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7.氣の習得《下》

明日、投稿できるか怪しかったので、今日投稿しておきます。



「いらっしゃいませ。本日はどういった奴隷をお探しで?」


奴隷屋に入って開口一番、店員らしき人物がそう言った。

俺は思ったより綺麗な内装に少し緊張しつつ、要件を告げる。


「すいません、この娘の首輪が壊れちゃいまして……新しいのを買いに来たんですけど」


奴隷、と口にするとカイリちゃんがピクリと口の端を歪める。

いや、不愉快なのはわかるけど堪えて下さいよ、カイリ様!


奴隷商人はニコニコとした笑みを浮かべながら、対応する。


「あぁ、首輪の破損ですか……。ということは、旦那は刻印型契約式をお使いになったってことでよろしいですかい?」


「え、あっ、うん……そんな感じ」


「そうですかい、では少々お待ちを」


刻印型契約式って何?って思ったけど、とりあえず流れに身をまかせる。


首輪を取り出すのに時間がかかるらしく、その間は店内を好きに見て構わない、と言われたので俺はカイリちゃんと話しながら適当に眺めることにした。


「そういえば、首輪を付けることになるみたいだけど、本当に大丈夫なのか?」


「……帝国をぶじにでるためならしかたない、です」


渋々といった感情が伺える表情で彼女は首肯する。


「ただ、だからといってひとまえでヘンなめいれいをするなよッ、です!」


「お、おう……わかってるよ」


というか、そもそもの話君は首輪を付けられるだけで実際の拘束力は皆無なんだから気にしなくてもーー


と、考えたあたりで不意に思いついた。


そうだ、カイリちゃんは帝国内では俺の奴隷という立場であるからこそ安全で居られるんだ。それをもし、公の場で覆すような真似でもしたら、危険なんてもんじゃ済まされない。即刻、本物の奴隷用首輪を付けられること間違いなし、だ。ということは、俺の命令を大衆の面前ではね除けることは出来ないわけでーー


「ーーいづッ!?」


「ヘンなことはかんがえるな、といったばかりですッ!」


「す、すいません……」


横から俺の邪念が伝わってしまったのか……あっさりと釘を刺してみせるカイリちゃん12歳。

うん、やっぱりそんな非人道的なことできるわけないよな。

俺は大人しく自分の彼女とハードなプレイに及びたいと思います。


うーん、作るんだったらおっぱいが大きい娘が良いよなぁ、やっぱり……。

いや、ロリも悪くはないんだけどね?でも、いずれロリじゃなくなっちまうからなぁ。

だったら、巨乳の方が……。


と、そこまで考えてある一つの檻が目に入った。


理由は簡単。

この妙に小綺麗な内装に分不相応なほどにその檻が汚かったからだ。


檻はこの世界で成人男性扱いの俺が丸まらないと入れないような小さなもので、上下の鉄板を支えている支柱のようなものが、何らかの影響によって赤黒く染まっている。

いや、それだけならば特に俺も気にしない。

まぁ、檻の掃除をし忘れたんだろうな、程度にしか考えなかっただろう。

ただ、問題はその檻の中にいる生き物である。


おそらくこの世界では珍しい黒髪をした女の子なのだろうが……。

いかんせん身体中が傷だらけで、しかも容姿がほとんど確認できそうにないくらい髪がボサボサ前を覆っているのだ。まるで、童話に出てくる山姥の如く。

俺が女の子だと視認できた理由は、小柄な体躯の割に胸が膨らんでいたからだ。

これでもし、彼女がペタンコだったら男女の区別はつかなかったであろう。

そう思えるぐらいには酷い有様である。


そんな可哀想な女の子は、ヒューヒューと喘息を患っているかのように小さな喉をコクコクと動かしながら呼吸を続けている。

医者でもない俺でも分かる。この娘の寿命があまり長くはないことが……。


俺がそんな少女の様子に思わず絶句していると、首輪をとって戻ってきたらしい奴隷商人が戻ってきた。


「旦那、首輪を取ってきましたよーーって、何ですかい。旦那はもしかしてそういう傷モノが好みですかい?」


「き、傷モノ……?」


「えぇ、貴族とかの特権階級あたりになるとそういう変態野郎もいましてねぇ。一応、こいつもその枠で仕入れてはみたんですがね……。この有様ですからね、もうそろそろ廃棄しようかなぁ、と思ってる次第ですよ」


ーー憤怒、驚愕、欺瞞、悲哀。


多種多様な負の感情が俺の体内をグルグルと駆け巡るかのような感覚に襲われた。


ーー落ち着け!今は、関係ない。とりあえずは目の前のことに集中しなければ!


必死に怒りを押し殺し、涙を堪え、動揺を隠すと俺は何食わぬ顔で奴隷商人に尋ねる。


「……それで?この奴隷はいくらになるんだ?」


「へ?本気で買うつもりですかい?これはあんまり長くはーー」


「ーーいいからッ!幾らなのかを聞いているんだ!?」


一瞬、声を荒げてしまい隣にいたカイリちゃんを驚かせてしまう。


が、気にせず俺は奴隷商人の言葉を待つ。


「いえ、もともと廃棄の予定でしたからね……。持っていってくれると言うのなら是非もない。何でしたら、首輪もサービスで提供しましょう。それでどうですかい、旦那?」


「あぁ、こっちからすれば願ってもない話だが……良いのか?そっちは儲けがないぞ?」


「いえいえ、人一人処分するのに随分とお金が掛かりますからね。かといって、治そうにもポーションはお高いですからね。治すにも治せないしでね……。それに比べたら銀貨3枚分くらいの価値にしかならない首輪など誤差の範囲ですよ。ただし、それの返品は不可とさせていただきますが、よろしいですかい?」


「あぁ、わかった。それで問題ない」


「では、こちらへ。それももうあまり体力が残ってないものですからねぇ……簡単な契約式で済ませてしまいますが、無いよりはマシでしょう。もちろん、契約式の方もサービスさせていただきますよ」


「できるだけ早めに終わらせてくれ」


「かしこまりました」


俺の粗暴な物言いにも気を悪くした様子を見せずに、奴隷商人は淡々と作業にあたった。





奴隷商人の「またのお越しをー」という言葉を聞きながら、俺は奴隷屋を後にした。


先ほど買った女の子ーー名をキーラというーーは、歩くのも辛そうだったので、お姫様抱っこの要領で運んでいるのだが……。

まるで死人のように体温が低い。

普通だったら、こんなに怪我をしていたら全身が熱くなったりするものなのだが……。


おそらく体内で治癒しようとする力すら残されていないのだろう。

彼女はただただ、ヒューヒューと呼吸するだけである。


俺がそこまでキーラを観察していると、カイリちゃんから声がかかった。


「それでどうするのか?です。いちおう、めあての首輪はてにはいった、ですが……」


「あぁ、これから宿屋を探しに行く予定だ。キーラの容態が思ったより悪い。できるだけ安くて清潔なところを探そう」


「……わかった、です」


ということで、宿屋を探し回ったが、どこの宿屋も汚らしい奴隷を泊めるのはダメだ、としか言わなかった。

もう少し金を多く持っていれば別だったのだが……。

生憎と手持ちは金貨一枚ほどしかない。

あまり無駄遣いはしたくないものだ。


となると……。


「予定変更だ。まずはキーラをキレイにしよう。近くに川とかはあるか?」


俺の問いかけに、カイリちゃんは鼻をスン、と動かしてみせる。


「なくはない、ですが……いく、ですか?」


「あぁ、案内を頼む」


「……」


今度は返事もしてくれなくなった。

何?もしかして、使えねぇ男だなぁ、とか思っちゃったりしてる?

その通り、俺は全くもって役に立たない男だぞ!


なんてくだらない自己PRをしているうちに、カイリちゃんの先導によって川辺にたどり着くことができたが……。


「冷たいな……」


「……」


触っただけで水温が何度とかはわかりはしないが、銭湯に設置されている水風呂同程度ぐらいには冷たい。


この中でバシャバシャキーラの身体を洗ってしまえば、とてもじゃないが持たないだろう。

先に応急処置だけでも済ませておくべきか。


俺はそう考えてキーラを川辺の地面に横たえる。


「ちょっと我慢してくれよ?」


「……ッ」


キーラの肌からこびりついて離れない衣服を体にダメージが入らないようにゆっくり脱がせていく。

徐々に露わになる女体ーーーしかし、俺は全く興奮しなかった。


理由は身体中が魔物による怪我でボロボロだったからだ。


「これはヒドイ、です……」


思わずといった様子で口元を抑えるカイリちゃん。

まだ、12歳の女の子には見せるべき光景ではなかったのかもしれない。

しかし、彼女の操氣術がないと話にならない。


俺はカイリちゃんに協力を求めた。


「カイリが扱っている操氣術の中には人の治癒力を高める効果があるものがあるんだよな?それをキーラに使ってやってくれないか?」


心優しいカイリちゃんならば渋々とはいえ協力してくれるに違いない。

そう思っての提案だったが、次の言葉でその期待が裏切られることとなった。


「いま、わたしたちは王国へととうぼう中の身だ、です。こんなやつをたすけても食いぶちがふえるだけだ、です」


「ーーーは?」


「だから、さっさところしてしまったほうがこいつにとってもわたしたちにとってもしあわせだ、と言っているのです」


言っている意味が理解できなかった。

否、意味は理解できた。

そうではなくて、何故そんな言葉を短い間とはいえ同じ奴隷だったカイリちゃんが言えるのかが不明だった。


もしかして、何かのブラックジョークの類なのか?


そう思ってカイリちゃんの目を覗き込んでみるが、そこにはただの下等種族としての人間の死に損ないを見つめている無機質な眼差しがあるだけだった。


「……マティスが、どうしても処理しづらいというならわたしがしてやってもいい、です。さいわい、わたしはころすのがとくいだ、です」


「…………」


会話が根本的に通じてない。

俺は助けたいと言っているのに、どうして効率的な死体の処理の話をしなければならない。


……もういい。

とにかくカイリちゃんが当てにならないことはわかった。

ここからは俺一人で行動するべきだろう。


俺は脱がせた服をもう一度着せ直すと、キーラをおんぶする形で背負いこんでから、カイリちゃんに向けて言葉を発した。


「……俺は今から薬屋に行ってポーションを買ってくる。お前はーー勝手に獣人国にでも帰ってろ」


「……は?なに言ってる、ですか?」


「だからもう、お前には付き合いきれないって、言ってるんだ!これからは別行動ってことだ」


獣人国に帰ることを最優先に考えているカイリちゃんの気持ちもわからなくは、ない。

けど……それでも、少しはキーラの気持ちも考えてあげてほしい。

こんな傷だらけの様相になってもなお、必死に生命維持に努めている姿に、何かーー少しぐらい感じ入る心があっても良いんじゃないか、と思う。

まぁ、俺が日本の倫理観を捨てきれない甘ちゃんの可能性もあるが……。


どちらにせよ、二人の意思が食い違ったのならば、別れた方が良いに決まってる。


「金貨一枚は、どうしても治療費に必要だから貰っていく。その代わりにお前が仕留めた魔物の素材と食料は全部置いてく。それで何とか食い繋いでくれ」


じゃあな、と矢継ぎ早に言葉を告げようとすると、カイリちゃんが口を挟んできた。


「さっきからなにいってる?おまえ……ゲボクは一生つきしたがうものぞ。もしかしてあたま、おかしくなったのか?なぜ急に?ーーーその奴隷のせいか?」


普段の語尾のですが無くなった違和感からか、俺は直感的に左半身を引いた。


ーーザシュッ!


カイリちゃんの瞳孔が大きく開いたかと思ったら、その瞬間俺の左肩が切り裂かれた。


「……なっ!?」


「マティス、よけるな。てもとが狂って、そいつころせない」


何だよ、これ!?

もしかして、こいつ本気で殺しにきてんのか?

何の罪もないであろう、子どもを!?


「お前……本当に何のつもりだ、これは?まさか、本気で殺すつもりじゃあーー」


「ーーころすからどけ」


ーーブチッ


その一言が俺の中にある大切な何かを根こそぎ引き抜いた気がした。


「いい加減にしろよ、テメぇええええッッ!!!」


思わず溢れる怒声。

そして、俺の怒りに呼応するかのように膨大な量の氣が放出された。

それを見て、若干怖気付いたのか、カイリちゃんは一歩後ずさった。


「なんで、どうして……おまえ、わたしのゲボクなのにぃ……どうして、そいつのみかたをする?いみがわからない」


意味が分からないのはこっちだ、っての!

しかし、今の隙は相当デカイ。


俺はいつの間にかに使えるようになった氣を足に集中させると、その場の離脱を図った。


カイリちゃんは俺の怒気にビビったのか、後を追ってくることはなかった。






主人公がいきなり力に目覚めるのってテンプレだよな。

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