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25.異論

もう一話投稿できるかは、ちょっとわかりません……。



カイリは今、まさに怒りの絶頂にいると言っても過言ではなかった。


マティスに言われ、別に助けたくもない奴隷を一人助けるために、貴族を護衛していた数十人規模の兵を鎧袖一触し、そのまま貴族を殺害。

ついでに奴隷も解放してやり、マティスがエルフに苦戦している可能性も考えて急いで助けに向かった次第であった。


しかし、彼女が目の当たりした光景は敵であるはずのエルフとイチャイチャしているマティスの姿だった。

しかも、あれほど出血が酷かった身体だったというのに今ではピンピンしている。


おそらく彼が言うところの異能、というものの力なのだろうが……。

だとするならば、先ほどの窮地に陥ったような顔つきは詐欺(フェイク)

そして、自分はその詐欺にまんまと引っ掛けられたというわけだ。


カイリは生まれてこの方見下されたことがない。

そのため、大抵の獣人は自分よりも下の立場にあると考えている。

それが他種族の、それも最も基礎身体能力が低いと言われている人間であるならば尚のことだ。


そんな人間に騙されたという事実と、自分が良いように利用されたという彼女自身の認識が、激しい怒りを抱かせてしまった。


「あっ、えっ……と、お疲れさま!二人とも、怪我はなかったか?」


返り血の滴る右手をぎゅっと握り込んでいるカイリの姿を見て、相当ご立腹だと感じたマティスは、すぐさま二人に対してご機嫌取りを行った。


「……別に。これはぜんぶ、あいつらの返り血だ、です。ケガは、そこの奴隷もふくめてない、です」


「そ、そうか……。じゃあ、とりあえず追手が来るかもわからないから、この場を離れることにしようか。二人とも、血で汚れて気持ち悪いだろうし、川にでも行こう」


二人に発言をさせないよう、口早に彼はそう言った。


何十人と人を殺したカイリは勿論の事、その殺害現場にいたキーラにも大分血がかかっていたので、マティスの提案に異議はない。


だがーー


「ーーおまえ、そのエルフはどうする気だ?、です」


「……先ほどまでは敵対関係にあったはずですよね、お兄様?」


黒と茶色をした四つの目がマティスを射抜く。


その威圧感に、彼はグッと、呻きながら二、三歩後ずさったが、よくよく考えれば自分にやましい思いがあってこのような行動に移したわけではないことを思い出して、正直に説明することにした。


「……あ、あぁ、こいつな?名前をアルバって言ってな。あの赤髪の貴族に無理やり奴隷にされてたみたいで、さ。ちょっと可哀想だったから俺の能力で解放してあげたわけですよ」


しどろもどろになりながらも、できるだけ簡潔に説明するマティス。

それに対して、二人は冷たく話を促す。


「「ーーそれで?」」


「えーっと、ですね。アルバを解放したは良いけど、こいつも俺たちと同様行き場がないみたいでさ……。一緒に獣人国に行かないか、って誘ったんだけど……」


「しかし、私たちは今や追われる身です。アルバさんのことを考えてあげるならばむしろここで置いていくべきでは?でないと、私たちの騒動に巻き込んでしまいますよ?」


「いや、でもアルバは悪魔憑きだって言われて故郷で差別されてたらしくてさ……」


「ーーッ!?」


マティスの悪魔憑きという言葉に反応して、キーラがグリンと首を回してアルバを見つめた。

それに対して、アルバは若干怯えながらも肯定の意を込めて頷いた。


「……そうですか、わかりました。それでは仕方ないですね。とりあえずは、行動を共にするべきでしょう。ーーカイリさんも良いですね?」


「……わかった、です」


以前、悪魔憑きとして村で迫害されていたキーラからすれば、アルバの気持ちは痛いほどよくわかった。

そのため、ここで彼女を野に放ったところでまた別の誰かに迫害されるだけであろうことも容易に想像できた。

そんなアルバにとって悪魔憑きだらけのこのパーティが唯一の心の拠り所であることも、キーラにはすぐにわかった。


そんな彼女に対して、他のパーティをあたってくれ、というのはあまりにも酷な話だろう。

そう思ったキーラは、マティスの行動にも理解を示し、賛同する構えとなったのだが……。


その考えに唯一納得できていない人物がいた。

それはカイリである。


悪魔憑きではない、ただの奴隷だった彼女からすればこれ以上のお荷物を背負うのは理論的にも心理的にも納得できない話であるし、何より元々このパーティは自分とマティスだけだったはずだ。

それがいつの間にかに勝手に群がってきて、四人になっていた。


カイリからすれば、黒髪の奴隷(キーラ)エルフの奴隷(アルバ)も要らない存在だった。

従僕(マティス)一人いれば良かったのに……。


よって、カイリの怒りは全く収まることがなかったのだが、ここで感情に任せて意見を出したとしても、前みたいにマティスと決別しておしまいである。

貴族を殺してしまった以上、単独での行動は更に危ういものとなってしまっているのは目に見えている。

だからこそ、カイリはキーラの決定に対して何一つ異論を唱えることなく、彼らの後を追った。


……その身にドス黒い不満を抱えながら。



追記:9月8日の投稿は諸事情により、延期します。9月7日の分も含め、色々と溜まってしまっていますが、何とか今月中に投稿できるようにします。度々、更新が遅れてすいません。

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