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53.戦争《下》



魔族とは、外気中に存在する無数の魔素を吸収することによって生まれる人類の亜種、という考え方が一般的である。


魔族は通常の人類よりも魔力総量が高く、身体能力もほとんどの者が人間を上回っている。

故に……。


「「「ぐああああっ!!!」」」


「ヘヘッ、脆い脆いぃいい!もっと、ガンガン来いやぁああッ!」


冒険者三人がかりで向かっていっても、魔族一人にやられる場合が多い。


「くそっ、なんて頑強なんだ……っ」


「あれじゃあ、俺たちでは擦り傷一つ負わせることはできないぞ……」


悔しそうに呻く冒険者たち。

しかし、非情にも魔族たちはドンドン王都へと攻めいってくる。


「くそぉおおおおおッ!何としても、ここで抑えるんだぁああああッ!」


「「「オッスッ!!!」」」


ギルドマスターの激励を受け、彼らはまた立ち上がる。





一方、こちらは貴族街。


王都に住んでいる貴族たちに傷を負わせるわけにはいかないと、王命で高ランクの冒険者が駆り出されていた。


その中には、Aランク冒険者のアキトの姿もあった。


「ちっ、何が悲しくて肥え太った豚共の護衛を俺がしなきゃなんねぇんだよ?」


魔族は貴族街、平民街、貧民街など身分の差によって街を区分することがないため、どの区画も平等に攻めてくる。


よって、人間側も戦力を分散させるのが一番効率的なのだが……。


王族及び他の特権階級にいる連中は、自身に危害が及ぶことを嫌って、高ランクの冒険者を貴族街に集中させてしまった。

したがって、平民街にはギルドマスターとCランク以下の下っ端ばかりが集まり、貧民街に至っては放置の流れである。


その作戦を聞いた当初は、そんな命令聞いてられるか!と無視して平民街に行こうとしていたアキトだったが、『従わなければ、ギルド証を剥奪する』と脅しをかけられて渋々ここにいるのである。


(まぁ、平民街にはカイリがいるしなぁ……多少は踏ん張ってくれるとは思うが……)


最近、メキメキと実力をつけてきた幼い獣人を思い出し、焦燥感を無理やり打ち消す。


「ひゃあああッ!ま、魔族だ!魔族が出おったぞ!はやく、誰か退治せんかぁああああッ!!!」


「ちっ……はいはい、すぐ行きますよ、っと」


まさしく脂身ののった豚の体をなしている貴族の男に要請を頼まれ、アキトが重い足取りで現場に向かった。






「けけっ、貴様が勇者か!?我が鉤爪で貴様をーー」


「ーーふんっ」


「オアアアアッ!!?」


鎧袖一触、といった感じで振り向きざまに魔族を倒した勇者は、周りの声援を受けながら、貴族街を巡回していた。


(うーん……なんか妙な違和感があるんだよなぁ。唐突な襲撃、でもその割にはあまり兵士がいないし……これで勝率が高い、と踏まれているなら、よっぽど僕たちを舐めているってことになるけど……)


空から来る魔族の大群は、勇者が見た限りでは千人程度。

王都には常に兵士10万人と、備え付けられたギルドの冒険者たちがいる。

いくら魔族が人よりも能力値が高いと言っても、さすがに限度がある。


多少は被害を受けるだろうが……それでも、あちら側の被害の方が激しいに違いない。


(とすれば、この奇襲は他に目的があって行われている可能性が高い……けど。今更、こんな奇襲をしてまで切羽詰まった状況に置かれているものって、何かあるかな?強いて言えば、昨日の捕虜が原因と言えなくもないけど……いやいや、彼女がここに来て何年経ってるんだ、っての)


以前、魔国に潜入した際に戦利品としていただいた魔国のお姫様。

あの水色の髪を思い出しながら、しばし考えてみるも彼らの目的が見当たらない。


一応、一国の姫君である以上捕虜として捕まっているのならば、ここに奇襲してでも取りに来るのはなんらおかしなことではないが……。

それならば、勇者が姫君を攫った五年前に既にそれが実行されているはずだ。


(それとも、ここに攻め入れるほどの戦力を確保するために時間を敢えてかけたのかな……?いや、でもそれにしてはやはり少なすぎるし……。大体、こんなことにはならないように姫君の待遇は良くしておけ、って国王様にも言っておいたしなぁ……そんな今すぐ出たい、って心境にはならないはずだけど?)


ここで、情報がきちんと勇者に伝わっていなかったのが、命運を分けたと言えるだろうか。


勇者は姫君の待遇を良くするように頼んでいたが、この国の王は彼女を見せしめに使った。

王立魔法学園のいじめを引き受ける役として、態々存在しなかったEクラスを作り上げ、そしてジワジワと精神を追い詰めたところで、第一王子に籠絡してもらい、傀儡の姫として利用しようとしていたのだ。


もし、これが勇者に露見していれば、彼女も姫君奪還作戦という考えにもう少し真剣に頭を巡らせていただろうが……。


「うーん、考えても仕方ないし、とりあえずは殲滅しようっと」


結局、勇者はこれ以上思考することを放棄して、次なる戦場を求めて駆け出していった。






同時刻、Eクラス寮内にて。


「姫様!ご無事で何よりですッ!」


「あ、ありがとう……ラルファ。でも、時間がないから、はやくここから出ないと……」


「そうでしたね、姫様。それで、そこにいる外見だけしか取り柄のなさそうな男が、姫様の眷属ですか?」


「う、うん……あははっ、相変わらず、ラルファは毒舌ですね……」


「いえいえ、では失礼して、っと。姫様、侵入経路は既に確保していますので、ご安心ください。何か忘れ物などはございませんか?」


「ううん、別に……何ももってないし……」


「では、行きましょう」


スカート丈の短いフリフリのメイド服に身を包んだ鬼族の女の子に連れられて、シーフェはその場を後にした。




戦争パートのはずなのに、戦闘描写が全くないというね……。

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