76.盛大なフレンドリーファイヤ
久しぶりの投稿です。また、ボチボチはじめますのでよろしくお願いします。
「……はやく、起きなさいッ!!」
「ーーーッ!?」
一瞬、ここがどこなのか把握できなかった。
見上げればいつもの食堂の天井。
慣れ親しんでいるはずなのに、ちょっとだけ新鮮な感じがするのは、俺が天井しか目に入れてないからかもしれない。
まるで仰向けに寝転んでいるかのような視界に俺は驚きーーー
「ーーい゛ッ!?」
全身が痺れるような痛みに襲われることで飛び起きてしまった。
「あれ、ここは……?」
「まさかあれしきの結界で意識だけでなく記憶もとばされたのですか?貴方は。そんなことでは姫様の護衛など到底務めないと思うのですが」
目の前にはいつもの侍女長の冷めた表情。
場所は先ほどと同じく食堂。
……そうだ、確か俺はシーフェと侍女長と一緒に飯の最中にうるさいサイレンみたいなのがなって、それでーーー
と、そこまで考えたところで、食堂が今までの様相とは明らかに異なっていることに気づいた。
「ようやく目が覚めた、と言ったところでしょうか。次からはもっと早めに復帰できるようになりなさい」
「……これは、一体どう言うことなんですか?何故、地面の至る所に魔法陣が……」
あたりを見回してみれば、食堂だけではない。
従者の館、魔王城、そしておそらくは城下町まで、地面のありとあらゆるところに銀色をした幾何学的な紋様がびっしりと埋め尽くされていた。
その有様は、魔術というよりも神の奇跡と言ったところ。
およそ人の為せる業ではない。
「私も初めて見るので断言はできませんが、おそらくは敵方の勇者による聖域結界なのではないかと思います」
「聖域結界……?」
「はい。大昔に、それこそ御伽噺に出てくるような存在すら疑わしいほどに曖昧な情報ではありましたが、勇者には私たち魔族の力を大いに減退させ、苦しめる大いなる結界が存在する……と」
「それが聖域結界」
「……」
沈黙は肯定ってことで良いんだよな?
まぁ、はるか昔の話だから確証なんてあるはずもないんだろうが……。
しかし、今の言葉が事実なのだとすれば、この全身を襲うピリピリ感のようなビリビリ感のような不快なものは勇者の仕業というわけか。
……つまりは、盛大なフレンドリーファイヤということで、オーケー?
「……眷属化しただけで元はただの人間だった貴方にはそこまでのダメージを受けなかったようですが、純粋な魔の一族である者からすれば、これはかなりの痛手です。大抵の者は立つことすらままならない有様ですし、私ですら氷結の結界式を使ってようやく持ち堪えていると言ったところでしょうか」
そう言って、苦虫を噛み潰したような顰めっ面を浮かべる侍女長の周りには、確かに冷気のようなものが漂っている。
しかし、その結界式もほとんど地面にある聖域結界とやらに押し潰されている有様であり、保険程度のものでしかないのだろう。
純粋な魔族ほどダメージを受ける結界か……かなりエグい能力だな。
……っていうか、あれ?よく考えたら、なんかおかしくね?
「侍女長の言う通り、俺なんか眷属化した程度のただの人間なのに、一瞬でも気絶してたってどういうことなん、でしょうか?」
「……それは、貴方が貧弱だからーーーと、言いたいところですが、実際には主のダメージを肩代わりしているからでしょう」
「……え?肩代わり?誰の?」
「この場合は、姫様のでしょう。というか、上司に対してタメ口はやめなさいと言っているでしょう。程度が知れるでしょうが」
相変わらずの毒舌ツッコミだが、いつもよりもなんとなくキレがない気がする。それほど弱っているということか?
……じゃなくて、今なんて言った!?主の、というかシーフェの肩代わり!?俺が?
「眷属化の代償はかなり有名な話なのですが……もしかして、知らなかったのですか?」
呆れて物も言えない、を体現してみせる侍女長に、俺は食ってかかった。
「いやいや、いつも侍女長が言っていることですが俺なんて元ただの人間ですからね!?魔族の掟とか伝統とか知りませんから!眷属化なんてもっての外ですよ!!」
「うるさいですね……」
ポロッと漏れたとんでも発言に俺がギャーギャー騒ぎ立てると、いつもはその数倍増しの勢いで毒を吐いてくる侍女長が、青白い顔でただ一言だけそう言った。
「あれ……?侍女長、今そんなに体調が悪いんですか?」
「……べつに。それよりもそこで気絶している姫様を背負ってもらっていいですか?ここにいると色々と危険な目に遭いそうなので」
「分かりました」
普段ならば、シーフェに接近することすら容易に許さない侍女長が、接触まで許可するだと!?
これはマジで事態が深刻なんだな。
一応、勇者の手助けをしろとか女神様に言われていたけど……これじゃあ、俺の出る幕はないな。
というか、勇者の余波で死にかねんわ。
それに、こいつらのことも嫌いじゃないし……。
とりあえずは、シーフェや侍女長と一緒に避難でもしておくか。
食堂の床に横たえられていたシーフェを抱き抱え、その場を後にした。




