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6.氣の習得《中》

はい、やっぱり間に合いませんでした、すみません。



よーし、この調子でさっさと練氣を習得してしまおう、という勢いは数時間前にとうにチリくずとなって消え果てていた。


練氣は氣を感じとるよりも数倍難しい動作だったようで、その日一日中うんともすんとも言わない体内の氣相手に鬱屈とした想いを募らせるだけとなった。


氣を動かすには体内の血液を手繰るような感覚を持て、とカイリちゃんは言っていたが、そもそもの話俺は体内の血液を操作することができない。

その結果、身体の表面に煙みたいな薄い膜を感じとることしか出来ていなかった。


「あまり帝国内で、あしぶみをするのはよろしくない、です。しばらくはあるきながらのくんれんになる、です」


カイリちゃんはそう言って、夕食の支度をしていた。

その間俺は周りでウヨウヨしている氣をどのように動かせばいいのかと、四苦八苦していたのであった。





翌日。

動きながら練氣を習得するのは難易度が高すぎる、ということもあって、俺はカイリちゃんに背負われた状態で訓練をしていた。


「わたしは、いまから氣をめぐらせてはしる、です。わたしがどのようにして氣をうごかせているのかをはだで感じながらくんれんしろ、です」


食料や金貨が入った袋は俺の腰に括り付け、カイリちゃんが俺をおんぶする形でそう言った。


「うん、いやまぁわかってはいるんだけど……この格好、結構恥ずかしくないか?」


「べつにきにしてない、です」


いや、カイリちゃんは気にしてないかもしんないけど俺は気になるの!

だって、端から見たらヤバイだろ!この光景。


獣人の娘(奴隷風)12歳が農民の男(成人)をおんぶだぞ!


いくら獣人の力が強いからって子どもに背負わせる成人男性の絵は鬼畜すぎる気がする。


……それともこれも氣のせいなのか?

俺が気配を敏感に察知できるようになったせいで、余計なことにも気を回すようになってるだけなのか?

敏感肌になっちゃったのか、おい!


俺の下らない妄言をよそに、カイリちゃんはお馬さんを超えるスピードで駆け出してく。

ーーーうおッ、風圧が強っ!


「よくきけ、です。氣は身体中のさいぶをきにすることでかんちできる、です。なので、あしやうでに力をこめるようにして氣に集中すれば、そのうちに練氣がこなせるようになる、です」


「ーーーッ」


「へんじはどうした!?です!!」


「ーーーゔ、ぅん」


いや、今それどころじゃないって!

こんなスピードで走られるのは、車とかに乗ってた前世以来だよ。

しかも、オープンカーとかと違ってカイリちゃんの身体がめちゃくちゃ動くもんだから地面を走る振動が伝わって腰が痛い。

しかし、文句を言えるような余裕はない。


それから、最寄りの町にたどり着くまでの間、俺は必死にカイリちゃんのレクチャーに相槌を返していた。





町に着いた。

俺たちがローブやら何やらを買うための町にようやく着いた。


道中、俺の腰が何度ヘルニアに襲われるんじゃないかと心配になりもしたが、何とか無事に到着することができた。


しかしーー


「おまえはほんっっっっとにグズでノロマで根性なしのモヤシやろうッ!です!!」


カイリちゃんからの誹謗中傷を避けられない結果となってしまった。

原因はカイリちゃんの走る衝撃を受けすぎたことによる気絶である。


レクチャーに夢中だったカイリちゃんは、途中までは俺の気絶に気付いた様子がなかったみたいだが、あまりの相槌のなさに不審に思って俺を下ろして確認したようだ。

その時に、俺が白眼を向いた汚い顔つきをしていたのが見つかってしまった。


それ以来、こうしてぶつくさ文句を言っている。

当然、練氣の習得なんて出来ていない。


「まぁ、いいです。とりあえずは、服のちょうたつからはじめる、です」


「了解です」


というわけで、町内を歩いていた人に道を尋ね、5分ほどで服屋に到着したのだがーー


「ーーローブが高すぎるッ、です!なんなのだ、ですか!あの金貨5枚とか、ふっかけすぎなのです!」


「まぁまぁ、落ち着いて」


そうローブは案の定高かった。

というか、このローブは中古である。

古着にも関わらずこの値段。

新品だとどれだけ高いんだと思わず戦慄してしまう。


「えーと、確か獣人が帝都内を歩いても不審がられないようにするために、ローブを購入しようとしてるんですよねー、お客様?」


そんな俺たちを見かねたのか、服屋の店員さんが助言をしてくれた。


「そこのお兄さんの奴隷ってことにしておけば、帝都内を歩いても気にされないと思うけどー?」


「奴隷……ですか?しかし、残念ながら俺たちには奴隷契約を結ぶだけのお金がないですから……」


「別に本物の契約を結ぶ必要はないんじゃないー?それっぽい首輪だけつけておけば、問題ないと思うけどー」


「……なるほど」


目から鱗、とまではいかないが、それでもその妙案には舌をまく思いを覚えた。


「首輪はー、奴隷商人の所に格安で売ってるからー、首輪が壊れたとかテキトーに言い訳を並べればー、良いんじゃないー?」


「……ちょっと試してみようと思います。助言、ありがとうございます」


「いえいえー、またのご来店をお待ちしておりますー」


ボリュームのある長い緑髪が、胸元にたらりと垂れ下がるのを見て、思わず店員さんの大きな胸に目を向けてしまう。


ちょっと、というかかなりタイプのーー


「ーーふんッ!」


「いでッ!?いきなり何するんだ!?」


「わたしの奴隷のくせして、オスのにおいをだしていたから正気にもどしてやったッ、です」


「……」


どうやら俺が店員さんに見惚れていたのがバレていたらしい。

追及を逃れるため、俺はそそくさと店を後にした。





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