54.従者の館
投稿が滞ってしまい、すいません。
どうも間隔を置いて投稿するのが苦手みたいで……。一度、投稿しないとズルズルと引きずってしまいました。今回の反省を活かして、これからは一日一話投稿でいこうと思います。
後、予定があったりしてどうしても投稿できない場合は、前日にその旨を後書きに書くようにしたいと思います。
「ーーようやくお目覚めですか」
視界全てが真っ暗闇の中、抑揚を感じさせない平坦な声音で誰かに問いかけられた。
「ここは……?」
前世の記憶を完全に思い出したが故に、若干の混乱があるものの、この部屋が王立魔法学園の一室ではないことを何となく察した。
「あなたのその小さい脳みそで何を考えているかは容易に察せられますが、まずは服を着替えていただく必要がありますので、とりあえず更衣室へ向かってもらいます。……まさか服の着方がわからないとは、言いませんよね?もし、着替えられないのであれば私が直々に指導することになるのですが」
「あ、いや、着れないなんてことはないが……」
「では、さっさとベッドから身を起こしてついてきて下さいませ」
「わかった」
丁寧な口調ではあるものの、言葉の端々にトゲを感じてしまうのは、彼女の有無を言わせない強引な態度のせいだろうか?
しかし、現状として彼女以外に情報収集を行える相手がいない以上従わないわけにはいかない。
脳内に浮かんだ疑問を一旦仕舞うと、バキバキと身体の凝りをほぐして身を起こし、暗闇の中に浮かぶ白くぼんやりとした人影の後を追った。
◆
どうやら暗かったのは俺が寝ていた部屋だけだったみたいで、廊下に出ると普通に灯りがついていた。
おかげで自分を先導してくれている彼女の姿がよく見えた。
装いは黒と白を基調としたシックなエプロンドレスと言った感じで、太ももが見えそうなほどに短いスカートであることを除けば、そこまで変な格好ではない。
新雪のように真っ白な髪を背中あたりまで伸ばしており、彼女の華奢な体躯によく似合っている。
スタイルはスレンダーと評せばいいのか……まぁ、つまりはまな板である。
しかし、手足の細さも相まって彼女の可憐さを引き立てているので悪くはないと思う。
と、ここまで無駄に彼女に対して容姿の観察をしていた理由は、ついていく以外に特にやることがないからである。
ここの屋敷(俺が居る場所がどういった建物であるかわからない以上、違う可能性もあるが、便宜上今いる場所を屋敷と称する)は、どうやらやけに広いようで、一つ隣の部屋に行くまでの間もそれなりに長い。
窓から見える外は真っ暗で風景を楽しめる様子でもないし、廊下には床に敷かれた赤色のカーペットと壁に等間隔で付けられている火の灯った燭台以外に目新しいものはない。
というか、こんなものは数十秒で観察を終えてしまう。
だから、こんな空いた時間には無駄話でもして時間を稼ぐより他ないのだが……。
「…………」
彼女の背中からは話しかけんなオーラがビシビシと伝わってくるのだ。
さすがにこの状態で話しかけようとは思わない。
というよりも、一度も俺の方へと振り返ったりしてこない点を鑑みても、もしかして俺は嫌われているんじゃないか?と思わなくもない。
実際、彼女の正面が見えたのは曲がり角を曲がった一瞬であり、それ以外はただ黙々と全身し続けるのみであった。
「ふぅ……」
これは予想以上にしんどいな……。
そう思って軽く溜息を吐いていると、不意に彼女が隣接された二つの扉の前で止まった。
「こちら向かって右側の部屋が男性用の更衣室。そしてその隣が女性用の更衣室となります。では、こちらの部屋へどうぞ」
「あ、あぁ、わかった」
よくわからないモジャモジャしたマークが描かれた扉の部屋へと入ると、案内してくれた彼女が扉をパタンと閉めた。
そして、扉越しに話しかけてきた。
『中央に置いてある籠の中にここの制服がありますので、それに着替えて下さい。今着ている服は、左に設置されているロッカーに貴重品と共に入れて鍵を閉めてください。私は扉の前に居ますので、終わったら声をかけてください』
一方的にそう告げると、彼女は沈黙した。
何が何だかよくわからないが、とりあえずは着替えるために部屋の真ん中に置いてある大きな籠を覗き込む。
上下黒と白を基調とした燕尾服のような物が置いてあった。
「エプロンドレスと言い、燕尾服と言い……何だか従者の服装みたいだな」
まぁ、エプロンドレスや燕尾服が正式な従者が着る服なのかどうかは、ファッションに疎い俺には知る由もない話なのだが……。
何となく漫画とかで出てくる執事がよくこんな格好をしている気がした、というだけの話だ。
俺は黙々と着替えると今まで着ていた病衣のようなものを脱ぎ捨てると、大量に設置されているロッカーの一つに無理やり押し込んで、鍵を閉めた。
そして、扉まで近づいて彼女に着替えが終了したことを告げる。
「……どうやらちゃんと着替えることができたようですね」
扉を開け、俺の制服を着用した姿を睨めつけるように観察すると、意外だと言わんばかりに目を丸くした。
しかし、それも一瞬のこと。
んっ、と小さく咳払いをした後、すぐに目を細めて俺に部屋から出るように促した。
「では、今から館内の案内を始めますので、後をついてきてください」
「いや、それよりも先に俺の質問に答えてくれ。ここはどこなんだ?」
このまま彼女の話を聞いていたら、俺の聞きたいことが有耶無耶にされそうだったので、話に割り込む形で質問をする。
彼女は話を中断されたせいか、形の良い眉をピクリと動かすも、質問に答えてくれた。
しかし、その答えは俺の全く想像だにしていなかったことだった。
「……ここは、魔王様に仕える従者専用の寮です。ほら、あそこに城が見えるでしょう?あれが魔王城ですよ」
「……あれが、魔王城……!?」
赤色の月に照らされる形で、真っ暗の中不気味に輝くそれは、確かに魔王城らしい不気味な形容をしていた。
「質問は以上ですか?……では、黙ってついてきてください」
「……わかった」
本当は色々と聞きたいことがあったが、頭が混乱している中、上手く質問できるとは思えなかったので、思考停止してとりあえずは彼女の指示に従うことにした。