21.交渉決裂
今日は調子が良いのでもう一話投稿しようかなぁ、と考えてます。
絶対ではないので、期待しないでください。
「マティスさん、貴方宛に指名依頼がきています」
明けて翌日。
昨晩は、美少女二人とベッドを共にするというリア充イベントが発生していたのだが、俺はその幸せを噛み締めることなくすぐに寝た。
案外、ラージワーム討伐により疲れが溜まっていたようだ。
そのおかげで、今朝は全く異性として認識してもらえなかったとふくれっ面になっている二人を目撃したのだが、宿で朝食を済ませたらそれも収まっていた。
昨日でそれなりに資金を稼ぐことに成功していた俺たちだったが、俺たちは圧倒的に生活必需品が不足しているので、それらを買うためにしばらくはここで冒険者活動をすることにした。
今のところ、急務なのが女の子二人の衣服の購入だ。
カイリちゃんは散々、奴隷の脆い服で暴れまくったおかげか、全体がボロボロの状態だ。
特に下半身部分の損傷が激しく、太ももなんかは丸出しである。
本人は特に気にしてないようだが、肉体年齢が思春期真っ只中である俺からすれば目の毒になるので、できればもう少し防御力の高い服に着替えてほしいところだ。
走った拍子に服がめくれ上がってパンツ見えてるし……。
その点、キーラの衣服は多少汚くはあるものの、下半身部分の損傷は殆どない。
それなりに丈も長いので、太ももに視線が移ることもあまりないのだが……。
その代わりに上半身部分が酷い。
お腹周りはボロボロと虫食いのような穴が空いていて、ヘソがチラチラ見えてしまうし、
袖はもともとないからノースリーブ状態だ。
挙げ句の果てには、胸元はVの字にザックリと裂けているから屈んだときとかガッツリと胸が見えちゃってしまっている。
だから、俺の精神的な負担だけで言えばどっこいどっこいというわけだ。
もちろん、日常的に女の子のパンツや胸が見れるのは嬉しいことではあるのだが……。
男の俺が際どい服を着ている女の子二人(しかも、首輪付き)を連れ回している光景というのは、どう考えても他所様に不埒なイメージを持たせてしまう。
周りから、俺が変態である、という誹りを受けてもおかしくない、というわけだ。
そのため、そんな誹謗中傷を避けるためにも今日も意気揚々とギルドにやってきたのだが……。
来た途端にクレールさんに言われた第一声が冒頭の一言である。
「指名依頼……ですか?」
「はい、本来はランクC以上の冒険者が承る依頼ですから……一応、未だ駆け出しのランクであるマティスさんには必要ないかと思い、説明していなかったのですが……」
そう言って、クレールさんは農民上がりの俺にも理解できるよう懇切丁寧に説明してくれた。
指名依頼とは、ギルドを介して行われる個人契約のようなものらしい。
依頼内容は、要人の護衛のような難易度が高いものから、薬草採取のようなそれこそ俺たちでもできそうな難易度のものまであるらしい。
ただ、今までの依頼と違って指名依頼を出すのは主に大企業の商人や貴族などの富裕層が主である。
そのため、依頼を何度か成功し依頼主に認めてもらえば大商人とパイプが繋げたり、貴族に側仕えになったりと冒険者の出世のチャンスとなるらしい。
「普通はもっと実績を積んでからアプローチがかかると思うんだけど……とある貴族様に是非合わせてほしい、って頼まれたものですから……。一応、断るわけにもいかなくてですね……。ギルドの応接室にいらっしゃいますので顔合わせだけでもしてもらえませんか?」
「まぁ、別に構いませんけど……」
「すみません、ありがとうございます」
そうやってお辞儀をしてくるクレールさんに「いえいえ」と返しながら、質問をする。
「奴隷を連れていっても大丈夫でしょうか?」
「こちらが問い合わせたところ、是非に、とのことでしたので、問題ないかと思います」
「……わかりました」
貴族なのに奴隷の同席に対して、是非に、って返したのか?
なんかそれ、おかしくないか?
俺のイメージだと貴族っていうのは選民意識が強くて、下の者に強く出る、って感じの奴で……。
それこそ、奴隷どころか平民とすら顔をあわせるのを嫌う傲慢不遜な感じなんだけどな。
状況を全く理解していないであろう呑気な表情を浮かべているカイリちゃんと、これから貴族に会うということで緊張した様子のキーラを眺め、思考を中断する。
ま、とりあえずなるようになるだろう。
クレールさんに案内されながら、俺はそう思った。
◆
「その黒髪の奴隷を金貨50枚で買ってやるから、我に譲れ」
開口一番、男はそう言った。
「……は?」
「ん?愚鈍な庶民には貴族の言葉が聞き取れなかったかね?ならば、改めてもう一度言うとしよう。しっかり聞きたまえよ。貴様の右隣にいる黒髪の奴隷を我に売れと言っているのだ」
今度ははっきりくっきりとそう言った。
ギルドの応接室。
備え付けられた黒いソファのような椅子が2脚、上品な木製の机を挟んで並んでいる。
片方には俺たち四人(クレールさん含む)、そしてその対面には貴族と思しき赤髪のおっさんが座っている。
おっさんの様相は、正しく俺が想像した通りの傲慢不遜って感じの貴族だ。
今も対面に自身が呼んだ冒険者が座っているというのにも関わらず、足を組んで偉そうにふんぞり返っている。
そして、彼の後ろには白髪の美しい女性が立っていた。
スレンダーな体躯と長い耳からするに、あれが噂のエルフという奴なのだろう。
男の護衛役なのか、部屋に入ってきてまだ一言も言葉を発していない。
本来ならば、今世いや前世も含めて初めてのエルフ発見ということで狂喜乱舞したいところだが、場の緊張感がそれを許してくれない。
俺は怒りで血が上ってしまっている頭を落ち着かせるように頭を掻くと、一拍置いてから質問をした。
「……私は指名依頼ということでここに来たのですが。依頼の方はどうなされたので?」
「だから、何度も言っておろうが。そこの黒髪の奴隷を我に売ること、それが貴様の依頼だ。簡単であろう?」
いやいや、何言ってんだよこのおっさん!
仲間を人身売買にかける依頼なんて聞いたことがないんだけど?
そんな意を込めて、この場に仲介人としていてくれるクレールさんに視線を向ける。
当然、彼女は首を横に振って依頼が成立しないことを教えてくれる。
「ルベル様、そういった依頼は当ギルドでも受注することはできませんので、依頼の撤回をお願いいたします」
「ふんっ……頭の固い奴め」
そう言って、不服そうにするものの一応は撤回の体を成した。
良かった、これで一件落着だ。
だが、そんな俺の想いは次の一言で踏み潰されることになる。
「ならば、運搬の依頼を出そう。そこの冒険者、貴様にその黒髪の奴隷を運搬する仕事を与えてやる。成功報酬は金貨50枚。場所はーー」
「ーー黙れよ、おっさん」
俺の呟いた一言でその場の空気が凍りついた。
「な、なっ……き、貴様、誰に口をきいてーー」
「ーーだから、黙れっての!」
ーーバシィッ!
最近、獲得したばかりの氣が俺の怒りに反応し、近くにあった机にヒビを入れた。
明確な貴族への敵対行為。
その行動に顔を青ざめるキーラとクレールさんを見て、俺も内心ではちょっとマズイかもしれない、と思った。
だけど、今更引くことはできなかった、否、そもそも引く気がなかった。
「お前が奴隷をどう扱おうが知ったこっちゃないが……俺の奴隷に手を出すのは道理が通らないと思うんだけどな。いや、まぁお前がどれだけ偉いのか知らんがーー」
「ーーッ!?」
「ーー仲間に手を出すなら容赦しないからなッ!」
バァンッ、と机を叩くと、それに反応してエルフのお姉さんが男を庇うように前に出てきた。
これ以上は話し合いをしても無駄だな。
そう思った俺は、プルプルと小刻みに震えている男を後目に、カイリちゃんとキーラを連れ立って応接室を後にした。