57眷属化
すいません、一話投稿し忘れていました。これは昨日の分になります。
今日の分は、ちょっと忙しくて書けそうにないので、明日二話投稿の方向でいきたいと思います。
「今日からあなたには魔導を学んでいただきます」
あれから3日が経過していた。
俺は未だに侍女長のスピードについていけず、ついでに言えば氣を使っても指一本触れることができなかった。
おかげで3日連続で昼食抜きという有様である。
今日こそは指一本ぐらいは触れてやるぞ、と意気込みながら早めの朝食を摂って庭園を向かってみると、開口一番そんなことを言われた。
「魔導……ですか?じゃあ、戦闘訓練の方はどうするんですか?」
「このままでは一ヶ月経っても私に指一本触れることすらできないという結論に至りましたので、予定変更です。魔導についてはご存知ですか?」
「えーと……王国で習った魔法みたいな感じですかね?」
魔導という言葉はちょくちょく侍女長から耳にしていたが、細かい意味については知らない。
同じ魔という単語が入っているから、それに類似する何かだと勝手に判断していたが……。
「……まぁ、概ね間違ってはないです。ただし、精霊に見放された雑魚と違って、我々の体の中には魔そのものが宿っているわけですから。当然、魔法なんかよりも我々が使う魔導の方が何倍も使い勝手がいいのですが」
「……」
“精霊に見放された”とか“魔そのものが宿っている”とか色々と聞きたいことがあったが、黙って聞け、と言わんばかりに睨みつけてくる侍女長の様子に、俺は口を噤む。
その様子に満足そうに頷きながら、彼女は説明を再開した。
「魔法についてあなたはそれなりに王国で習ってきたと聞いています。なので、初歩的な部分は省いて今日は魔装の習得に挑んでもらいます。まずは私が手本を見せますから、その後にあなたが実践してみてください」
手本さえ見せればさすがにわかるだろ、みたいな態度で言ってくる侍女長に対して、若干の怯えによって震える体を抑えながら俺は疑問を呈した。
「……あの、その理論だと魔族である侍女長はともかく……お、俺みたいな人間は、できないんじゃないかなー……なんて思うんですけど」
「……はぁー、そういえば、説明し忘れていましたね」
小さな溜息と共に、侍女長は失念していたと首を左右に振った。
てっきり、今回も質問は受け付けません、と突っ撥ねられると思っていたがために侍女長のその態度は驚きであった。
「王国で大分負傷をしていたと話に聞いていましたが……その後のことについて覚えていますか?」
「えー……確か勇者が来てその場をとりなしてくれて云々、みたいな……」
「その更に後に姫様がいらっしゃって、あなたを寮まで連れて行き治療をしていただいたのですが……。どうやら姫様の治癒魔導だけでは完治に至らなかったようで、あなたに無断で眷属化を行ったようです」
「……眷属化?」
「はい。目覚めてからここ数日、妙に体調が良いと感じませんでしたか?それは姫様の眷属化によってあなたの体が我々魔族に近付き、生命力及び魔力貯蔵量などが増大したことによるものなのです」
言われてみれば思い当たる節がある。
寝起き特有の気怠さを最近は一切感じないし、昼食はほとんど抜きの状態なのに空腹で身体能力が鈍ったことはない。
侍女長との戦闘訓練のときも、人間であった頃であれば、不意打ちに反応できずに打ちのめされていただろう。
……なるほど。
俺はかなりの恩恵をシーフェから頂いた様だな。
となると、彼女には早めにお礼を言うべきなんだろうが……ここから出られないせいでシーフェにも全然会ってないんだよなぁ。
会うのは侍女長とここのコックだけだ。
「そうですか。じゃあ、シーフェ……じゃなくて、姫様に会ったらお礼を言っておかないとですね」
「……えぇ、よろしくお願いします。それで、魔導の方ですが……あなたは眷属化によって身体に魔を取り込むことに成功致しましたので、魔導もある程度は扱えるようになっております」
「わかりました。では、魔装について、ご教授お願いします」
こいつらには悪いが、俺の個人的な戦力アップは勇者をサポートする上でも重要になってくるのは間違いない。
今は大人しく侍女長の言うことを聞いて、力を蓄えておくべきだろう。
「はい、かしこまりました」
やや意表を突かれたかのよくに、無表情を崩しながら頷く侍女長の姿を見て、俺はそう思った。