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39.Eクラス

もう一話、投稿できるかはちょっと怪しいです。



魔法とは、紙に絵を描くようなものだ。


王都への道中、手持ち無沙汰になった俺がアキトに魔法について尋ねると、そんなことを口にした。


『魔法というのは己の中にある魔力と、空気中に存在している魔素というものが反応して生み出される現象だ。分かりやすくするために、魔力を絵の具、魔素を紙に置き換えて考えてみてくれ。紙がなければ絵は描けない、またその逆も然り。魔力(絵の具)がなければ魔法《絵》はかけない。それらを踏まえると、魔法を行使する上で何が一番大事かわかるか?』


『いや、わからないが……』


『ーーイメージだ』


言うと同時、ボオッと手のひらから炎を出しながらアキトは言った。


『魔法には明確なイメージが必要になる。イメージがしっかりしていないと、絵は描けない(魔法は行使できない)。だからこそ、魔法使いの鍛錬は基礎を終えてればほとんどがイメージ修業になる』


『イメージ、か……』


『あぁ、もちろん全てがイメージで表せるわけじゃあねぇぞ?自身が持っている魔力(絵の具)でしか魔法は生み出せねぇからな?決して万能なわけじゃねぇ。俺だって自分の適性である火と風しか使えないからな。それに、詠唱っていう型もあるからなぁ。まぁ、ここら辺は学園で習えば問題ないねぇだろう』


だから、学園で存分に学んでこい。


そう言って送り出してくれたアキトの笑顔が既に遠い過去のものであるのを俺は悟った。

というかーー


「ーー何でこのクラスは先生が誰一人としていないんだよぉぉおおおおッ!!!」


ダンッ、と大声と共に机に八つ当たりしてみれば、ただ一人のクラスメイトである隣の女の子がビクッと反応しただけだった。






もうそろそろ夏に差し掛かるというこの季節。

窓が締め切っているため、風が全く通らず室温がめちゃくちゃ高い。

なのにも関わらず、王国が開発したと言われる魔法空調機がこの部屋には設置されていない。


机はゴミ寸前と言わんばかりのオンボロ。

台上にクレーターが出来すぎて、ガタガタして書きづらいし、椅子は脚が安定していないのか、平面でもまともに立たない。


教卓には落書きの嵐。

黒板に至ってはそもそも設置されていない、というこの有様。


この教室に来て唯一良かったと思えることは同じクラスメイトである女の子が可愛らしいことぐらいだろうか。

ただ、この娘はちょっと人見知りみたいで先ほど勝手に自己紹介したときもブルッと震えるだけでした。


だが、まぁそれは良しとしよう。

それよりも問題なのは、教師の不在だ。

俺がこの教室に来て既に2回ほど鐘がなっていたが、その間先生は一度たりともこの教室に来ていない。

おいおい、これはどういうことなんだよ!

いくらEクラスとはいえこの仕打ちはあんまりなんじゃないか?

隣の娘は、それが当然みたきな感じで自習を始めてるし……。


チラ、と横目で見るとまたもやビクッとされる。


……何?

俺のことそんなに怖いですか?

俺、あなたに怖がられるようなことしましたか?


前世でクラスの女子たちに異様に避けられていたことを思い出して、俺のトラウマスイッチが入りそうになったが、ここはぐっと堪えてこのクラスについて情報収集に努める。


「……えー、あー……その、何で先生こないんだろうなぁ、なんて……」


「……」


あくまで詰問するような感じではなく、間延びしたような感じで、うさぎにでも接するかのように優しく質問をする。

すると、俺の弱々しい態度が功を奏したか、彼女はゆっくりと口を開けようとする。


「……ぁ、う、え、っと……そ、その……」


一年間、まともに友達と話したことがないと言われても不思議ではないほど言葉に詰まるクラスメート。

おいおい、社会人の面接試験とかだったら即落ちコースだぞ。

お前、何歳だよッ!


水色の髪を背中あたりまで伸ばしたロングヘア。

同色のクリクリとしたパッチリ二重の目は、彼女に可愛らしさを与えているが、長い髪のせいか、そこまで年下には見えない。

座っている状態なのでそこまではっきりとはしないが、スタイルもそれなりによく胸もまあまああるとは思う。

少なくとも、断崖絶壁のアルバや未成熟なカイリちゃんよりはあるように思える。


そんなクラスメートだからこそ、幼稚園児でも相手にしているかのような会話のテンポの悪さに少しイライラしてしまうが……。

ここで怒鳴ってしまっても何もいいことがない、と判断して俺は無言で笑顔を見せる。


すると、その笑顔のおかげか今度は意思疎通のできる言葉を口にした。


「せ、先生は……こないです。ここは、落ちこぼれのクラスなので……」


「落ちこぼれって、Eクラスのことか?」


「は、はい。その、こ、ここは……実力主義を、モットーにしている学園で……。弱い人には講師も、ついてくれないんです」


「な、な、何だとぉぉおおおッ!!!

講師もついてくれないって、一体どういうことだよッ!」


「ひぃいいいいいッ!す、すみませんすみませんッ、でもわたしのせいじゃないんですぅううううっ」


あまりの理不尽に思わず叫び散らすと、クラスメートがすみませんを連呼する壊れたレコード状態になった。


俺は慌てて慰めにかかる。


「あー、ごめんごめん。別に君を責めているわけじゃないんだ。いきなり、大声で叫んで悪かった」


「そ、それ……ほんと、ですか……?」


「うん、これはマジのマジ。それよりも、じゃあ俺たちはどうやって勉強するんだ?」


「え、と……鐘が4回鳴るまで、自習で……。5回目の鐘が鳴るまでにご飯を食べて、そのあと7回目の鐘が鳴るまで、自習……です」


それはつまり、全部自習ってことだろうがッ!!!


とは思ったものの、さすがに気弱なクラスメートの前での大声は禁物だと理解した。


俺は落ち着くために大きく深呼吸をして尋ねる。


「スー、ハー……それで?その手に持っている本とかはどこで手に入れたんだ?」


「こ、ここに……大きな図書館があって、そこの本はいくらでも借りて良いことに、なってるんです」


「そうか……」


まぁ、この際平民の分際でありながら貴族しか読めないような本を無料で読めるってだけでも儲けものだと思っておくか。

俺はなるべくポジティブシンキングを心掛けることで、気を取り直した。


「じゃあ、改めて自己紹介しようぜ。俺はマティス。生粋の平民だから、苗字とかはないぜ。気軽にマティスって呼んでくれ」


「え、ぁ……え、っと……。シーフェ、です。こっちも、苗字はないから……えっと、その……よ、よろしくお願い、します」


「こちらこそ、よろしく。早速で悪いんだけど、図書館の場所教えてくれないか?」


「そ、それなら、ここの廊下をーー」



何だか前途多難な気もするが……。

一応、前から魔法学園に所属している先輩もいることだし、何とかなるだろう。


そんなことを考えながら、俺は学園の図書館へと向かった。





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