43.編入初日
キーラ視点です。
次の投稿は火曜日になります。
追記:12日に二話……は、キツイので、13日に投稿します……というか、したいです。
「私はキーラと言います。中途半端な形での編入となりましたが、仲良くしていただけると嬉しいです」
マティス達が学園に来た時間が少し遅かったので、既にAクラスの授業は始まっていた。
通常ならば、授業の妨げになるとのことで編入は後日に引き延ばしになるのだが、勇者からの推薦ということと、マティス除いた二人が魔力量の優れた逸材であるが故に、こうして授業の最中に割って入ることが許されたのである。
とは言っても、急な編入であることに変わりはないので、Aクラスの面々は一様に驚いていたが……。
滅多に訪れない編入生という非日常的な感覚と、二人が容姿的に優れていることもあり、すぐに歓迎の姿勢を示した。
キーラの自己紹介に場が盛り上がる中、担任の教師が続くを促すようにアルバを見た。
「……アルバ。よろしく……」
ーーえ?それだけ?
誰もが簡潔すぎる自己紹介に唖然とするも、すぐにヨイショを始める。
「うわーっ、エルフじゃんっ、初めて見たー!」
「アルバさんの髪の毛綺麗ですね!」
「ちょっと緊張してるところも可愛いっす!」
王国の学園は人間至上主義というわけではないので、他種族の生徒も存在する。
ただし、その中でも自分の里から滅多に出てくることのないエルフはレア度が極めて高かった。
だからこそ、生徒達はガチなコミュ障であるアルバに対しても興味津々の態度を取った。
「あー、それじゃあ、新たなご学友の自己紹介が終わったところで、授業に戻るぞ。アルバ、キーラはまだ教科書を貰ってないだろうから隣の席のやつに見せてもらってくれ。席はちょうど二つ空いてるから、そこに座るように」
「「はい」」
「……良い返事だ」
近年、実力主義を謳っていた学園に賄賂が横行するようになった。
今のAクラスは、実力というよりもどれだけ学園に寄付できているかで決まっているところが多い。
そのため、Aクラスには金持ちの貴族が多数を占め、ほとんどが教師の言うことをあまり聞かない問題児ばかりになってしまっている。
そんなクラスで、まともに返事を返してくれた存在を久方ぶりに見た教師は、思わず感動して一言呟いてしまう。
キーラとアルバはお互い窓際と廊下側の空いた席に座った。
「私、フェリーア・オーンって言うの!よろしくね、アルバちゃん!」
「……ん」
「俺はギルバルド・タイレン!このクラスで一番、成績が良い魔法師なんだ!困ったことがあれば、俺に聞けば万事解決だぜ!」
「あ、はい……ありがとうございます」
喋りにくそうなアルバには同性が、コミュニケーションのとりやすそうなキーラには異性がひっついてきた。
おそらく、アルバに関しては女子と話している姿を見て品定めする予定なのだろう。
その代わりに比較的御しやすそうなキーラには早い者勝ちと言わんばかりにオラオラ系が話しかけてくる。
ーーこんなことなら自分も口下手を装えば良かった。
今のところ、同性にしか話しかけられていないアルバを見て内心で溜息を吐くキーラだった。
◇
(精神的に)長かった授業が終わり、昼休みとなった。
アルバには女子しか話しかけてこなかったので淡々と授業を受け続けられたが、キーラに対しては男子勢のアピールがウザくてそれどころではなかった。
正直、何度自分の異能の力でこいつらを縛りつけてやろうか、と思ったことか……。
だが、それもこの時間だけは関係がない。
昼休みは誰と食事を摂っても問題がないのだ。
さっさとマティスがいるEクラスに向かって一緒にご飯を食べよう。
そう思って、今日一番の笑顔を浮かべていた彼女だが、クラスメートの一言で足を止めてしまう。
「ねー、なんでそんな汚い首輪つけてるのー?」
女子の何気ない一言。
だが、その一言で周囲のクラスメートが一層騒がしくなった。
「あー、それ確かにな」
「私も最初から気になっていたんだけど……」
「アレだろ?最近、流行りのチョーカーとか言うやつ」
「あー、あの首に巻くやつか?でも、それにしては無骨すぎる気が……」
「というか、あれってもしかして奴隷の首輪じゃない?」
奴隷の首輪。
そのワードにすぐさま反応したのは、授業再開早々にキーラにアタックしていたギルバルドである。
無駄にキラキラ光る金髪が鬱陶しい。
そう思うキーラだったが、次の一言でギルバルドの存在が更に煩わしく感じるようになった。
「何と!キーラはまだ14歳という若さで奴隷の身分に落ちてしまっていたのか!それはとてもかわいそうだな。仕方がないから、俺が助けてやるよ!」
「…………」
キラッ、と白い歯を見せつけながら芝居掛かった口調で言ってくるギルバルドに対して、キーラは鳥肌が立つ思いだった。
無言のキーラの姿をどう勘違いしたのか、ギルバルドは更に調子付いた様子で話を続ける。
「普通なら持ち主の許可なく奴隷の解放を行うことは禁じられている。ーーが!俺は伯爵家の長男だ!ある程度の違反ならば揉み消せる自信がある!それに君は話してみて善良だと言うのがわかっている。君を奴隷から解放するのに文句を言うやつはいないだろうよ!そして、いたとしてもこの俺が倒してみせる!」
そう言って、調子に乗っている彼の言葉にクラスメートたちは賛同した。
「うんうん、ギルバルドの言うことはちょっとキモいけど、一理あると思う!」
「どうせ、人攫いにでもあったんだろ?俺からも働きかけてみようかな」
「同じクラスメート同士、仲良くしようぜ」
そう言って、ワイワイと勝手に盛り上がる彼らを見てキーラは焦りを覚えた。
無論、それは首輪消失の危機を感じ取ってだ。
キーラからすれば奴隷の首輪は、マティスとの絆の証である。
これがある限り、何だかんだ言ってお人好しな彼は、キーラを一人で放っておくような真似はしないはずだ。
治安のよろしくないこの世界では、首輪付きの少女など即刻盗賊の餌食となるだろう。
そうでなくとも、他の凶悪犯罪者や下衆な貴族に付け狙われること必須である。
その危険性を考慮してしまうマティスは、例えキーラから離れたくとも離れられない現状にあるのだ。
そして、王国にくる道中などの日常生活の積み重ねを通して、少しずつ自分が彼の所有物であることを意識させれば、あわよくばーー
そこまでのことを考えていたのは、自身の窮地を救ってくれた彼に対する恩義もあるし、恋慕も持ち合わせているからだろう。
彼からチラチラと向けられる雄の視線に、はやく自分を押し倒してほしい、と焦ったく思いつつも、慎重に今日まで距離を詰めてきた。
正直に言うと、今の彼ならば自分から攻めればオチるのではないか?と何度も思った。
だが、女の自分からがっつくなどあまりにもはしたない気がする……。
貴族の奴隷用に、と上品に育てられた彼女は、あまり品のない行動を好まなかった。
そのため、是が非でも彼から来てもらわなければならない。
そんな折にこの学園生活である。
彼と多くの時間を共にしつつ、自分の魅力を最大限アピールできるチャンスである。
しかも、神が手助けしてくれたのではないか、と思うぐらいに手際の良いカイリの排除。
一応、アルバも学園にはいるが、彼女の消極的な態度では何ら問題は起きないであろう。
今だって、クラスメートの注目を一身に集めている自分を眺めながら、席についているだけだ。
自分ならば、この隙に彼の元へと向かっていることだろう。
ただ、こんな順調な日々にも欠点がある。
それは彼と同じクラスではないことだ。
授業中こそが、自身の博識さを懸命にアピールできる最大のチャンスである。
だと言うのに、彼がいないのであればやる気は半減だ。
ーーあのクソジジイ、ぶっ殺すッ
厭らしい目つきで全身を見てきた理事長に対して、ヘイトを高めるも、今はそれよりもこの教室をどうやって抜け出すかが問題である。
目下の問題はこの首輪だ。
やはりこれだと学園では悪目立ちするし、刻印式の奴隷紋に変えてもらうべきだろうか?
そう考えて、彼らの意見に対して、曖昧に頷いておく。
「そうですね。学園に首輪は必要ないですし、私の主人に解除してもらうよう言っておきますね」
彼ならば、首輪の解除に喜んで協力してくれるだろう。
そして、そのまま奴隷紋をつけてもらおう。
まぁ、問題はその奴隷紋をどうやってつけてもらうかだが……。
そこら辺の理由は追々、考えていくとしよう。
とりあえずは、首輪解除の方向に賛成したのだ。
これでクラスメートたちも落ち着いてくれるはず。
そう思っていたキーラの予想は、容易に裏切られた。
「何!キーラを奴隷にした奴がこの学園にいるってのか!?」
「だったら、そいつを退治しないとダメだよな!」
「そうよ!キーラちゃんがこんなに苦しんでるんだから、報いは受けてもらわないと!」
どうやら、彼らは首輪解除の件よりもキーラのご主人様がこの学園にいることの方が重要だったらしい。
すぐに討伐するぞ、と言わんばかりに男子勢が戦闘の準備を開始する。
それに合わせて女子たちもキーラのご主人様に関する情報収集をし始めた。
目まぐるしく状況が変化するクラスを見て、キーラは驚きを禁じえなかった。
何でですか!?私が首輪を外すと言っているのだから、それで良いではないですか!どうして、余計なことをしようとするのですか!?
女子たちはせっかくできた新しいお友達を助けてあげようという純粋な善意と、勇者の推薦であると言われる彼女に媚を売っておくべき、という打算的な姿勢。
男子勢は、こんな可愛い子を奴隷にするなんて羨まけしからん、という嫉妬と、奴隷の身分から助けてあげればもしかしたら、自分に好意が向くかもしれない、という下半身的な事情からである。
そんな彼らの心情など知る由もないキーラは、アルバの力を借りながら何とか必死にこの場を収めることに成功した。
ただし、その代わりに彼らの昼休みは完全になくなってしまったが……。




