26.正しい野営の仕方
投稿が滞ってしまい申し訳ありません。
とりあえずは、投稿ペースを戻すことに専念します。
俺は何とかして、カイリちゃんとキーラに怒りを鎮めてもらうことに成功し、返り血で汚れている二人を綺麗にするために川辺に来ていた。
……いや、カイリちゃんの方は道中「ふんっ、ふんっ!」とか言いながら拾った石を粉砕していたので怒りはおさまっていないのかもしれないが。
兎にも角にも、二人は川辺にて服を洗うことになった。
「うぅ……っ、つ、冷たい……」
「ふん……っ」
もうそろそろ夏期に入ろうとしている帝国ではあるが、さすがに夕暮れ時はまだまだ寒い。
そんな中で、服全体に血が付着してしまっているキーラは、服を脱いで下着姿で服を洗わなければなかったため、非常に寒い想いをしている。
その一方で、数々の兵士を屠ってきたはずの実行犯であるカイリちゃんはと言えば、さすが戦闘慣れしているだけあってか、血が付着している部分は右手だけだったので、川にポチャンと手を入れるだけで終わった。
どうでもいい事かもしれないけど、まだ機嫌悪くない?
まぁ、そんな感じで俺だけ草むらの向こうで皆が服を洗い終わるのを待った後、できるだけ貴族の殺害現場から離れるために、川沿いに歩き、完全に日が暮れたあたりで野宿することとなった。
野宿と言っても、俺たちは突然街を飛び出してきた形なので、野営の準備なんて全くしてないわけで……。
テントも無けりゃ、焚き火をする火種も無い。
もっと言えば、水も食料もない状態だった。
一応、川辺にいるので水は飲めなくないが、ガチの天然水は腹を下すかもしれないしな……。
今日一日ぐらいは、耐えられるだろうという考えのもと、誰も水は口にしなかった。
よって、特に野営に際してすることもなかったのでさっさと寝てしまおう、ということになったのだが……。
ここで一点だけ問題が起こってしまった。
それは……。
「くしゅんっ……うぅ……さ、寒いです……」
そう、ほぼ下着姿身体を震わせているキーラの存在であった。
川に突っ込んでジャブジャブと洗ってしまったキーラの服は、随分と水を吸っていてとても着れる状態ではなかったので、軽く羽織る感じで道中は過ごしていた。
おかげで道中は、キーラの半裸姿を眺めることができて俺にとってはとても有意義な時間だった。
しかしながら、ただでさえ日が殆ど沈んでいるために外気が冷たくなっているのに、羽織るだけとはいえ、濡れた服は彼女の体温を奪ってしまい、先ほどからくしゅんっ、くしゅんっ、とクシャミをしていた。
さすがにこの状態で寝かせては風邪を引いてしまうだろう、ということで森人とも称されるエルフであるアルバに野営するときに寝冷えしないコツを聞いてみた。
……が。
「……私、里でいつも一人、だったから……野営とか、したこと、ない。一人で、帰れる安全圏、だけで狩り、してた、から」
「……」
アルバのぼっち生活が露呈するだけの会話となってしまった。
これにより、アルバの意見は当てにならないことが判明した。
となると、次はカイリちゃんになるのだが……。
「ふんっ……脆弱なニンゲンのことなんて、しらねぇッ、です。わたしはさむいとかんじたことなんかない、です!」
「……」
獣人は人間の数倍の身体能力を持っていると言われている。
そのため、体温も人間よりはかなり高いそうだ。
……うん、聞く相手を完全に間違えたな。
そうなると俺の前世の頃にテレビで特集していたへっぽこサバイバル技術しか残っていないだけだが……。
「……あっ」
そこまで考えて、一応案らしい案が脳裏に過ぎった。
◆
一時間後。
「はぁ、はぁ、はぁ……んっ」
「……おい、あんまり動くな」
耳朶を舐るように響く、耳元近くからの吐息に俺はくすぐったい気持ちになりながらも、キーラをぎゅっと強く抱いた。
「んふっ……」
嬌声のようなものがキーラに漏れ出るのと同時に、対面してそんなキーラの姿を眺めているカイリちゃんがギリッと歯ぎしりをした。
……端的に言えば、俺とキーラは今抱き合っている状態だった。
俺の脳内にあったサバイバル術というのは、所謂人肌の温もりで体温を上げる、という結構原始的な方法だった。
あの後、俺はすぐにその案を皆に伝え、体温が高いカイリちゃんとキーラを抱きつかせようとしたのだが……。
二人がそれを酷く拒絶したのだ。
カイリちゃんの方は暑苦しいから嫌だ、と言い張り、キーラの方はカイリちゃんの近くにいると生命の危機を感じます、とか何とか言って。
とりあえず、この二人はダメだとわかったので、じゃあアルバと抱き合えば?ということになったのだが、これもキーラが拒絶。
ーー曰く、まだ信用できない、とのこと。
この言葉にアルバは多少のショックを受けたようで、俺はメンタルケアとして頭を撫でて慰めた後、キーラの説得を試みた。
『つまり、キーラ。お前は男である俺と抱き合うことになってしまうわけだが……本当にそれで良いのか?』
『はいッ!大丈夫ですッ!!』
むしろ望むところだ、と言わんばかりのキーラの態度を見て、俺は説得を断念。
仕方なく彼女の要望通りに俺がキーラと抱き合うこととなった。
ただ、ここで問題となったのがキーラがほぼ裸であることだ。
精神年齢では俺とキーラにはそれなりに離れてはいるものの、それなりに発育の良い彼女の肉体を見て、何も感じないほど俺はできた人間ではない。
麻でできた粗悪な胸当てから溢れるキーラの胸に、劣情を催してしまうのは、健全な男としては仕方がないことであるのだ。
しかし、まだ乾ききっていない服をキーラに着せるのは、寒がっている彼女に対して鬼畜の所業であるし、何より抱き合う際、濡れた服が俺に当たるのでその不快な感触を耐えることができない。
そのため、服は乾くまで近くの木に括り付けるしかないのだ。
そうなると、暗闇の中とはいえ、下着姿のキーラと抱き合うのはハードルが高い。
よって、二人羽織みたいな体勢で最初は寝ようと思った。
……が。
『……あふっ』
『あっ、ご、ごめん……』
気が緩むと俺の手がキーラの胸に触れてしまうことが多々あってしまった。
そして、その度にキーラがくすぐったそうな声を上げ、その声に起こされたカイリちゃんとアルバにジト目を向けられる、というM向けのハッピーセットを味わうことになる。
そのため、仕方なく正面から抱き合うことになったのだが……。
「んっ、あふっ……んっ」
「……」
常時、発情しているかのようなキーラの寝息が聞こえて、俺が眠れない、という事案が発生した。
その様を見て、カイリちゃんは歯ぎしりが止まず、アルバは悲しそうな眼差しを向けてくる。
そんな二人の対面に座っている俺は、いつカイリちゃんが暴力に訴えてくるかと内心ヒヤヒヤしながら、目を閉じた。
勿論、押し当てられる女の子の柔らかな感触と、甘い匂い、そして常時聞こえてくるキーラの寝息おかげで、俺は全く眠ることができなかったのだが。