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58.付与《エンチャント》

すいません、間に合いそうにないのでもう一話は明日に投稿します。



「大きな分類に分けますと、魔力には付与(エンチャント)創造(クリエイト)同化(シンクロ)の三つの力が備わっています。そして、今回行う魔装というのは身体全身に属性の特性を付加する、即ち付与(エンチャント)の技術となります」


「はぁ……そうですか」


「よく理解できていない、という顔ですね?まぁ、私としてもそこまで深い理解を求めている訳ではありませんので、不都合はありません。魔導にしろ魔法にしろ、魔力に関連する技能はその人自身の想像力に委ねられています。私はあなたの想像力を高めるために一方的に講釈を垂れているに過ぎません。最悪、黙って聞き流してください」


「……わかりました」


「よろしい。では、続きです。各々にはそれぞれ属性が存在し、その属性に特性は様々です。例えば、あなたが所持している火属性では火傷を引き起こし、土属性は物を通常よりも頑強にします。他にも風、水、雷など様々な属性があるのですが……ちょうど良い機会なので魔導を間近で見ていただきましょう」


しっかりとその目に焼き付けておきなさい、と一言添えると、壁に右手をスッと当てた。

すると、数瞬の内に壁が凍り付いてしまった。


「……ッ!?」


「ふふっ、良い反応です。まぁ、お手本としては基本属性をお見せするべきなのでしょうが……生憎と私には氷の属性以外に縁がないものですから。オーソドックスな魔導を見せられず、申し訳ない限りですよ」


全く悪びれた様子もない表情で謝られても、こちらとしては据わりが悪いだけだ。

どのような反応をすれば良いのかわからなかったので、ここは適当にお茶を濁しておくとしよう。


「い、いえ……滅相もないです」


「ありがとうございます。……講習の続きですが、私のように氷属性を持つ者が付与(エンチャント)すれば、このように凍結する、という訳です。ご理解いただけましたか?」


「は、はいっ……それはもう、すごくわかりやすい講習でありましたありがとうございます!!!」


何故だかは知らないが、ここで不平不満を漏らせばすぐさまに目の前の壁と同じ運命を辿る気がしたので、早口且つ全力で侍女長をよいしょした。

よいしょされた侍女長は満更でもなさそうに口の端を歪めて見せる。(決して、笑顔を形作っている訳ではない)


「そうですか。お役に立てたようで、こちらとしては大変嬉しい限りです。では、早速実習に入るとしましょう。まずは先ほど私がやって見せたように右手に属性を付与(エンチャント)してください。付与(エンチャント)する属性は火属性でお願いします。土属性は何かと成功が目立たないので……」


「わ、わかりましたっ!」


失敗したら自分も氷漬けにされるかもしれない。

そう思った俺は、鬼気迫る表情で実習に取り組んだ。







奇妙な男だ、とラルファは思った。


当初の予定では、今頃訓練に嫌気がさした元人間の男が、魔族の自分に実力行使を仕掛けてくるはずだった。

そして、それを自分が返り討ちにして昨日よりも更に実力差というものを教え込むつもりだった。

しかし、現実ではどうだ。


目の前にいる元人間は、要領が決して良いとは言えないものの、必死に魔導の訓練に取り組んでいる。


「…………」


さすがに努力している人の邪魔をしようとは思わない。

少し、いやかなり気に食わないが、黙って見ているよりも他はない。


(何故でしょう。あの愚かな人間の、それも欲望にとことん忠実であるオスであるならば、自分(メス)の命令など即座に無視してもおかしくないというのに……。さすがは姫様が直々に眷属として選ばれただけはある、ということでしょうか?)


具に日々の生活を監視してみても、特にこれといって怪しい動きをしているようには見られない。

早朝に起床し、洗顔した後食堂に向かい、一人で食事を摂ってここに来る。

そのサイクルを規則正しく続けている。


(うーん……これでは潰し甲斐がないと言いますか、何と言いますか……姫様の護衛を任せる側としてはこれ以上ない程に嬉しいのですが……何とも素直に喜べませんね)


本人の了承も得ずに無理やり彼を眷属としてしまったことに少なからず罪悪感を抱いて、悶々としている自国の姫君の顔を思い出す。


(あの表情はマズイですね……。何が悪いって、一番は姫様自身は過剰にオスのことを気にかけているのに、当の彼がこの有様ですからね)


訓練を始めてから今日まで、それとなくシーフェの話をふったラルファであったが、マティスの反応は特に芳しくはなかった。

これでもし、少しは赤面したり動揺したりと青春らしい反応を見せていたのであれば、ラルファとしても特に口を挟むつもりはなかった。

身分違いの恋というものが実際に成り立つかどうかはさておき、さり気なく彼らの恋愛を応援する予定であった。


しかし、実際はそうではなかった。

少なくとも、ラルファの目にはそうは見えなかったのだ。


(一方的な想いというものは、目を曇らせるだけです。何とかして姫様の目を覚まさせたいところですが……)


「ん〜……出ない、出ないなぁ。炎……出ないなぁ」


「……」


(しばらくは彼の育成に時間がかかりそうですね……というか、私としては彼を護衛役として育てるのは反対なのですが……)


全く、魔王様は何を考えていらっしゃるのか……。

溜息を吐きながら、そう一言呟いた。




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