46.楽しい楽しいランチタイム
すいません……風邪とかリアルの忙しさとかで投稿が遅くなりました。
ただ、体調は完全に回復したのでしばらくは1日一話を目指すつもりで頑張るので、ご容赦ください。
詠唱の勉強を行い、精度が上がっているかを確認するために、実習室に戻って魔法を発現してみる、というサイクルを何度か続けているうちに四度目の鐘が鳴った。
「たくさん魔法を行使して、お腹も空いているでしょうから、そろそろランチにしましょう」
シーフェのその言葉を聞いて、俺は詠唱を中断し、的当てようの案山子みたいな人形の片付けに入った。
本音を言えば、もう少しでコツが掴めそうな気がしたので、もうちょっと練習を続けたかったが……。
まぁ、お腹が空いているのも確かなので、素直に彼女の指示に従っておこう。
「マティスさんは、魔力総量が少し足りていませんが……それ以外は一般的な魔法師よりも優れています。この調子で、練習を続ければきっと良い魔法師になれます」
「あ、ありがとう……そう言ってくれると、こちらとしても励みになるよ」
鈴を転がすような透き通った声で慰められると、思わず背筋がゾクゾクするというか何というか……。
今までは小声だったからそこまで気にしなかったが、最近になって俺に慣れてきたこともあり、シーフェの美声をはっきりと聞くようになってから何だか会話に妙な緊張感を感じるようになった。
まるで初恋の人と話しているかのようなーー
しかし、そんな俺とは裏腹に、シーフェは極々自然な感じで話しかけてくるものだからあまり話しかけるな、とも言えないし……。
この妙な気恥ずかしさにもそのうち慣れるだろう。
そう思って、Eクラスの教室まで戻ってきた。
「弁当はどこだっけ?」
「いつも通り、ロッカーの中に二つ分入れてあります」
昼食を食堂で食べないことにした俺は、毎日毎日を購買のパンとかで済ませていたのだが……。
それでは体に悪いと見かねたシーフェから、弁当を用意してもらうようになった。
ここでの一人暮らしが長い彼女は、料理も手馴れており、それはもう素晴らしいぐらいに美味しい代物である。
『最初はやったことなかったから、下手くそだったんだけど……』
そんなことをシーフェは語っていたが、料理下手の過去があるとは思えないほどに彼女の料理の腕前は良い。
一度、食べたときに絶賛して以来、彼女はノリノリで弁当を用意してくれることとなった。
今日の弁当の中身は何だろう?
この学園に登校する最大の楽しみといっても過言ではない、その宝箱二つを丁寧にロッカーから出し、さっさと席について食べようと思ったところで、シーフェが教室の出入り口で立ったままであることに気付いた。
「ん?どうしたんだ、シーフェ?」
「え、っと……その、知らない人が教室にーー」
そう言われてシーフェの指差す方を向くと、そこには最近ご無沙汰していたキーラとアルバの姿があった。
◆
楽しい楽しいランチタイム。
本来ならばシーフェと二人で美味しい弁当に舌鼓をうちながら、雑談でもしているこの時間ーー
俺はキーラとアルバを対面に、そしてシーフェを隣にする形で、緊張しながら弁当箱を開けた。
「「「………」」」
その間三人は無言、というより先ほどした自己紹介以降微動だにしていなかった。
そう、目の前にある食事にも手を付けずに、だ。
俺は仕方なく震える手で食器を持って弁当を食べようとするがーー
ーートンッ
と思わず食器を落としてしまう。
あっ、と思うよりも先に隣から白い手が伸びてきた。
「大丈夫、ですか?マティスさん、何やら緊張してるみたいですけど……ちゃんと食器は持って食べないと危ないですよ?」
「えっ、あっ、ごめん……ありがとう」
「いえいえ、それよりも地面に落ちた食器は汚いですから……わたしの食器を使ってください」
「えっ、うん、そうするけど……」
シーフェは、ゾクッとするような美声でそう言うと、素早く自分の食器を差し出して、俺が落とした食器を水で洗いに洗面所へと向かった。
シーフェがいなくなると、ふぅー、と溜息のようなものを吐いてキーラが饒舌に話し始めた。
「この二週間、私たちが苦労している間に随分とクラスの“女の子”と仲良くなっているようですね、お兄様」
「えっ、まぁ、それなりには……」
「その弁当の包みを見るに、手作りですか?あの娘の。しかも、何やら距離感も“私たち”よりも随分と近いようですし……」
「え、えっーと、まぁ、そりゃあ……クラスメートだし……」
一体、何が言いたいんだ?
ジト目でこっちを見てくるキーラの顔からして、俺に不満があるのは理解できるが……。
と、そこまで考えたところでキーラから強めの語気で尋ねられた。
「本当ですか……!?」
「……へ?」
「本当に、ただのクラスメートなんですか!?」
ぐっと並べた机から身を乗り出すようにして顔を近づけてくるキーラに思わず怯んだ。
「本当にただのクラスメートなんだったら、少々距離感が近くありませんか?さらには手作りのお弁当に、お兄様からはアイツと同じシャンプーの匂いが仄かに漂ってくるんですが!?それは、本当にただのクラスメートなんですか!?」
ギュッと、俺の襟を掴んで吠えてくるキーラに驚嘆し、思わず視線でアルバに助けを求めた。
「…………ッ!!」
しかし、アルバもアルバで無言ながらも凄い剣幕をしていたので、どうやら助力してくれそうにはない。
ならば、このEクラスの惨状から説明して、寮が一緒であることやら何やら内情をぶちまけてしまえば納得しないだろうか?
少なくとも、俺はシーフェとこの二週間イチャイチャしてきたわけではないのだから、少しはわかってくれるだろう。
そう思って口を開きかけたところでーーー
「ーーーわたしと、マティスさんは、ただのクラスメートなんて、関係じゃありません。だって、食事も、洗濯も、寝床も……そして、お風呂も、一緒にしている仲、ですから」
「「ーーッ!!!?」」
ーーピキッ!
シーフェの一言で二人のコメカミがなってはいけない音を立てた気がした。
そして、無言で俺の襟を話したキーラの能面のような顔を見て、ここが修羅場と化したことを俺は悟った。




