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51.世話

はい、投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。

そして、皆様お察しかと思いますが、どう考えても今日中のもう一話投稿はキツイです。

一応、頑張ってはみますが、多分間に合わないです。

おそらく深夜一時ぐらいになると思います。




シーフェは、重傷のマティスを何とか寮まで運ぶと、彼のベッドへと寝かせてすぐさま治療の用意をした。


王国の魔法学園では、魔法の演習で怪我をする生徒が多いので、国から無償で応急手当のできる薬やら包帯やらが入った救命キットが支給されている。

彼女は、キッチンの棚の上に置いてあったそれを掴みとると、マティスの部屋へと向かった。


「ゔぅ……っ」


「マティスさん、すぐ手当しますから……もうちょっとだけ待ってくださいね」


救命キットから火傷用の薬と包帯を取り出す。

瓶詰めされた薬の蓋を開けると、アルコール消毒液のような匂いが仄かに漂い、焦っていたシーフェの心を冷静にした。


(急いでも仕方がない……とにかく、今は彼の容態を良くするために最善を尽くさないと……)


本当にマティスのことを考えるならば、学園に備え付けられた保健室にいる先生に任せた方が安全なのだが……。

先ほど自分のトラウマでもある勇者の狂気に触れたため、その勇者と同類である人間に助力を求める気にはなれなかったのだ。


「ま、まずは服を……脱がせないと、ですよね……」


ギルバルド達の放った火球により、ほぼ炭と化してしまっているマティスの衣服は、彼の肌にべっとりとひっついてしまっている状態である。

さすがにこのままでは、薬を塗ることもできないし、治癒魔法をかけるのも難しい。


したがって、彼を治療する上で絶対にしなくてはならないことなのだが……。


「………っ」


シーフェは顔面をリンゴのように真っ赤にしていた。


日々を家で過ごし、話し相手はただ一人の従者と祖父だけという狭いコミュニティの中で生きていた彼女にとって、他者の異性の身体を見る、という出来事に出くわしたことはない。

いや、正確にはマティスが誤ってシーフェが風呂に入っているときに乱入した件で一度は見ているはずだが……。

あのときは恥ずかしさのあまり、記憶も定かではないので彼の裸体もほとんど覚えていない。


だが、今回は治療をする以上がっつりと見る必要がある。

更に言えば、全身を火傷している以上、彼の下半身も脱がさないといけないわけで……。


(うぅ〜〜、恥ずかしいぃぃぃぃぃ……っ。でも……治癒、しないと……)


こうやって身悶えている間に、マティスの容態はどんどん悪化してしまう。


ーー迷っている暇は、ない。


シーフェは意を決すると、彼の肌に傷がつかないように丁寧に服を脱がせていった。


まずは上半身。


「ゔあ……っ」


「ご、ごめんなさいっ、すぐ終わらせますからっ」


張り付いて離れない衣服を身体からビリビリと音を立てながら無理やり離すと、焼け爛れた上半身が出てきた。


「うっ……」


思わず悲鳴を上げそうになった口を必死に塞ぐと、容態を確認する。


(これは……少なくとも中級、もしくは上級の治癒魔法で取り掛からないとマズイかもしれません……)


とりあえずの応急手当としては中級でも十分事足りるが、完治を目指すならばどうしても上級の治癒魔法が必要になる、とシーフェは判断した。

しかし、魔力の扱いに長けた魔族の血を半分受け継いでいるとはいえ、彼女はあくまで十代の子供である。

さすがに、まだ上級クラスの治癒魔法は習得していなかった。


(ごめんなさい……っ。わたしがもっと、真面目に魔法の勉強をしていたら……)


そう心の中でマティスに謝ると、中級の治癒魔法を唱えた。


「ゔぅ…………っ」


少しだけ小さくなった呻き声と傷痕を見て、シーフェは更に魔力を込めた。


(たとえ中級の治癒魔法といえども、わたしの中にある大量の魔力を込めれば……っ)


一般的に魔法の威力は、込められた魔力量と精密な詠唱、そしてその魔法のランクで決まると言われている。

よって、下級の魔法は中級の魔法よりも弱く、中級の魔法は上級の魔法よりも弱いの通例である。


しかし、その魔法が通常よりも多くの魔力を込められている場合は、話が別である。


つまり、10の魔力を込めた上級の魔法よりも、100の魔力を込めた中級の魔法の方が威力が高いのである。

そのため、国は魔法師に魔力総量の高さを求める傾向にあるというわけだ。


そして、半分とはいえ魔族の血を受け継いだシーフェは、一般の魔法師よりも遥かに魔力総量が高い。

それこそ、中級の治癒魔法でも上級に近い治癒力を発揮させられるほどに……。


ただ、惜しむらくは長い間家で過ごし、外で生活をほとんどしてこなかったシーフェには、大怪我を負った他者の治療に慣れていない、ということだ。


一応、その高い魔力量に物を言わせて強引に治療を進めているが、明らかにペース配分を誤ってしまっている。

これでは、マティスの治療が終わる前にシーフェの方が先に倒れてしまうだろう。


そして、実際に治療しているシーフェ自身も、そのことに気付いていた。


(今のままじゃ、わたしの方が先に、ダメになっちゃう……けど、どこにどういう風に魔力を通せばいいかわからない……っ)


シーフェは、火傷が酷いであろう箇所にできるだけ魔力を集中させて、応急処置だけでも済ませようと踏ん張るが、既に魔力は限界に差し掛かっていた。


自分に魔力を通して治癒を施すのと他人に魔力を通して行うのでは、感覚の差が歴然である。

普通は、小さい切り傷を治したり、擦り傷を治してみたりしながら少しずつ掴んでいく感覚なのだ。

当然ながら、この二、三時間で身につくものではない。


魔力切れで意識が朦朧としてきたシーフェは、ぼんやりとマティスの顔を見つめがら、それでも治癒魔法を止めなかった。






つらい、くるしい、吐き気がする、めまいがする、あつい、さむい、いたい、眠いーー


治療を始めて4時間が経過した。


既に魔力が枯渇した状態であったが、魔力が回復するたびにマティスの治癒に魔力を使ったため、シーフェは幾重もの体調不良を訴えていた。


しかし、魔力の枯渇によって起こるものは体調不良ではない。

体調不良というのは、生命力を源にしている氣を使い切ったことで起こる現象である。


では、魔力とは何を根源とするのか?


それは、精神である。

つまりは、魔力の枯渇は思考力の低下を伴い、彼女は今意識が混濁した状態にあるというわけだ。


シーフェは今、己の現状を把握することを完全に放棄し、ただただマティスに魔力を送るための機械となっている。


そんな彼女の思考には、体調不良に対する不満でいっぱいであった。


何で自分がこんなに苦しい思いをしないといけないのか?

勇者に攫われ、孤立無援の地で勉強を強いられ、できたと思った友達には他に親しい友達がいた。

別にそこまで贅沢な望みは持ってない。

何気ない日常のひと時を、祖父や従者、そして自分が仲の良い友達と一緒に過ごしたいーー


そう願っていた、だけなのに……。


意識の混濁が彼女に思考をマイナスにしていき、その悲しさに無意識にポロポロと涙を零す。


つらい、くるしいーー誰か助けてよ!


そう叫びたいのに叫べない現状に、そのうち彼女は怒りを覚え始める。


そもそもあの二人がわたしたちの教室に来なければ、今頃はーー

勇者が何でこんなところにーー

もうわたしに関わらないでよ、疲れたからさーー

大体、何であの娘たちは彼を助けないのーー?

友達でしょ?彼を助けるのはあの娘たちであってわたしではないのにーー

何もない、わたしには何もない……。勇者のような圧倒的な強さも、あの娘たちのような順風満帆な日常も、彼のような快活さもーー


同級生もいない!クラスメートもいない!話し相手もいない!先生もいない!助けてくれる人もいない!彼氏もいない!ーーー友達(マティス)もいない!


なのに、何であの娘たちが持っていくの?お前らいらないだろう?たくさん、あるじゃん!友達だって、クラスメートだって、同級生だって……そのうち、彼氏とかだって……。


ーーーだったらイイよね?


わたしがマティスさんを一人ぐらい貰ったって、イイよね?

安心して?

ちゃんとマティスさんは、わたしが世話をする。

火傷でボロボロになったこの身体は、わたしが責任を持って治す。

もし、後遺症が残っても大丈夫!

足が動かせないならわたしが抱えるし、食べ物が食べられないならわたしが食べさせるし、トイレができなくなってもわたしがさせてあげるーー


だから、頂戴?

わたしに頂戴?


だって、わたしがーー


「ーーわたしが一番、彼を必要としているんですよ」


カッと、目を見開くと、自身の唇を噛み千切り、血を流す。

そして、未だに火傷が治らずに苦しんでいるマティスの口に、己の口を合わせた。


「んむぅーー!?」


不意にキスをされたことで驚いているマティスを無視して、彼の口内を貪ると、数瞬して口を離した。

シーフェは、唇から垂れた血をペロリと舐め上げると、慈愛に満ちた笑顔を浮かべて言った。


「大丈夫です。直に、よくなりますよーー」


「うぅ………」


勘とは思えない、確かな根拠を感じさせるシーフェの言い様に、少しだけ疑念を感じながらも、マティスは意識を失った。





「はい、お祖父様。お願いします」


「そうか……。まぁ、確かに儂の可愛い孫娘をいつまでも汚らしい土地に住まわせたくはないしのぉ。こちらとしても、準備はほとんど揃っておるから問題はない。ーーそれで?主の近くにおる男については、どうするのじゃ?」


「もちろん。ーーーわたしが連れ帰って管理(お世話)します」







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