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48.集団リンチ

追記:すいません、ちょっとリアルが忙しいので投稿は10/29に延期します。



結局、あの修羅場からこの身を救ってくれたのは昼食休憩の終わりを告げる五度目の鐘の音であった。


この学園は、前世の日本の学校のチャイムとは違って予鈴がないため、なったときには既に着席していないといけないという若干難易度高めな仕様であるため、授業に真面目に打ち込んできたであろう二人は、顔面蒼白といった様子で、足早にこの場を去った。


嵐は過ぎ去ったーー


そう思った俺ではあったが、まだその被災からこのクラスは復旧できておらず……。

隣に座るシーフェは終始無言で自習をしていた。


本当ならば、この後はまた午前と同じ流れで魔法実習をする予定であったが、その唯一のコーチがこの有様なので、俺も大人しく詠唱文の勉強をすることにした。

いつかは元の生活に戻るであろうことを信じて。


……だが。


「すいません……今日は、お先に失礼します」


「……わかった」


放課後になった今でも、未だにショックが大きいらしく、こんな業務連絡っぽい報告を一言だけ残して、彼女はその場を去った。


「……ふぅ〜」


思わず長い溜息が出る。


先程までのどこか張り詰めていた空間は一気に穏やかになり、俺は自然と凝っていた肩をぐるぐる回してほぐした。


しかし……それにしても、シーフェは何故あれ程怒っていたのだろうか?


唯一のクラスメートが多数の女子と関係を持つような好色男というのは、俺だってショックを受けるだろうが……それにしたって、放課後になっても口をきいてくれないなんて……。

俺的には、放課後ぐらいには仲直りをして、シーフェが作った夕食にありつく予定だったのだが……完全に当てが外れてしまった。


「うーむ、今日の夕飯はどうするべきだろうか……?」


もしかしたら、寮に戻ればいつものシーフェが居て、普段通りに夕飯を作ってくれる可能性も無きにしも非ずなのだが……。

先ほどの平坦な声音を聞くに、機嫌が直るにはもうちょっと時間がかかりそうな気がする。


だとすると、今日の夕飯は自力で調達しておく必要がありそうか?


「……一応、念には念を入れておくか」


少し逡巡した後、備えあれば憂いなし、という先人の知恵の元、食料を調達することに決めた。


食料、となれば食堂に行けばあるだろうか?


ま、なければないで気晴らしの散歩にもなるし、どうでもいいか、と楽観的な考えのもと、校舎内を散策し始めた。







「おい、テメェ!やっと見つけたぜっ、この野郎!」


「……ん?」


散策すること10分程。

テキトーに廊下を歩きながら、食堂を目指していると不意に背中を掴まれ怒鳴られた。


「チッ、今までどこにいやがったんだ!手間取らせやがって!」


「ホントっすよ!こっちはEクラスのお前とは違って、忙しいっすからね、まったくッ!」


誰だよ、いきなり、と思いながら振り返ると、そこにはキラキラとうざったいほど輝く金髪男にその下っ端っぽい茶髪の男……あとは、後ろに数人の取り巻きたちがいた。


……うん、どう考えても初対面だよな。


「お前ら、誰だよ。俺、あんたらに因縁をつけられる覚えなんてないんだけど?」


「そっちにはなくても、こっちにはあるんだよ!とにかく、ここじゃあ話しづれぇーからちょっと来いよ!」


周りにいる取り巻きたちがオラオラ騒ぎ始めたので、俺も仕方なく彼らについていった。


「よぉーし、ここらでいいだろう」


着いた先は人気の少なそうな校舎裏みたいなところだった。


そこに五人ぐらいの生徒に囲まれながら、金髪男と対面している俺は、何だか不良のリンチにあっている気分だ。


「じゃあ、単刀直入に言うぜ。テメェに俺は決闘を申し込むから、それをここで受理しろ」


「……は?決闘?」


「おう、ルールは簡単。魔法で撃ち合うだけの単純なものさ。ちゃんとここの伝統として細かな規則もあるが……貴族でもないテメェにそんなの知るわけもねぇからさ。テメェは俺に一発でも当てられたら勝ち、こっちはテメェをギブアップさせられれば勝ちっていうハンデ戦にしてやるよ」


ニヤニヤと笑いながら、早口でまくし立ててくる金髪男。

こんなに譲歩してやってるんだから、当然受けるだろうと言わんばかりの表情である。


だが、どう考えても受ける理由がこちらにはない。


「いや、終始言ってる意味がわからないんだけど?何で俺が決闘しないといけないんだ?その決闘には俺が受けるメリットがあるのか?」


「メリットならあるさ。テメェが持ってる奴隷の権利をこの俺が保証してやる」


「奴隷の権利?……あぁ、キーラのことか?」


「今、Aクラスでも話題になってんだぜ?残虐非道なご主人様のせいで、奴隷生活から抜け出せない美少女の話がよ?」


「別にキーラを奴隷扱いしたつもりはないけど……わかったよ。とりあえず、その奴隷を持つ権利ってやつを放棄すれば良いんだろう?後で、キーラの奴隷の身分から解放するからそれで勘弁してくれ」


何だ、こいつら……キーラが不当な目にあっているんじゃないかと心配して俺に直訴してきたのか。

そんなに悪いやつじゃないみたいだな。


と、判断した俺の想いは、次の一言で踏みにじられることとなった。


「ーーは?何言ってんだよ、テメェ?奴隷の身分から解放するんじゃなくて、その所有権を俺に寄越せって言ってんだよ!脳みそついてんのかよ、カスがッ!」


「なっ!?お前こそ、何言ってるのかわかってるのか!?」


「あぁー、あんな美少女な奴隷とかマジたまらねぇよ。ま、テメェがどうしても俺に献上したい、って言うなら決闘の件はなしにしてやるよ。ほら、さっさとくれや」


「こいつ……っ!」


俺の質問に答えもしないで、あれがしたいこれがしたい、と己の欲望を吐露するだけのクズ。

こんなやつにキーラを渡せるか!


しかし、だからと言って決闘を挑もうにもそのルールが俺には不利すぎる。

こいつらはここで魔法について年単位で勉強してきたのかもしれないが、少なくとも俺は今日発現を試みたばかりの駆け出しレベル。

とてもではないが、魔法の撃ち合いで勝てる気がしない。


となれば、決闘の言い掛かりをかわしつつ、さっさとこの場を離れるのが吉か。


「へー、そうなんですか。じゃあ、とりあえず俺はこれでーー」


「ーーおい、待てよ。さっきから言ってんだろ?俺と決闘して奴隷の所有権を俺に渡すか?それとも、ここで渡すか?ーーってな」


「いや、どっちも無理だ。魔法なんて最近習ったばかりで全然使えないし、キーラだってお前らには渡すつもりはない。とりあえず、奴隷身分の解放だけはしておくからそれで手打ちにーーー」



「ーーーやれ」



俺がベラベラと言い訳を捲し立てつつ、その場を去ろうとしたところで、金髪男から小声で命令が出た。


すると、先ほどまで静かに待機していた連中が一斉に詠唱を開始した。


「……は?お前ら、何してーー」


「ーーー『火球ファイヤー・ボール』!!」


「グアッ!?」


突如として背中に熱気を感じた。

否、これは熱気なんてチャチなものじゃないーー炎だ!?


そう認識すると同時、俺は大声で叫び声を上げながら地面を転がりまわった。


そんな俺に対して、下卑た笑みを浮かべた金髪男が尋ねてきた。


「よぉ、Eクラスの落ちこぼれ。選ばせてやるよ。ここで俺たちの要件を呑むと誓い、決闘を受理するかーー」


「ーー『火球ファイヤー・ボール』!」「ーー『火球ファイヤー・ボール』!」「ーー『火球ファイヤー・ボール』!」「ーー『火球ファイヤー・ボール』!」


「ーー火だるまになるか、なぁ?」


眼前には、火球の大群が迫ってきていた。





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