2.ロリコン
「おい、そこのニンゲン。特別に名のることをゆるしてやる、です。だからさっさと名のれ、です!」
「えっ、あっ……えっと、マティス、と申します」
語気強めに名を聞いてくる年下であろう獣っ娘相手に俺は平身低頭とした態度を取る。
いや、情けないことこの上ないのはわかってるよ?
けどな、俺よりも明らかにガタイが良い大人二人を瞬殺するような相手にそんな強く出れるかっての!
今だって、恐怖で身体がガタガタいってる真っ最中だ。
しかし、俺のそんな情けない態度が功を奏したのか、さっきとは打って変わってご機嫌な表情を見せる。
「ふん、身のほどを弁えてるやつは、キライじゃない、です。おまえはニンゲンだけど、先ほどの功績もふくめてわたしの名前をきかせてやる、です」
「は、はいっ」
「カイリ、です。そのテイノーな脳でよく覚えておく、です」
「は、はいっ、わかりました!」
俺が返事をすると満足気に鼻を鳴らすと、そっぽを向いて髪を弄り始めた。
えっ、何この状況、とは思いはしたものの、当初の目的であるカイリを助けるというミッションは見事果たしたのだ。
後はこの場をゆっくりと去るだけで良いはず。
そう思って俺がソロリソロリと後ろ歩きをするとーーー
「ーーーグエッ」
「どこにいくつもりだ、です」
服の襟元を掴まれて強引に元の場所へとカムバックされた。
「おまえは、これからわたしの従者となることをゆるされた、のです。はやくハラを見せろ、です」
「ゲホッ、ゴホッ、ゲホッーーへ?腹を見せる?」
「そう、です。みっともなくカラダを地面によこたえて、ハラをこちらにみせろ、です」
な、なんだそりゃあ!?
今から一体何を始めようってんだ!
と、声高らかにそう叫びたかったが、カイリの首チョンパの姿を思い出して渋々横たわる。
洞窟特有の湿った感じの土が背中や頭に付着して不快感を覚えるが、今はそれどころではない。
「はやく服をめくってハラを見せろ、です!」
「は、はいっ」
俺は言われた通りに腹を見せた。
すると洞窟の暗闇の中でもはっきりと見える青白いカイリの足が、俺の腹を踏んづけた。
「グフッ!?」
「ハラをふまれたからおまえは、わたしの従者、です。ちゃんとわたしに仕えろ、です」
グッと、足の裏で踏み込まれ、オエッとなりそうになりながら俺は必死に首を縦にふる。
このまま内臓破裂とかは嫌だからなっ!
そりゃもう必死に肯定したよ!
「ふふっ、そんなにわたしの従者になれてうれしいか、です。ニンゲンのくせにちょっとだけかわいいじゃねえか、です」
いや、別に成りたくて首を縦に振ってるわけじゃねえからな?
お前が脅してくるから怖くてやってるんだからな?
そう心の中で弁明するものの、俺の悲痛の叫び声に応えてくれる人は誰一人としてこの場に存在していなかった。
◆
翌朝。
血やら何やらよくわからない腐った臭いがこもった洞窟から早々に脱出をはかった俺は、結局ゲルドの血液を大量に吸収した馬車の中で一夜を過ごした。
……うん、すっげえ臭かったけど我慢したよ、俺。
唯一の救いといえば、あんまりの馬車の臭さにカイリが別の寝床を探したため同衾せずにすんだ、ということだろうか。
初めての同衾相手が、異性とはいえあんな危険な奴ではトラウマものである。
そういう点に関しては、ゲルドに感謝(?)の念が湧かなくもない。
と言っても、そもそもの話俺が石で思いっきり彼を殴ったのが原因なのだが……。
後、朝起きたときに改めてカイリの容姿を目にしたらビビった……あまりの可愛さに。
見た目は小学六年か中一ぐらいといった感じで、全体的に茶色い肩に届かないぐらいでバッサリとカットした髪の毛とクリクリした目が特徴的だ。
獣人特有のふわふわした耳と尻尾も彼女の可愛さに拍車をかけており、ロリロリしいぺったんこな胸も合わせてロリコンを落とすために生まれたかのような容姿をしている。
普段は鎖でぐるぐる巻きにされてたり、昨日は薄暗かったりしたせいでまじまじと見る機会がなかったので失念していたが……。
カイリは超絶美少女だったというわけだ。
そして、ロリコンという不治の病を患っている俺からすれば、彼女の容姿はあまりにもストライクすぎた。
……だってしょうがないじゃないか。
日本のラノベなんかほとんどロリロリしい奴しかいないし、アイドルとか女優だってそっち方面で売ってる人が多いわけだし……。
日本でロリコンの洗脳を受けてしまっている俺からすれば致し方なしというやつだ。(断言)
まぁ、それはともかく。
そんな俺の女の子の理想像とでも言うべき人から放たれた第一声はーーー
「ーーーおまえ、クサイ、です。ちょっとそこらへんで水浴びしてカラダをあらえ、です」
こんな罵倒だというのだから、現実はなかなかうまくいかないものだ。
ただ、そんな俺の意に反して、興奮で背筋がぶるっとしてしまったのは目の前の人物には絶対に内緒にしなければならない、と思った。