40.語学について
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俺は魔法に関しては完全にズブの素人だったので、クラスメートであるシーフェに魔法を勉強するためのテキストを選んでもらい、自分たちの教室へと帰ってきた。
図書館には一応、司書の先生が居たのだが……。
俺がEクラスの生徒だと言うと、途端に口をきかなくなってしまった。
さすが実力主義の学園と謳うだけのことはあるな。
クラスの差別化を徹底している気がする。
まぁ、何はともあれシーフェのおかげで無事に入門書を手に入れることができたのだ。
ここは大人しく自習するとしよう。
静かに自習を始める隣のクラスメートを見習い、俺もペラペラと入門書を読み始めた。
ーーが。
「……な、何だこれ……。何言ってるか、全然わからないんだが……」
書いている言語の内容は理解できる。
王国語で書かれているその文字は、比較的メジャーなものであるので、幼少期に字を覚えようと村長から最初に借りた本にも書かれている文字である。
当然のことながら、前世で既に義務教育を終えていた俺の頭脳の前ではこんなチンケな言語など敵ではなかった。
だから、書いてある内容は理解できるのだが……。
「なんか専門用語みたいなものばっかで、全然頭に入ってこないんだよなぁ……」
前世で言うところの倫理の勉強とか簿記の勉強をさせられているときに近い感覚だ。
なまじ書いてあることが分かるだけに、自分が何一つ理解できていないことが分かってしまうパターンである。
未だに、諸口とか理解できていない。
あれ、一体いつ使うんだ?
アホ丸出しな感想しか出てきません。
そして、魔法に対しても似たような感触を覚えたのである。
……ヤバイ。これは非常にヤバイですよ……。
このままだと六年間義務教育で習ってきたはずなのに、全く実践で使うことのできなかった英語みたいな結末を辿ることになる。
これならば、まだアキトに教えてもらった方がマシだろう。
……仕方がない。
少し気が咎めるが、隣で熱心に自習をしているシーフェに聞いてみるか。
「シーフェ、ちょっと良いか?」
「えっ、あっ……はい、なん、ですか?」
「ここら辺のテキストに書いてある内容が難しくて、理解できないんだ。シーフェは分かるか?」
「えっ、ぁ……っ、そ、その……」
俺がテキストの一部分を差し出して見せると、大きなお目目をグルグルさせながら、必死に何か答えようとする。
うーん、まだ苦手意識を持たれているのか……。
俺はシーフェに威圧感を与えないように距離を置き、できるだけ笑みを作って根気強く相手の発言を待った。
すると、彼女はとんでもないことを口にした。
「じ、実は……わたし、帝国語しか勉強してなくて、ですね……。まだ、王国語がちゃんと読めないんです……」
「……」
マジか……。
◆
かつて魔法大国として栄えていたのは、王国ではなく帝国であった。
そのため、文献に載っている魔法言語の多くは帝国語をベースに書かれている。
帝国語と王国語は、発音においてはほとんど違いはない。
ただし、文法においては古文と漢文ぐらいの差がある。
帝国語は堅苦しい文法が多いため、難しく習得するのにも苦労する。
なので、帝国語の勉強に力を入れるのは当然なのだが……。
「だからと言って、学園は王国にあるんだから王国語を勉強してないなんて有り得ないだろう」
「ひうっ……ご、ごめんなさい……」
「あー、別に非難しているわけじゃないんだけどさ……」
先ほどの王国語が読めないという強烈なカミングアウトを聞いてしまった俺は、最早魔法の勉強云々ではなくその前にシーフェの語学力を上げることに集中するべきだと考えた。
そのため、魔法の入門書やら何やらは全て放棄し、今は王国語のレクチャーをしている。
「王国語は帝国語と違って煩わしい文法も慣用句もほとんどない。だからこの五十音さえ覚えてくれれば、十分に読めるようになる」
「は、はいっ」
帝国語は日本語のようにゴチャゴチャと漢字、ひらがな、カタカナ、みたいな分類分けがなされているが、王国語はひらがなオンリーの言語である。
五十音さえ身につけられれば、ほとんどの本は読めるはずである。
「それにしても、王国語が読めないなんて……シーフェは帝国の出身なのか?」
だとしたら、俺と同郷であるということだが……。
俺の質問に対して、彼女は首を横に振った。
「違い、ます……わたしは、帝国の出身じゃないです」
「えっ?じゃあ、王国の出なのか?」
母国語が読めないなんてことあるのか?
俺がそう疑問に思うと、案の定彼女は否定してきた。
「いいえ、王国の出身でも、ないです。獣人国とか、商業連合の出身でもないです……」
それっきり、黙りこくってしまったので、シーフェとしては出身国は探ってほしくないのだろう。
俺は大人しく、彼女に王国語を教え続けた。
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