23.何でも開閉できる能力
ギリギリ間に合った……。
幼い頃、俺の能力は鍵を開け閉めできる能力だと思っていた。
だから、色んな鍵穴に鍵をさしてみたり、色んな空箱に南京錠にかけて閉めてみたりを繰り返していた。
しばらくしてみて、使えない能力だなぁ、と落胆していた。
鍵が付いている物なんて貧困に喘いでいる村ではそんなにないし、あったとしてもほとんどが空箱。
というか、無理にでも開けたければ斧でも使って叩き切ればいい話だ。
泥棒になってみようかとも思ったが、鍵付き宝箱が保存されている場所なんて王族とか貴族の宝物庫しかない。
そして、大抵そんなところは警備が厳重で、そもそも宝箱の前まで辿り着くことが困難だ。
そんな苦労をするぐらいなら、一生貧相な農民生活を暮らしている方が数倍マシな気がした。
だから、使えない能力だと思っていた。
ーーだけどそれは俺の勘違いだった。
俺はあの日、自分の能力の価値が一変した。
ある日、いつも通りに自分の家へと入ろうと扉に手をかけたところで、建てつけが悪かったのか、扉がビクともしないことがあった。
その日は、農作業で疲れていたから俺は前世の癖でつい鍵穴のない扉へ向けて鍵をさした。
そう刺さったのだ。
そして、俺が右にひねるとガチャリ、と音がしてゆっくりと扉が開いたのだ。
その時はまだ、寝ぼけている状態だったので、扉が開いたことに何の感慨も抱いていなかったのだが、後でそのことを思い出して年甲斐もなく興奮したものだった。
ーー俺の能力にはまだ何かある!
何だか、自分の人生に光明が差した気がしたのだ。
その後、俺は色んな物を開けたり閉めたりした。
例えば、破れてほつれた服。
横がバッサリと裂けていて、痩せ細った脇腹がもろに見えてしまっていたが、これを閉めた途端に服が縫われたかのように綺麗にくっついた。
その他にも、邪魔な岩をどかそうとして鍵を差し込んでみると、ガチャリという音がして岩に空洞ができたり、胴体から腕が取れてしまったぬいぐるみを閉めてくっつけたりと、様々な日常生活に貢献した。
まさに万能。
故に、俺はその鍵に全知全能の名を付けた。
しかし、それはまたしても誤算だった。
俺の鍵はあくまで無生物限定。
人や犬みたいな動物はもちろんの事、草木にすら適用することはできなかった。
なるほど、やっぱりそれなりに欠点はあるんだなぁ。
そのときは、そんな感じに軽く捉えて思考を前向きにするようにした。
これだけできれば十分。
こんなに色々出来るんだから、将来は安泰だな。
だから、しばらくは農作業に専念しよう。
そう考えて諦めていた、異能を人に及ぼすという俺の夢物語は、約5年後に叶うことになる。
そう、カイリちゃんが教えてくれた氣の力によって。
普段はダイヤのシンボルを刻んだこの鍵は、氣を纏わせることでスペードのシンボルを持つものへと変化する。
最初はこの変化に違和感を覚えてはいなかったのだが……この能力が人体、ひいては生命体に影響を与えることができる鍵だと、すぐにわかった。
そう、つまりは俺は生物に対しても開け閉めできるようになったということだ。
◆
「……何、これ?」
「さぁーて、何だろうなぁ?」
初めて聞くエルフの声に少しだけ感動しながらも、俺は努めて冷静さを装ってそう返事をした。
白髪のエルフは自分の足に括り付けられた鎖と鍵が一体になった物をジャラジャラとならして外そうと試みる。
しかし、俺の『金城湯池の施錠』はビクともしない。
やがて、外すことを諦めて鍵を付けたまま走ろうとするが、片足が棒のようになっていて全く動くことができない。
俺はその間に、脇腹の傷を閉じるため自分の身体にもロックをかける。
「……んっ」
「なぁ、ちょっとだけ話さないか?」
しばらくして、エルフがカイリちゃんを追うことができないと諦めたのを見計らって俺はそう問いかけた。
「……話し合い?」
「そうそう、話し合い。俺、なんであんたが奴隷になったか気になるんだよな」
「……でも、命令」
「まあまあ、そこは俺が何とかしてやるからさ」
俺はそう言って、エルフの身の上話をさせようとする。
……少しコミュ障っぽいな。
あんまり、長文は話せないようだ。
俺を信用してくれたのか、それとも自分の命を諦めたかは知らないが、しばらくして彼女は自身のことを語り始めた。
「……私、村にいた」
「うんうん、それで?」
「……狩り、やらされて、でも、嫌われて」
「うんうん、そして?」
「ーー森を、出た」
……へ?森を出た?
なんかいきなり話が飛んだからよくわかんねえッ!
このエルフは皆に言われて狩りを行っていた。だけど、嫌われて森を出た?
……いや、やっぱりよくわからんな。
「何で嫌われたんだ?」
「……髪と目の色、皆と違う、から」
「……なるほど」
そう言われれば、エルフとかは皆緑色の髪と目をしていると村の人たちが言ってたっけ?
それに対して、目の前のエルフは白髪に赤い目をしている。
「……皆、私のこと、邪神の部下、だって。……異教徒だって、言って私、嫌われた」
「……そうか」
アルビノ、という現象なんだろうか?
地球でもこれと似たようなやつを知ってる気がする。
確かメラニン色素とかが不足しているかなんかでなる突然変異的なやつだよな……うろ覚えだけど。
なるほどね、だとすると目の前の超無表情なエルフさんは今まで迫害されて生きてきたわけだ。
それはさぞかし辛かっただろうなぁ。
俺は慰める意味を込めて頭をポンポンと撫でてやる。
「……?」
「いや、大変だったな、と思ってさ。それで?その後、どうして貴族の奴隷になんかなったんだ?」
森では異教徒扱いかもしれないが、少なくともこの国ではそんな話聞いたことがない。
第一髪が白いだけで異教徒扱いなら、老人は皆死なないといけないことになる。
そんなことを考えながら、彼女に奴隷になった理由を聞くと、何とも不可解な答えが返ってきた。
「……わからない。いつの間にか、なってた」
「奴隷になってたのか?一瞬で?」
「……ん」
何じゃそりゃ。
いつなったかもわからないんじゃ、お手上げだな。
ま、別に目の前のエルフがどうやって奴隷になったかなんてどうでもいいんだけどさ。
……本題はこれからだし。
「まぁ、その話は置いておくとして。とりあえず、これだけ聞いておくか。奴隷から解放されたいか否か?選んでくれるか?」
「……奴隷から解放?もしかして、手伝って、くれるの?」
「おう。お前みたいな美人があんな奴の奴隷なんて、俺としてもあんまり嬉しいモンじゃないからな」
「……び、美人って、私のこと?」
「そうだけど?というか、他に誰がいるんだよ」
「……そう、ありがとう」
「どういたしまして?」
いや、何がありがとうなのかよくわかんないけどな。
ただ、さっき故郷の話をしてくれたときに彼女自身は迫害されて嫌われていた、と言っていた。
だとするならば、もしかして人に褒められ慣れてないのか?
それならば、頬を林檎のように赤く染めているこの態度にも納得がいく。
……一応、好感度稼ぎのために些細なことでも彼女を褒めるようにしておくか。
「よし、じゃあとりあえずその邪魔な首輪を外すとするか」
「……ありがとう。でも、この首輪の鍵……どこにあるか、わからない」
「大丈夫、大丈夫。俺には『全知全能の解鍵』があるからよ」
そう言って、俺は口角を吊り上げてみせた。




