38.王立魔法学園にて
学園編スタートです。
9月28日の分と29日の分は、何とかして29日に投稿します。
「おぉ、これは何と素晴らしい魔力であるか!?長年、ここの教師を務めてきたがこれほどの者にはほとんど出会ったことがないぞ!さすがは魔法に長けた種族なだけはあるな」
「ウェスターン教授!こちらの黒髪の娘もそれなりに良い素質がありますぞ!この娘なら宮廷魔法師も夢ではありませんぞ!!!」
ワイワイガヤガヤと童心にでも戻ったかのように興奮しているおっさん二人を眺めて、俺は魔法学園の行く末を心配に思った。
◆
時は遡ること一時間前。
10日間にも及ぶ馬車の旅を終えた俺たちは、全身の凝り固まった骨やら肉やらを解しつつ、馬車を返すために王都のギルドへと向かった。
「さすが王都なだけあって人が多いな」
「おう、ここは交易都市と呼ばれるぐらいに他種族との交流も盛んだからな。地方では見たことがないような珍しいものが一杯売ってあるぜ」
ギルドへと向かう道中、たくさんの人で賑わっている店を素見しつつ、アキトとそんな話をしていた。
俺は、アキトとはこの旅の間にタメ口で話すぐらいの仲になったが……。
他の女子三人は未だに苦手らしく、無言で店を眺めるだけだった。
ギルドに到着すると、馬車の手続きを済ませ、魔法学園に行かないカイリちゃんとアキトがその場に残った。
「じゃ、これ持ってあの白い建物に行けば入れるからよ。魔法の勉強、頑張ってこいよ。こいつの面倒は俺がみとくからよー」
「あぁ、何から何まですまないな……。カイリもちゃんとアキトと仲良くするんだぞ」
「保護者面するんじゃねえぞッ、ですッ!うぜぇだろがッ!ですッ」
「……はぁ」
これからアキトと二人で冒険者稼業をするとは思えない不仲っぷりである。
これには思わず溜息を吐いてしまった。
唯一の救いと言えば、そんな生意気な態度を取るカイリちゃんに対してアキトが機嫌を損ねていないことだろうか。
「あー、こいつなら心配いらねーよ。Aランク冒険者の俺様がビシバシ鍛えてやっからよッ!」
「……うん、頼みます」
じゃーなぁー、と元気よく手を振るアキトと終始不機嫌そうな表情をしていたカイリちゃんの姿を後目に、俺たち三人はギルドを去った。
◆
「ここが王立魔法学園、ですか……」
「すごい、綺麗」
アキトと別れる前はほとんど無言だった二人が、ここに来ていきなり饒舌になった。
そのゲンキンな態度に苦笑しつつ、俺はアキトから渡された学園の見取り図を読み上げる。
「えーと、出入り口の右手側に受付があって、ここにこの推薦状を持っていけば良いのか……」
全体が真っ白なその建物は、どことなく荘厳な雰囲気を醸し出しており、一般人には入りにくいものがあった。
かくいう俺も、当然一般人枠に入るので、推薦状という免罪符があるにも関わらず、入るのに抵抗を覚えたが……。
二人はそんな空気感などなんのその、といった感じでどんどん奥へと進んでいったので俺も渋々中へと入る。
「ようこそ、王立魔法学園へ。本日はどういったご用件でしょうか?」
中に入ると、清潔そうな白い服を着た受付が、ガラス越しに座って話しかけてきた。
建物の雰囲気に圧されて、少し緊張気味な俺はいつもよりも心なしか丁寧に事情を説明した。
「なるほど、勇者様からの推薦を受けた方々でしたか。少々、お待ちください」
俺のしどろもどろな説明にも丁寧に耳を傾けてくれた受付は、奥へと引っ込むと、しばらくして初老のおっさんを二人を連れ立って戻ってきた。
「こちら学園理事長のギオル・ウィントン様と魔法学実習の担当をしているジオ・ウェスターン教授です」
「ふむ、君たちが勇者様に推薦されたと噂に聞く子供たちか」
「紺と黒に白色と、世にも珍しい色合いをしていますな。勇者様から聞いた通りだ」
「うむ、ウェスターン教授が言うならば間違いないな。君たち、すぐに実習室まで来てくれ」
こんな感じでトントン拍子に話は進み、実習室で一人ずつ魔力量を測ることにしよう、という話になったのだがーー
「む、そこの紺色の男はてんで話にならんな。魔力がほとんど凡人に近い」
「然り然り。だが、この娘たちの魔力量には光るものがありますな。この二人はAクラスで宜しいのでは?」
「うむ。Aクラスは毎年毎年ほとんどクラス内の生徒が変わらんからのう。少しは新しい風を入れているのも良かろう」
「では、そのように。しかし、理事長。この男はどうなさいますかね?」
「んー、勇者様の推薦である以上無下にするわけにもいかんじゃろう。Eにでも入れておけ」
「御意」
こうして俺は、王立魔法学園の最底辺クラスで授業を受けることになりましたとさ。