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50.友達の作り方

補足:前話では、勇者が男である認識で書かれていますが、実際は女の子です。あくまで、Aクラスの女子生徒やギルバルド目線で見て、勇者を男だと断定した体で書いたので、少年という表記になりましたが……。

勇者はボクっ娘です。


紛らわしい書き方をして、すいません。



『んー?こんなところに魔国のお姫様がいらっしゃるじゃないですかぁ』


口元を半月のように歪めながら、白い悪魔はそう言った。


『くふふっ、他の雑魚には用がないけど……お姫様はちょっとだけ使えるから、僕が有効活用してあげるよ』


白い稲妻が走ると同時、わたしが乗っていた馬車は木っ端微塵になり、“彼女”の顔がはっきりと見えた。


『君、人質にするね?』


『………』


拒否権はない。


仲間がやられたと言うのに、ガタガタと震えることしか出来なかったわたしに抵抗する力などあるはずもない。

こちらに向けてゆっくりと手を伸ばしてくる勇者(悪魔)に対して、わたしは目を固く閉じることしか出来なかったーーー





魔族と人間の間に生まれた禁忌の娘と称されるシーフェには、彼女に仕えるただ一人の側近と唯一の血縁者である祖父を除いて、親しい交友関係などはなかった。


そして、それは勇者に王国の捕虜として捕まり、そこで擬似的な学園生活を過ごしていても変わることはなかった。


ただ、強いて変化をあげるとするならば、捕虜である己を精神的に屈服させたいと、もしくはこの肉体を穢してみたいと、オスの欲求を漲らせた下賤な輩が近寄ってくるようになってきたことだろうか。


しかし、そんなものを彼女が求めているわけもなく……。


ただ、日々を怠惰に過ごしていった。

あまりにも暇だったから、この国の魔法を勉強しようと思い立つぐらいに、退屈な日々が続いた。


ーーーそんなある日。


『じゃあ、改めて自己紹介しようぜ。俺はマティス。生粋の平民だから、苗字とかはないぜ。気軽にマティスって呼んでくれ』


Eクラスに一人の男子生徒が入ってきた。


(………)


どうせこのクラスにくるくらいなのだ。

マトモな生徒なはずがない。


そう考えていた彼女の予想は、良い意味で裏切られることとなった。


済し崩し的に彼と会話を重ねるうちに、少しずつ彼のことを知った。

知れば知るほど悪い人間には思えなかった。


いや、むしろ彼は虐げられる側(こちら側)の人間なのではーー?


と、彼に期待し始めていた。


彼には悪いが、魔力総量は並程度。

魔力操作力、発現力もそれほど高くはない……。

なるほど、Eクラスに送られるだけのことはある。

端的に言って、彼には魔法の才能がなかった。


だが、そうとも知らずに彼は必死に魔法の勉強をしていた。

この調子では精々出来て中級が限度。

それでも頑張ろうとする彼の姿に、シーフェは心の癒しを感じた。


(この人だ……っ。この人なら、半端者(半魔)のわたしと友達になってくれるはず……)


初めての友達作り。

彼女は彼に嫌われないように精一杯尽くした。


炊事、洗濯、掃除、といった家事全般はもちろんのこと。

魔法に執着している彼のため、覚える必要のない火と土属性の魔法の詠唱に手を出し、陰ながらサポートする。

彼が魔法の発現に失敗すれば、馴れないながらも必死に慰めた。


好感度稼ぎは十分に行えたはず……。

後は友達になるだけーー


そう思っていた矢先、彼の元に二人の女の子が訪ねてきた。

キーラとアルバである。


この二人は、彼と一緒に狭い馬車の中寝食を共にするほど仲が良いのだと主張してきた。(アルバは終始無言だったが……)


寝食ならば、こちらだって共にしている!と声高々に言ったものの、所詮同じ寮に泊まっているだけ。

お風呂に関しても、彼が一度だけ入浴時間を間違えてしまったために起きた、単なる事故である。


それに、自分よりも二人の方に彼は気を許している気がした……。


それが何よりもショックだった。


彼も天涯孤独だと、勝手に同類だと思っていたのに……実際はそうではなかった。

なんだ、自分はここでも友達になれなかったのか……。


昼食後、自分がどのように過ごしていたのかを覚えていない。

いつの間にかに、放課後を告げる鐘の音が鳴っており、彼と同じ空間にいることが耐えられなかったシーフェは足早にその場を去った。


寮までまっすぐ行けば、歩いて10分もかからない。

でも、今寮に戻ればまた彼に会うかもしれない……。


何となく彼と会うのに時間を置きたかったシーフェは、しばらく人気の少ない校舎裏あたりを散歩していた。


そんなときである。


ーーズズンッ!バンッ、ドンッ、ドンッ!


と、魔法を連続で何かに叩きつけているかのような音が鳴り響いた。


……何の音だろう?


普段ならば、君子危うきに近寄らずの精神で、その場をそっと後にするのだが……。

何だか、妙な胸騒ぎがした。

ここで退いてしまえば、二度と彼と会えなくなるようなーー


そんな予感がしたのだ。


シーフェはすぐさま音が鳴った方へと走った。

そして、目にしたものがーーー



ーーー己を捕虜としてここまで連れてきた勇者(悪魔)が、彼を担ぎ上げて何処かへと連れ去ろうとするところであった。






「あー、魔国のお姫様じゃないか。お久しぶり、元気にしてた?」


「……ま、マティスさんを、どうするつもりですか……?」


自分の質問に答えずに、質問で返すシーフェの態度に若干ご機嫌斜めになるも、勇者はすぐさま笑みを作る。


「んー、どうするって、このままだと彼がボロボロで使い物にならないから、ちょっと治してもらおうかなー、なんて」


「……」


言っていることは真っ当なのだが……全身血塗れの少女が、そんなことを言ってもあまり説得力がなかった。

現に、対峙しているシーフェは、馬車を襲われたときのことを思い出して、背筋を震わせる。


ーーだが、あのときのように黙っているわけにもいかなかった。


「そ、そうです、か……。でしたら、わたしも治癒魔法には、心得があります、から……マティスさんの傷は、わたしが手当します」


「へー、ここではマティスって呼ばれてるのかー」


「あ、あのっ!ちゃんと話を聞いてますか!?」


ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら、マティスの頬をつつくふざけた勇者の姿に思わず声を張り上げる。


「んー、わかってるよ。僕も持って帰るのは面倒だと思ってたところだしね。イイよ。君に預けるから、完治させるんだよ」


「えっ?……あっ、はい……」


案外、物分かりの良い勇者に困惑しているとマティスを地べたに放り投げ、更に彼の体の上に乱暴に本を放った。


「これは……?」


「もともと、マティスくんにあげる予定だった手土産。起きたら、彼に言っといてよ。その本は僕からのプレゼントだ、って」


一方的に言いたいことを告げると、勇者は嵐のように去っていった。


その姿を呆然とした表情で見送っていたシーフェだったが、マティスが重症であることを思い出して、慌てて自分たちの寮へと運んでいった。





追記:投稿が間に合いそうにないので、10/31に二話投稿に変更します。

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