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61.試行錯誤

もう一話出したい……っ(願望)



「はぁ、はぁはぁはぁ、はあ…………っ」


既に二桁……否、三桁単位で氷壁に火の玉をぶつけているが、目の前の壁はビクともしない。

かすり傷一つ、いやそれどころか跡すら何も付いていない。


後ろで本を読みながら退屈そうに眺めていた侍女長は、チラリと外の風景を見ると言葉を発した。


「……そろそろ夕餉の時間になりますので、今日はこのくらいにしておきましょう。あなたもお腹が空いているでしょう?」


「……わかりました」


確かにこれ以上やみくもにやったところで、成果は上がらないだろう。

何か、とっかかりのようなものを掴めない限り、延々とこの作業を続ける羽目になる。


折りたたみ式の椅子と本を片手にその場を去る侍女長を横目にしながら、俺は憎々しげに目の前の壁を睨みつけた。





この訓練を開始してから一週間が経過していた。


その間、俺は一度たりともこの壁に傷をつけることはできなかった。

いや、というかこの壁に向き合ったのは最初の3日ぐらいだ。

その後は、ただ火の玉を打ち出すだけじゃあ意味がないなと悟り、この館にある魔導の本を読み漁るようになった。

そして、本を読み始めてから2日経過した頃に、打開策を見つけることに成功した。


ーーそれが属性の合成である。


よくよく考えたら、火の玉というのは質量がないわけで。

質量がないものが巨大な氷壁に傷をつけようとしたら、純粋な熱量のみで挑まなければいけなくなる。

熱量は俺の魔力の発現量に比例しており、氷壁の硬さはそのまま侍女長の発現量に比例する。

俺の発現量と侍女長の発現量だったら、どう考えても彼女の方が優っているに決まっている。

将来的にはどうなるかはわからないが、少なくとも向こう一、二週間でどうにかなる力量差じゃない。


そこで、属性の力を合成する術を思いついた、というか見つけたのだ。


土属性は火の玉に質量を与え、貫通力も底上げしてくれる。

これだけでもかなり威力が上がるはずだ。


というわけで、岩を中心に炎でコーティングした炎弾を撃ち出したわけだが……。


ーーボオッ、バガンッ!


と、虚しく岩が砕け散る音だけが鳴り響いただけだった。


「うーん……ただの複合魔導では意味がないんだろうなぁ。もっと貫通力のあるやつに改良しないと……」


ここで複合魔導の開発に更に2日を要した。

こうして、計7日。

うんうんと頭を捻りながらも、再度試射する準備が整ったというわけだ。


「随分と悩んでいた様ですが……今回は上手くいきそうですか?」


字面だけならば、俺を心配して言ってくれているようにも見えるが、こちらを嘲笑するかのような薄笑いが透けて見えているから色々と台無しだ。


しかし、俺はそんなことはおくびに出さず温和な対応を心掛ける。


「えぇ、ちょっと試作時間がかかっちゃいましたけど、これで多分傷の一つぐらいは付くんじゃないかと」


「そうですか。それは良かったですね」


普段は無表情がデフォルトの癖して、ニヤニヤ笑いやがって……っ!


おっと、そんなことを考えている暇はなかったな、集中、集中!


魔導において一番大事なのはイメージだ。想像だ。

これが出来てなければ、いくら発現量が高くとも火の粉程度の威力しか出せない。

逆にイメージがきっちりしていれば、俺程度の発現量でもそれなりの威力が出せる。

だから、ここは集中して創造(イメージ)しろ!


威力の高い武器と言えば、俺の脳裏には拳銃が浮かび上がった。

戦争の在り方さえも変えたあの武器は、握ったことも見たこともない俺でさえ強烈な印象を持っている。

つまりは、あの銃弾の威力をイメージすることができれば、この氷壁も破ることが出来るのではないか?、と俺は思い至ったのだ。


右手を銃身に見立て、ピストルの形に構える。

ゆっくりと人差し指を氷壁の中心に定め、照準を合わせる。


「……?」


隣で侍女長が疑問符を浮かべているが、そんなのは無視だ、無視!


次は銃弾の生成だ。

まずは銃弾の核となる弾を土属性で形取る。

新幹線の頭頂部のような丸みを帯びたフォルムを意識して発現。

指先に人差し指の第一関節分ぐらいの大きさの弾丸が生み出された。

そして、次に火の玉を発現して作った弾丸にコーティングする。

火の玉よ、出ろ!と俺が念ずると、ボオッという音を立ててバスケットボール並みの火の玉が出てきてくれた。

それを弾丸に纏わせるために、俺は縮小するよう一気に収束。


「……っ!?」


熱気がこもった豆粒程のそれをゆっくりと銃弾に近付け……そして、合成させる。


「ふぅうう………っ」


ここまでの工程を終わらせ、思わず安堵の溜息を吐いた。

実を言うと、これの成功率は10%を切っている。

これを思いついてからトライアンドエラーの繰り返しを実に、三桁単位で行っていたわけだが、成功したのは両手の指で足りるほどである。

だから、ここで成功する自信があったわけでもなかったのだが……どうやら上手くいったようだ。


後はこいつを撃ち出して、あの壁に効果があるかどうかだが……。


いつの間にか、隣の侍女長の余裕の笑みが消え失せていることにも気付かないまま俺はその弾丸を飛ばした。





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