69.氷結式
今、利き手を怪我していて文字を入力するのが困難な状態なので、短めに投稿します。すいません。
その代わりと言ってはなんですが、明日も投稿しますので、よかったらまた明日読んでいただけると嬉しいです。
魔導がいかに便利と言えど、完全無欠というわけではない。
人間が扱う魔法のように詠唱を必要とはしていないが、その代わりにイメージをしっかりしないとちゃんと発動しないし、魔導の基礎ですら習得するのにかなり時間がかかるぐらい一つ一つの技の難易度が高いのも欠点の一つだ。
そして、そんな欠点の中でも俺が特に明確なデメリットであると認識していたのが、物質に対して直接魔導を行使できない点である。
これだけではわかりにくいので、例を挙げてみよう。
例えば、目の前に木材があったとする。
その木材を燃焼しようとして俺が魔導を行使したとすれば、手順的にはまず空中に炎を創造する必要がある。
そして、そいつを操って木材にぶつけることで燃焼させる。
つまりは、物を直接燃やすことはできないというわけだ。
勿論、これには例外が存在する。
それは同属性を介した場合での魔導の発現である。
先程俺が侍女長にやってみせたのがまさしくそれだ。
地面を介して、遠距離に土の大砲を創造する。
これは立派に魔導の誓約に則って行われた行為である。
翻って、侍女長の行使した魔導はどうだろうか?
氷の塊を空中に出現させて攻撃したのではなく、いきなり俺の右腕と大砲を凍らせてみせたのだ。
どう考えてもルール違反だ。
いや、仮にこれがルール上正しいとするのであれば、氷属性が最強の魔導になるに違いない。
だって、こんなの避けようがねぇもん……。
「はぁ、はぁ………っ」
薄笑いを浮かべて見下ろしてくる侍女長の顔を睨みつけ、暗にこの反則野郎!と非難の視線を向けていると、ガッと腹を蹴りつけられて仰向けにされた。
「何故、直接人体や物に魔導を行使できるのか?と疑問を抱いていますね?」
「はぁ、はぁっ……あ、たりまえだっ!お、まえが、物には魔導を行使できないと、教えたんだろうが!」
付与、創造、同化……これらの三つの魔導を教わる前に彼女から軽く説明を受けたときがあったが、あのときにはっきりと言っていた。
実際に俺も試してみてできないことは分かったので、あのときはそれが事実なのだと鵜呑みにしていたが……この様子だと何やら裏技が存在しているようだな。
「ふふっ、安心してください。貴方が考えているようなことはありませんよ。私はきちんと貴方に魔導の基礎を包み隠さず教えました。がーー」
「……が?」
「ふっ、貴方のそのオーガ並の知能でよく考えてみなさい。魔導の基礎と言ったら、当然応用があるに決まっているでしょうが。これも応用技の一つ、氷結式です」
そう言って虚空に手を翳すと、砂だらけの訓練場が一瞬で銀色の世界へと一変した。
「なっ!?これはーー」
「魔導による空間支配の技法、結界と呼ばれるものです。このように自分が想像した結界内のものであればなんでも凍らせることができるという技ですよ」
「結界……」
漫画とかアニメとかで結界云々の話は見たことはあったが……ここまで、強力なものなのだろうか?
いや、そういえば俺の好きなアニメでも滅!とか叫んだら敵を消滅させてたっけ……じゃあ、結界使えるやつが一番強いじゃん。
「上位の魔族であれば、誰でも使える技法ですよ。まあ、習得が魔導の基礎に比べれば遥かに困難であることが難点ですが……。一応、使い方をレクチャーしておきますね?まずは己の結界、領域を創造してください。その次にその領域に自分の属性を付与し、そして最後に自分が作り出した領域に同化してください。そうすれば、自分の手足のように自在に動かせる結界が出来上がります」
まぁ、聞いたところでできないでしょうけどーー
と、嘲笑を一つして、俺の顎をクイと持ち上げた。
「では、約束通り私の監視下に入ってもらいます。ーーそれまでは寝ていなさい、マティス」
「まっーー!」
ーーーパキンッ!
その瞬間、俺は一言も発言することも許されず、そのまま全身氷漬けにされた。