41.ランチタイム
次の投稿は木曜日になります。
4回目の鐘の音が鳴った。
俺は王国語のレクチャーを一時中断して、昼食を食べに行くことにした。
シーフェは自頭が良いらしく、王国語の勉強もスラスラと進んで教える側としては小気味良い感じだったので、中断するのは少し勿体無い気もしたが……。
自分の腹の虫がおさまらない以上、仕方がないと割り切ることにした。
学園には食堂があるらしいので、シーフェも誘って一緒に食べようとしたが、弁当を持ってきているので食堂は使いません、と丁重にお断りされた。
なので、キーラとアルバを誘って食堂に行こうとAクラスに来たのだが……。
「キーラちゃんって、すごいね!まだここに来て1日目なのに、もう初級魔法を使いこなしてるよ!」
「いやいや、アルバさんだってさすがはエルフなだけはあるよ!俺たちの知らないような魔法の使い方を知ってるんだから。今度、教えてくれよ!」
転校してきた美少女二人。
それも魔力に関してはこの学園の先生お墨付きときている。
そんな彼女らを、Aクラスの生徒たちが放っておくはずもなく、生徒による人だかりができていた。
四方八方から飛び交う二人を賛辞する言葉が止むことはなく、まさしく学園のスターを見ている気分になった。
前世からあまり陽キャだったわけでもない俺には当然、その人だかりに割って入る勇気があるわけもなく……。
俺はそれを遠巻きに眺めては、何も言わずに立ち去った。
その胸中には、何とも言えない寂しさがあった。
◆
結局、食堂を利用することはなかった。
Aクラスの教室以上に人が集まっている光景を目の当たりにした俺は、前世の大学でぼっち飯を食っていた頃のことを思い出してしまってとても食う気にはなれなかったのだ。
そのため、食堂の近くにある購買で安めのパンを購入し自分の教室へと戻ってきた。
教室に戻るともそもそと一人で弁当を食べているシーフェが目に入った。
小さな口をめいいっぱいに開けて食べる様はリスのような小動物を彷彿とさせ、先ほどまで荒んでいた心をほっこりさせた。
俺は椅子を引いてシーフェの隣に座る。
「……隣で一緒に食べても良いか?」
「……んっく。は、はい……いいですよ」
「ありがとう」
コクリ、と小さな喉を鳴らして食べ物を飲み込むと、一拍置いて許可してくれたので、静かに礼を言った。
俺がパンの包みをクシャクシャに破いて、パンに噛り付く。
うまい……。
何の肉かはわからないが……柔らかく、ジューシーな味わいの肉をサンドさせたそのパンは、前世で食べた懐かしい味がした。
俺が一心不乱にそのパンに噛り付いていると、シーフェが小首を傾げたままこう聞いてきた。
「あ、あの……食堂に、行ったのでは……?」
「ん?あぁ、食堂……ね。行こうと思ったけど、ここに来て日が浅いから全然知り合いがいなくてさ……。一緒に食べる相手がいなかったから、食堂で食べるのは諦めてパンにしたんだ」
「…………」
一人で食堂で食べても、うまくないだろうしな……。
それなら、教室でシーフェと一緒に食べてた方がうまいに決まってる。
そう思って、俺が答えると、シーフェは顔を俯かせて沈黙した。
何だろう?何かマズイことでも口走っただろうか?
自分の発言を考え直すも、特に失礼なことは言ってないような気がする。
もしかしたら、沈黙がシーフェなりの相槌なのかもしれない。
そう考えて、しばらく無言で食事を続けていると、桜色に頬を染めたシーフェが、上目遣いにこう言った。
「……ぁ、あのっ、も、もしよろしければっ……こ、これからも、ここで一緒にご飯を食べませんか?」
「……え?」
何その一世一代の告白みたいな前振り。
しかも口を突いて出た言葉が、ただのご一緒にランチしませんか?というそこまで重要性のない内容……。
仕草と内容のあまりのギャップ差に思わず唖然としていると、シーフェの空色の瞳がウルウルし始めた。
うわっ、何だよ!
返事が遅いぐらいで泣くなよッ!
男の最大の弱点である、乙女の涙に焦せらされて早口に肯定する。
「うん、わかった。わかったから泣くなって!これから、一緒に飯を食おうって話だろ?いやー、俺も一緒に食べる相手がいなくて丁度困っててさー。むしろ、こっちからお願いしたいくらいだよ、ありがとう!」
最後に俺が出来る最大限のスマイルを浮かべると、シーフェも涙を引っ込めて満面の笑みを浮かべた。
ふぅー、何とかなったかぁ……。
手を掴んでブンブンと縦に振りながら、お願いします、お願いします、と何度も壊れたレコードのように同じ言葉を口走るシーフェの姿を見て、少しだけ怖気が走った。




