかないと……何をされるかわかったものではないから」
「……何をするかわからないのはこちらのセリフです。そんな得体もしれない鎖を巻きつけるとは……一体、どんな悪影響を及ぼすか……」
このままだと、話が堂々巡りになりそうだったから、俺は一応の説明をしてやる。
「キーラの能力は、相手の体力を奪ったり奪った体力を与えたりすることができる鎖を生み出す能力だ。だから、俺の精神とかに影響を与えるものじゃないから、侍女長の心配は杞憂だ」
「付け加えるならば、魔力も吸い取ることが可能です。この鎖でお兄様を縛り付けている間に衰弱しない程度に魔力と体力を吸い上げ、例え貴方が何らかのアクションをお兄様に起こさせようとしてもほとんど戦力にならないようにする為です。勿論、盗賊や魔物などの外敵が来た場合はお兄様にすぐに力を戻しますからご安心を」
「……ふんっ、いくら人間に言われたところで安心はできません。……それと、マティス。貴方はそこの人間と既知の関係にあるようですが、あまり油断しないように。今だって完全に能力を理解できていなかったように、人間は腹の中で何を考えているかわかりませんからね」
「ーーそれを言うんだったら、お前だって!!」
「……私は、マティスの上司に当たる存在です。部下を危険に合わせるはずがないでしょう」
「はぁ!?部下じゃなくて奴隷の間違いでしょう!!そもそもの話、お前がーーー」
「あーあーあー!待った待った!待ってください!!喧嘩はなし!口論もあんまりしないで!?とにかくはそのくらいのルールで良いか?とりあえずは」
「……いえ、備えあれば憂いなしと言いますしね。もう少し追加のルールをーー」
「だったら、こっちだってーー」
会話がドンドンヒートアップしていく二人を宥めるため、未だに袖口を掴んでいるアルバを連れて、俺は二人を物理的に引き剥がした。
◆
結局のところ、原則のルールとしては両者に不用意に近づかないこと、保険としてキーラの鎖を首に巻くこと、後はあんまり会話もしないことだろうか。
会話に関しては、どうしても必要なことがあるからそこは随時要相談と言ったところだろう。
兎に角、こんな感じで激しい口論を繰り広げながらも、俺たちは獣人国との国境にある砦を目指すことになった。
道中、俺はキーラは勿論のこと侍女長とも不用意に近づくことを禁じられているわけで……キーラと侍女長も仲良く肩を並べて歩くような間柄はではないし、アルバは相変わらず何を考えているのか理解できないしで……。
随分とバラバラに歩いていたと思う。
側から見てたら団体ではなく個人で歩いているようにしか見えないだろうなぁ、とかくだらないことを考えていないとしんどいぐらい、空気が悪かったことだけは言える。
国境の砦までは、そこそこ距離があるので途中で野宿をする必要があるという侍女長の説明に従い、俺たちはそこそこ歩いたのちに見つけた手頃な洞窟で、夜明けを待つこととなった。
そして、現在……。
「「……」」
俺が不用意に鎖をいじったことで起きた口論は一応終息し、また無言タイムが始まる。
……なんだかんだで俺は種族間の壁というのを舐めていたのかもしれないな。
どうせここから動かないといけないんだから、一緒に行こうぐらいの軽い気持ちで言ったつもりだったのだが、二人の間にある緊張感は冷戦時代の米ソを思わせるぐらいに冷め切っていた。
それもこれも侍女長が警戒心全開で冷気を放っているせいなのだろうが……。
その冷気に呼応するようにキーラも鎖をジャラジャラいわせているから、見ているこっちは体感温度以上にヒヤヒヤしている。
……ちょっと警戒しすぎなんじゃないのか?
キーラに悟られないようにチラと視線だけを向けるも、侍女長は正面をじっと見据えているだけだった。
はぁ……なんか考えるのも疲れてきたし、とりあえずは休憩するか。
丁度トイレにも行きたくなってきたし……。
ジャラ、と首に巻きついている鎖が音を立てて俺が腰を上げると、キーラと侍女長が同時に顔を向けてきたので、「ちょっとトイレに行ってくる」と言うと、二人は視線を元に戻した。
鎖は伸縮自在のようで、洞窟の外にある茂みの近くまで行っても全然首は痛くはならなかった。
「ふぅ〜……」
ジョボジョボジョボ〜、という音以外は何も聞こえない薄暗い森の中。
木の根に向けて、排泄行為を済ませるとピッピッと液体をきって、ズボンの中に仕舞い込みチャックを閉める。
……とりあえずは、一息吐けたと言ったところだろうか。
俺がなんとはなしに木々を眺めていると、急に自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「……マティス、少し話があります」
後ろを振り向けば、先ほどまで洞窟内に腰を下ろしていたはずの侍女長の姿があった。
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